「あの、すみません。名字名前先輩ですよね」

狼たちの食事の準備中、そう声をかけられて振り向いたら一年生の忍たま二人が真剣な顔で私を見ていた。
ええと、誰だろうこの子たち。
たぶん話した事はないと思うんだけど。
そう思いながらとりあえず頷いて肯定すれば二人はいきなり申し訳ありません!と頭を下げた。
えええ、この子たち私にいったい何をしたっていうんだ。
謝られるような事はされてないと思うんだけど…。

「あ、あの…?」
「いきなりで驚かれたと思いますが、虎若たちから話を聞いてどうしても謝罪したくて…」
「僕たち、一年い組と一年は組の学級委員長なんです」
「えーと、何で学級委員長の二人が私に?別に佐武くんたちに迷惑かけられたりしてないよ?」
「いえ、名字先輩に迷惑をかけているのは虎若たちじゃなく…」
「学級委員長委員会の鉢屋三郎先輩です」

苦笑いで出された名前にああ…と納得する。
鉢屋三郎くんと言えば私に熱烈アピールをしてくる忍たまの五年生だ。
学級委員長なのは知らなかったから全然思い至らなかったけど、ようはこの子たちはわざわざ同じ委員会の先輩である鉢屋くんの暴走っぷりを謝りにきてくれたらしい。
別に関係ないといえば関係ないのにしっかりした子たちだなあ。

「あ、でも最近は少し落ち着いてきたんだよ」
「そうなんですか?」
「うん、友達になったから一応友達として接してくれるし」
「…一応、っていうところに不安が残りますね」

い組の学級委員長らしい子が心配そうにそう言ってくれて、私も苦笑いを返す。
何でかと言えば鉢屋くんは前みたいに恋人だとか私が鉢屋くんを好きとかそういう設定は改めてくれたけど、好き好きアピールは相変わらずだからだ。
もちろん好きと言われて悪い気はしない。
しないけど…でも鉢屋くんと恋人になりたいとはやっぱりまだ思えないでいた。
勢いが凄すぎてなんか、こう…怖いというか…。

「まあうん、とにかく心配してくれてありがとう」
「いえ、鉢屋先輩がご迷惑をおかけして本当に申し訳ありません」
「何かあったら僕たちも力になりますからいつでも言って下さい!」
「二人とも優しいね。…あ、ところで二人の名前は?」
「あ、失礼しました。僕は一年は組の学級委員長、黒木庄左ヱ門です」
「一年い組の学級委員長、今福彦四郎です」
「黒木くんに今福くんだね。知ってるみたいだけど、私はくのいち教室五年の名字名前です。よろしくね」

二人の頭を撫でながらそう言えば、黒木くんと今福くんははい!と元気な返事をしてくれる。
いい子たちだなあ。
きっと鉢屋くんが反面教師になってるんだろうなあ…。
二人とも、好きな人にあんな風に接する青年になってはいけないよ…。
母親のような気持ちでそんな事を考えていたらドサッと何かが落ちる音が聞こえた。
何だろうと思って音のした方を三人で見る。

「…鉢屋くん?」

そう、そこには私たちの話題にのぼっていた鉢屋くんが口元を押さえながら立っていたのだ。
しかも何故か鉢屋くんは俯いてぷるぷる震えている。
な、何だろう…。

「鉢屋先輩、どうかしま、」
「ここは天国か!」

不審そうな顔で声をかけた黒木くんの言葉を遮って、鉢屋くんは急に訳の分からない事を叫びだした。
でたよ鉢屋くんの暴走!
うわあ、という顔で鉢屋くんを見ながらため息をはく。
なんだか最近これにも慣れつつあるのが物悲しい。

「私の愛しの名前と可愛い後輩たちが微笑み合いながらきゃっきゃっうふふしているなんて天国以外の何物でもない!その上名前の微笑みはまるで母親のように慈愛に満ちているだなんてこれはつまり庄ちゃんと彦にゃんは私と名前の愛息子という事でファイナルアンサー!?」
「残念!」
「わあ黒木くんたら冷静ね!」

鉢屋くんの長いセリフを間髪入れずに黒木くんが切り捨てて、今福くんがため息をはく。
それから今福くんが鉢屋くんが落とした本を拾い上げて、僕は鉢屋先輩の子どもにだけはなりたくありませんといいながら鉢屋くんに渡した。
…どうやら二人も鉢屋くんの傍迷惑な愛情表現の被害者だったらしい。

「だいたい今僕たちは鉢屋先輩の名字先輩に対する所業の謝罪をしていたんですよ」
「え?私の所業?」
「同じ委員会の先輩がご迷惑をかけているのを見過ごせませんでしたから」
「庄ちゃん、彦にゃん、好きな人に素直に好きという事の何が悪いと言うんだ!」
「物事には限度がありますよ、鉢屋先輩。それに妄想をぶちまけるのは確実に好きな相手に嫌われます」

すっぱり冷静に切り捨てた黒木くんとそれに同意するように頷く今福くんを見ていると、何だか学級委員長委員会の普段の力関係が見て取れるようでいたたまれない。
完全に一年生の二人の方がしっかりしてる…。

「ところで名字先輩に何かご用ですか?」
「狼の食事の準備を手伝いに」
「鉢屋先輩、今日は今から学級委員長委員会の集まりがありますよ」
「手伝いが終わったら行こうと思っていたんだ」
「鉢屋先輩がいないと進行役がいませんので却下します」
「という訳で申し訳ないんですけど、そろそろ失礼しますね」
「あ、うん、委員会頑張ってね」

てきぱきと話を進めて鉢屋くんの襟首を掴んだ黒木くんと、ぺこりと頭を下げてくる今福くんにそう声をかけたら二人はにっこり笑ってくれた。

「それではまた」
「お邪魔しました!」
「えっ、ちょ、まだ名前と何も話してない!ていうか庄ちゃん、首締まるから!締まってるからー!」

わあわあ騒ぐ鉢屋くんを無視してすたすた歩く二人を見ながら思う。
鉢屋くんって、もしやみんなからああいう扱い受けてるのかなあ、と。


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