「…あのう、ええと、昆奈門さん?」
「うん?何かな名前ちゃん」
「く、くっつき過ぎじゃないでしょうか…」

なんて、困った表情で言う名前ちゃんに構わず名前ちゃんの背中にべったり張り付いて肩に顎を乗せる。
明らかに名前ちゃんの話を聞く気はありません、っていう態度を取ってるんだけどそれでも懸命に離れて下さいなんて主張する姿は微笑ましい。
うんうん、可愛らしくて何よりだね。

「ところで名前ちゃん、私が持ってきた着物は着てくれないの?」
「うーん、高そうでなかなか着る勇気が持てなくて」
「着てくれなきゃ持ってきた意味ないんだけど」
「汚れるかもと思うとなかなか…」
「私の給料安くないし、汚れたらまた買ってくるよ?」
「それはだめな大人の発言です」

両手でバツを作ってそう言って、名前ちゃんはずずっとお茶を飲む。
それから私が持ってきたせんべいをばりばりかじって小さく微笑んだ。
どうやら今回の手土産は好みにぴったりだったらしい。
また今度買ってこようと心に決めながらあーんと口を開けた。
横目で様子を窺えば名前ちゃんが苦笑しながらせんべいを私に差し出してくれる。

「自分で食べて下さいよ」
「名前ちゃんの手から食べたいんだよ」
「子どもじゃないんですから…」
「うん、大人として言ってるんだよ」

言外に好きだと言ってみても名前ちゃんははあ、とよく分かってない返事をしてまたお茶を飲む。
平成の子はみんなこんな風に鈍いものなんだろうか。
だとすれば平和でいい事だ。
でも私がらしくもなくこんなに色々と尽くしてるのに少しも気付いて貰えないのはいただけない。
私を通わせるなんてどんな高級遊女でも出来ないというのにこの子は何ひとつ気付きはしない。
あの尊奈門が怒りを通り越して呆れるぐらい通ってるんだけどねえ。

「まあ理解したらこんな事はさせてくれないだろうし、まあいいか」
「それって昆奈門さんがくっついてる事の話ですか?だとしたら私、ちゃんと離れて下さいって言ってるんですけど…」
「またまたー、ほんとは嫌じゃないくせに!」
「…止める気はないって事ですね」

恨みがましい目で見上げられて伏木蔵君のようにうふふと笑って見せれば、名前ちゃんはため息をついて私に体を預けるように寄りかかってくる。
年齢を考えれば親子のように見えるだろうけど、少なからず名前ちゃんをそういう目で見ているこちらからすればまるで据え膳だ。

…このまま、食べてしまおうか。
うっすらそんな事を考えながら名前ちゃんの腹部に回していた腕に軽く力を込める。
けれど名前ちゃんは気にする様子はなく二枚目のせんべいに手を伸ばした。
その手をなんとなく追いながら考える。
例えばこのまま名前ちゃんを手込めにしたとして、私はそのあとどうするのか。
連れ帰って妻にするのは簡単だけどきっともう二度と名前ちゃんとこうやってのんびり過ごす事は出来ないだろう。
それは私の望むところではないし、名前ちゃんも辛い思いをする事になる。

「…難儀だねえ」
「はい?何がですか?」
「うーん、別に何でもないよ」
「そうですか?…あ、この味も美味しいですよ」
「あーん」
「自分で食べて下さいよ、もう」

言いながら結局私の口にせんべいを放り込む名前ちゃんを見て笑う。
まあ今はこれで満足、という事にしておこうかな。


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