俺が所属する用具委員会の委員長、食満留三郎先輩は天女さまの名前さんが忍術学園にいらしてからというもの、彼女にべったりだ。
名前さんはお優しくて、バカ左門とアホ三之助の捜索を手伝って下さったり落とし穴に落ちている数馬を助けて下さったりと素晴らしい方だ。
ご本人は天女じゃないと否定しているけど、俺はやっぱりあの方は天女なんじゃねえかと思う。

まあそれはともかく、俺はそんな名前さんに食満先輩がべったりし過ぎている気がしてならない。
朝は必ず名前さんと朝食を食べているし、名前さんがいれば駆け寄っていくし、休日は名前さんのところへ行っているらしいし。
食満先輩は良い先輩だとは思うが、四六時中一緒にいられたらさすがに名前さんだって迷惑だろう。
実際、名前さんが嫌そうな顔で食満先輩を見てんのをよく見かける。

そんな事を考えながら食事の盆を持ったまま食堂から出てこうとする左門と三之助を席に着かせていると、ちょうど名前さんと食満先輩が食堂に入ってくるところだった。
二人は一緒に来たみてえだが優しい名前さんが顔をしかめて食満先輩を追い払う仕草をしている。
見るからに迷惑そうな顔だ。

「おい見ろよ、名前さんの嫌そうな顔」
「おお、本当だ。名前のあんな顔見た事ないぞ!」
「いやお前らを見る名前さんの顔もだいたいあんな感じだろ」

二人の様子を見ながらこそこそ話し、まるで迷惑をかけてる自覚がない三之助と左門にツッコミを入れてため息をつく。
まったくこいつらは…。
いや、そんな事より名前さんたちだ。
食満先輩があんまり名前さんに迷惑かけてんなら俺が助けねえと。
食満先輩は怖えけど、いつも俺の愚痴を聞いて励ましてくれる名前さんの力になれるなら頑張らなきゃならねえ。

そうと決まればまずは情報収集だ。
食満先輩が名前さんの迷惑になってんのか違うのか、そこを見極めが肝心だ。

「あーもう、本当にいい加減にして!」
「一度だけでいいんです!たった一度で満足しますから!」
「絶対に嫌だね!」
「お願いします!一度だけ!」
「しつこい!」

聞き耳をたててるとどうも食満先輩が何かを名前さんに頼んでいるが名前さんは断固拒否してるらしい。
名前さんがあそこまではっきり拒絶するって事は相当無茶な頼み事でもしてんのか?
よし、だとしたらすぐにでも食満先輩を止めて…

「…って、えっ?」
「おおー、大胆だなあ名前さん」
「でもすっごく嫌そうな顔であーんしてあげてるな」
「ゴミを見る目だよな」
「虫を見る目だな」
「お、お前ら!先輩をゴミだの虫だの言うんじゃねえ!」

と、一喝したものの、確かに名前さんは明らかに不本意だと言わんばかりの表情で食満先輩におかずを箸でつまんで差し出している。
しかも今にも死ねよとか言いそうなほど、怒りと殺意に満ちた目…そ、そんなに嫌なのか…?

「…これで満足?」
「はい!ありがとうございます!」
「ならもう人に付きまとって延々とあーんして下さいって言うの止めてよ!?」
「もちろんです!」

名前さんの怒声もどこ吹く風、食満先輩は生き生きとした表情で名前さんに返事をしている。
名前さんはそんな食満先輩に疲れたようにうなだれてまったくもう…と呟いた。

「ほら、さっさとご飯食べたら?午後から実習なんでしょ」
「はい!頑張ってきます!」
「はいはい、怪我のないようにね」

そんなやりとりをして食事を再開する二人になんだかなあ、と思う。

「名前さんって優しすぎるよな」
「ああ、もし僕が名前の立場だったら食満先輩に頭突きをしている」
「お前らなあ…!」

仮にも先輩だっつーのに…。
まあ名前さんが優しすぎるってのは同意するけどな。
あんなに甘い対応してるから食満先輩にぐいぐい押されて要求飲まされてんのにありゃたぶん気付いてないだろう。

「まあ名前さんだししょうがないよな」
「ああ、名前だもんな」
「…そうだな」

三人で頷き合って名前さんたちをもう一度見ると、どうやら調子に乗った食満先輩が名前さんに箸でつまんだおかずを差し出してあーんしようとした結果、殴られたところだった。
…うちの委員長が本当に申し訳ありません、名前さん。
今度名前さんにお詫びの品を持って謝罪に行こうと心に決めたとある日の出来事である。


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