ヤンデレがいっぱいの続きです。
ヤンデレ苦手な方はご注意を!


もうどれぐらいここにいるんだろう。
時間の感覚も、日付の感覚も何も分からなくなるほど長い時間私はハチに閉じこめられていた。
初めの頃こそ出してと喚いていた私だったけど、今ではそんな気力はどこにもなくなっている。
ぼんやりと一日中部屋に寝転がって過ごして、ハチが持ってくる食事を食べる。
それからハチに体を拭かれて、着替えさせられて、髪を梳かれて。
毎日毎日それの繰り返し。
異常なのは分かっている。
だけど仕方がない、と思うのだ。
私は出来うる限りの抵抗をした。
けれどハチは生き物を飼う事に長けていて、それは人間も例外ではなかった。

食事を拒否して食べなければ、ハチはそれから三日間食事を一切持って来なかった。
いつでも得られた筈の食事がなくなってしまえば拒否をしていたとはいえ、もうご飯を食べられないのだと思うとどうしていいか分からなくなる。
その上味わった事のない空腹で寝る事も出来ず、気が狂いそうだった私に四日目の朝、ハチは笑顔で食事を持ってきた。
それを見た途端、何かを考える事すらできずにすぐさまがっついてあっという間に平らげてしまって、私には食事を拒否する事などできないと理解したのだった。

体を拭くと言われた時も当然拒否をした。
ハチはあっさりとじゃあ仕方ないなと笑って流したきりもうそれについては何も言わなくなった。
それにほっとしたけれど、それも一週間もたてば私が耐えられなくなったのだ。
体中の痒みや臭い、それが気になっていてもたってもいられない。
湯浴みをしたいと懇願してもハチは許してくれなかった。
私自身が体を洗う事、拭く事は認めず、俺がやるからとただ微笑む。
結局、私はそれをそれから更に一週間後、受け入れた。

着替えや髪を梳く事などもはやどうでも良かった。
私は疲れていて、抵抗など無駄だと知っていたのだ。
それにハチを受け入れて飼われていれば何の不安も心配もない。
もうあんな飢えや体中を蝕む痒みを味わう事もない。
それはそれで幸せじゃないか。
今ではそう思ってさえいた。

そんな風に少しずつ私が歪み始めていたある日。
ふと、おかしな事に気付いた。
日が沈んでもハチが私のいる部屋にやって来ない。
いつもは日が沈む前にやってきて、私に食事を食べさせて体を拭いてくれるのに。
どうしたんだろう。
不思議に思いながら、だけどどうする事も出来ずにただぼんやりと天井を見上げる。
動く事のない私はお腹がすく事などほとんどない。
だからまあいいか、と目を閉じて眠りの世界に旅立つ。
ハチが来たら起こしてくれるだろう。
そんな事を考えながら。

けれどそんな私の考えは覆されてしまった。
目が覚めて、辺りは明るくなっているのにハチが部屋に来た気配がなかったのだ。
私をここに閉じ込めてから欠かさずやってきていたハチが来ない。
その事実に体がぶるりと震える。
もしかして…もしかして、私は捨てられたのだろうか。
いや、まさかあのハチがそんな筈はない。
そう思うけど、じゃあ何でハチは来なかったんだろう。
頭の中をどうして?何で?と意味のない思考がぐるぐる回る。
答えが出る筈がない疑問は、時間がたつにつれてどんどん増していった。

いつもなら昼に一度やってくるハチはこの時間も来なくて、私の震えは止まらなくなる。
夕暮れが怖くて泣き出して、それでもハチはやって来ない。
一人で泣いていればいつの間にか日は暮れて、やはりハチは現れなかった。
ああ、きっと私に飽きてしまったんだ。
そう悟って目の前が真っ暗になる。
ハチに、捨てられた。
その事実に打ちのめされて何も考えられない。
ハチがいなければ私はもう生きていけないのだ。

「う、うう…ハチ、やだよ…」

ぐずぐずと泣いて、ハチの名前をひたすら呼ぶ。
返ってくる声はない。
その虚しさにまた苦しくなって涙はますます溢れ出すけど、それを拭ってくれるハチの指はもうないのだ。

「ハチ…ハチ…」

馬鹿みたいにそればかりを繰り返しながら、気付けば私は眠っていた。

そして、翌朝。
誰もいない部屋で目を覚ました私は、やはりハチの気配がない事に絶望する。

「あ、ああ…ハチ…」

優しく私を見守るハチの目が、私の体をゆったり拭くハチの手が、私の髪にそっと口付けを落とすハチの唇が、全部が全部恋しくて仕方ない。
もう、手の届かないところへ行ってしまったそれが、欲しくてたまらない。

「やだ、ハチ…帰ってきてよ…はち…」

ぐずり、また泣きながら呟く。
震えがまたやってくる。
寂しい、怖い、苦しい。
感情が高ぶるほど、震えはどんどん強くなる。

そうして、気の遠くなる程の時間を一人で過ごした、その日の昼頃。
唐突に、私の背中に欲しかったぬくもりが覆い被さった。

「っ、」
「名前…」
「は、はち…?」
「ごめんな、忍務で来れなかった」
「…は、ち…」

ぎゅうと優しく包み込むように抱き締められて、ぽろりとまた涙が零れる。
求めていた体温が、そこにある。

「は、ハチ、やだ、捨てちゃ、やだよ…!」
「捨てる訳ないだろ?名前の飼い主は俺なんだから」
「ほ、ほんとに…?」
「大丈夫だ」

にかりと笑って言うハチに泣きながら抱きつくと、ハチは優しく頭を撫でてくれる。
それから私の髪に口付けて、少しだけ体を離した。

「一旦飼ったら責任を持って最後まで面倒見るから…死ぬまで、な」

そう微笑んで今度は唇に口付けをしたハチに私は笑って頷いた。
ああ、私は何て幸せなんだろう。
死ぬまでずっと、私はハチの作った鳥かごの中で生きていけるのだ。

そうして幸せに浸る私は忘れていた。
ハチは生き物を飼う事に長けていて、それは人間も例外ではない事を。
私はハチに飼い慣らされていた。
ハチがいなければ生きていけないのだと、そう教え込まれていた。
けれど私はそんな事実に気付かないまま、どろりとした幸せに浸って笑うのだった。


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