「名前ちゃん、こんにちは」

そんな声が聞こえたと思って振り返るとそこにはいつやってきたのか昆奈門さんが片手を上げて立っていた。
うーん、いつも思うけどやっぱり忍者ってすごいなあ。
いつの間にか後ろにいていつの間にかいなくなってるし。
あ、でも昆奈門さんが特別なのかもしれない。
ほんとうは忍術学園の中に侵入するのって難しいはずだって伏木蔵くんが言ってたし。

「…もしかして昆奈門さんって実はすごいひとなんですか?」
「また唐突な質問だね。どうしたの?」
「いえ、昆奈門さんがいつもシュッときてバッといなくなるので」
「シュッときてバッといなくなるね…まあ忍者なら出来て当たり前かな。とはいえこれでも一応組頭を任されている身だしそれなりに優秀なつもりだよ」

ええと、組頭って「頭」っていうぐらいだからもしかしてけっこう偉いひとなのかな。
お城の忍者の頭かあ…じゃあやっぱり昆奈門さんってすごいひとなんだ…。
きっとお城では部下のひとをビシバシ鍛えて指示とか出してるんだろうなあ。

…ん?でも昆奈門さんて二日か三日置きぐらいのペースでここに来てくれてる…よね?
仕事やってる時間あるのかな。
無理して遊びに来てるんじゃ…。

「…名前ちゃん」
「はい?」
「私の部下は大変優秀でね。私一人いなくとも仕事は回るんだよ」
「そうなんですか?」
「そうなんです。だから君は何も気にせず私にお茶をいれて一緒にお菓子を食べてくれればいいんだよ」
「それはもちろん大歓迎です!」

優しい笑顔で気にしなくていいと言ってくれた昆奈門さんに元気よく答えれば、昆奈門さんはよしよしいい子だねなんて言ってくれた。
なんだかとっても子ども扱いされてる気がしてならないけど悪い気分じゃないし良しとしよう。
この間伏木蔵くんにもよしよし名前さんは偉いですね〜なんて言われたし、昆奈門さんによしよしされるぐらいなんてことないのだ。
…あれ、もしかして私って伏木蔵くんより子どもみたいな扱いされてる?
確かにこの世界の常識はあんまり知らないけど、自分の世界の常識はちゃんと守れてたと思うんだけどな…。

「…まあいいか。あ、昆奈門さんお茶どうぞ」
「うんありがとう」

考えても仕方ないので思い悩むのはとりあえずやめにしてお茶をひとくち。
うんうん、だいぶお茶を淹れる腕前も上達したなあ。
はじめはお茶以前の問題として火の起こし方すら分からなかったんだよね。
伏木蔵くんが一生懸命説明してくれて何度も失敗しながらようやくひとりで火を起こせるようになって…気合いをいれて出したお茶が激ニガで伏木蔵くんも昆奈門さんも涙目になってたっけ。
うん、そのことを考えたらやっぱり上達したと思う。

「ふう…名前ちゃんが美味しいお茶をいれてくれて幸せを感じるよ」
「あ、私も今おんなじようなことを考えてました。自分で言うのも何ですけど上達しましたよね!」
「うん、毎日飲みたいぐらいだ」
「あはは、来てくれればいつでもいれますよー」

褒められたのが嬉しくて照れながら言えば昆奈門さんはなぜか無言でお茶をすすった。
うーん、何でだろう。

「名前ちゃんてさ、」
「はい?」
「誰かと恋仲になった事ないでしょう」
「えっなんで分かるんですか?」
「いや分かるよ」

しかしそうかキムスメか…なんてちょっと嬉しそうに昆奈門さんは呟いてまたお茶をすする。
キムスメって何だろうと思ったけど、聞く前に昆奈門さんがお土産のおまんじゅうを出してくれたので聞きそびれてしまった。

…数日後、ふとキムスメという言葉を思い出した私が伏木蔵くんに聞いて、伏木蔵くんが友だちに聞いて、その友だちがすぐ上の学年の子に聞いて、その子が上級生に聞いて…と忍術学園中に広まり、ちょっとした騒ぎになるのはまた別のはなし。

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