空から降ってきた自称未来人、通称飛天様とやらがやってきたのは半月ほど前になる。
そんな飛天様は自分の時代に妹がいて、その妹が名前に似ているらしい。
妹を溺愛していたらしい飛天の野郎が妙に名前になれなれしい!くたばれ飛天!消え去れ飛天!はっ倒すぞ飛天!
…なんて、勘右衛門が憤っていたのがつい昨日の事な訳だが、今現在俺はようやくその飛天様がかなりの頻度で名前に付きまとっている事を知った。

「最近名前と何も話せてない、もう飛天様が憎くて仕方ない、なんてタカ丸さんが火薬委員会の活動の度に言うから俺もまいっちゃって…」

と、疲れた顔で話す兵助に相槌を打つのが三郎。

「私も委員会の度に勘右衛門がぐちぐちぐちぐちと飛天様に対する恨みつらみを言うからげんなりしているんだ」

それに続いて雷蔵までもがそう言えば、と目撃談を話し出す。

「名前ちゃんが図書室に本の返却に来る時は必ずついてきてるなあ」

そこまで聞いてからそういやこの間名前が飛天様から逃げて飼育小屋で隠れていたな、なんて話したところでスパーン!と勢いよく俺の部屋の障子が開けられた。

「お前ら!名前の兄は誰だ!?」
「は?いきなり何だよ勘右衛門」
「答えろ!名前の兄は誰だ!?」
「誰って…勘右衛門に決まっているだろう?」
「じゃあ何であいつが名前に付きまとってにこにこしてんの!?意味分かんないよ!しかも兄だと思って接してくれとか言っちゃってさあ!名前には俺という兄がもうすでにいるんですけど!?」
「お、落ち着いて」

雷蔵が驚きながらもまあまあと宥めてやるけど勘右衛門の怒りはまったく収まらない。
それどころか落ち着けるか!と叫んで地団太を踏む始末。
揚げ句、そんな勘右衛門の様子を黙ってみていた兵助がすっと無表情で立ち上がった。

「…やるか」
「お、おいっ、落ち着け兵助!お前まで何言ってんだよ!」
「俺はこれ以上耐えられない…タカ丸さんと勘右衛門から毎日毎日愚痴を聞かされる生活…もう嫌なんだ!」

カッと目を見開いた兵助の目は血走っていた。
もう何も言えねえ。

「名前とタカ丸さん、そして俺の為に!立ち上がれ愉快な五年の仲間たち!」

呆れた顔の三郎と困り顔の雷蔵、それから乾いた笑いしか浮かべられない俺をよそに勘右衛門と兵助は燃えたぎっているのだった。

それから数刻後、俺たちはさっそく飛天様を排除するべく名前の様子を伺っていた。
というのも飛天様はお使いに出ているらしく、学園内に姿が見あたらなかったのだ。
正直言って飛天様は名前にやたらと構ってる以外は普通だし、俺としてはこのまま今日は会わずに済めばいいなあと思う。
そうすれば勘右衛門たちも少しは落ち着くだろうし…。

…それに何より仲良く喋っていちゃつくバカップルを長時間見張るのが辛い。
辛過ぎる。
タカ丸さんは久しぶりにゆっくり話せてるからか無駄にべたべたしてるし、名前は名前でそれを嬉しそうに受け入れてるし、なんかもうごちそうさまですって感じだ。
泣きたい。

「何か俺、むしろ段々あの二人に苛ついて来てるんだけど」
「奇遇だな八左ヱ門、私もだ」
「放っておくのが一番いいんじゃない?」

そんな風に飽き始めたろ組の俺たちをよそにい組の二人は真剣な顔で二人を見守って騒いでいる。

「名前…お前の幸せは兄ちゃんが守るからな!」
「タカ丸さんあんなににこにこして…!これで明日の委員会では愚痴られずに済む…!」

兵助に関しては切実過ぎて胸が痛くなった。
可哀想に、本気で疲れてるんだな…。

「…お?勘右衛門見ろ、向こうから飛天様が来るぞ」
「総員準備しろ!今より飛天の排除作戦を開始する!」
「了解!」

ノリノリない組に呆れながら、空気を読まずにタカ丸さんと名前のところへ行って話しかける飛天様を見据える。
まあ勘右衛門たちはともかく、タカ丸さんとの時間が作れないって嘆く名前のためにちょっと頑張るか。

「行くぞ!」

勘右衛門のかけ声に従って隠れていた茂みから飛び出した俺は飛天様を抱え上げて走り出した。
三郎は残って名前とタカ丸さんに状況の説明、雷蔵は小松田さんに外出届けの提出へ、勘右衛門たちは俺に続いて学園の外へ。
そのまま裏山まで走れば後はスピードを落としても大丈夫だろう。
やたらとくのたまに人気がある飛天様を無理やり外に連れ出したと知られれば色々とマズい。
その為、迅速な行動に出たが上手くいったようだ。

「さて、ここらでとりあえず説明するか」
「そうだな…。飛天様、突然お連れして申し訳ありませんでした」

兵助が頭を下げて、未だに状況が理解できていない飛天様に説明をする。
まあもちろんその説明ってのは俺たちが事を上手く運ぶ為に考えた嘘なんだけど。

俺たちが考えた嘘は飛天様の為に名前が新しい仕事を探して来たというものだった。
今後いつ元の場所に帰れるか分からないのだからいつまでも忍術学園にいる訳にはいかない。
一人でも生きていけるように忍術学園の外で仕事をして欲しい。
そんな名前の思いを汲んで、名前が見つけた働き口で頑張って下さい、と兵助が真面目な顔で話せば飛天様は涙目で名前…!と感動したように呟いた。
やっぱりこういう役は誠実そうな兵助に限る。
勘右衛門だとちょっと軽い感じになるし、何より兵助が説明してる後ろでぎりぎり歯を食いしばってる勘右衛門がそんな役を出来る筈がない。
きっとテメェ如きが名前の愛情を向けられるとか勘違いしてんじゃねえぞクソが!とか思ってたりするんだろうなあ…。

まあそんな勘右衛門は放っておいて、兵助の話に納得した飛天様は新しい仕事を頑張ると決意してくれたのでさっさと案内してさっさと帰ってきて、数日がたった。
勘右衛門の機嫌は良いし、タカ丸さんと名前は仲良くラブラブしてるし、お陰で兵助も元気になったしで言う事なし…の筈だったんだけど。

「名前って愛されてんなあ…」

遠い目でそう呟く俺の視界には名前と出かけようとしていたのを邪魔され怒り心頭なタカ丸さん、名前に会いに来たらしくにこにこしてる飛天様、そしてそんな飛天様を殺しかねない勢いで睨みつける勘右衛門の三人が映っていた。

「名前!会いに来たぞー!」
「名前ちゃんは今から僕と出かけるんで帰って下さい!」
「人様の妹に軽々しく近寄るな飛天!」

…うーん、こりゃ明日の兵助は寝不足になるに違いない。
そう確信したとある騒がしい休日。


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