「へい、そこ行く少年!何をやってるんだい?」
「あっ、くのいち教室の名字名前先輩!おはようございます!」
「はいおはよう」
「僕は今からトレーニングをするところなんです。名前先輩はどうされたんですか?」

暇そうに歩いてる一年は組の金吾を見つけて声をかけたけど、別に暇じゃなかったらしい。
トレーニングする時はだいたい木刀持ってるから勘違いしてしまった。
今日は基礎体力の向上トレーニングでもするのかな。

「私は暇をもて余してたんだー。金吾はランニングでも行くの?」
「はい!今日は委員会が休みなので一人で裏裏山まで行ってきます!」
「裏裏山か…いいね、私も一緒に行っていい?」
「わあっ、嬉しいです!」

いつも体育委員会の活動で行ってるし、大丈夫だとは思うけど一人で行かせるのはちょっと心配だ。
時々授業で仕掛けた罠が外し忘れてそのままになってる事もあるし、先導者がいる委員会と一人きりで行くのじゃ意外と勝手が違うから迷っちゃうかもしれない。
ここは先輩である私がさりげなくフォローしてあげないとね!
…ふふふ、なんだか私、とっても先輩らしいぞ!
にやつきながら金吾に行こう!と声をかけると嬉しそうなはい!という返事をくれた。
うん、金吾はいい子だ!

「私は金吾に着いてくから先導してね」
「僕がですか!?が、頑張りますっ!」
「あはは、そんなに緊張しなくてもいいよ」
「は、はい!」

そう言ったものの、金吾はふんっ、と鼻息が聞こえそうなほど意気込んで真剣な表情を作る。
一年生だし、まだ人を引っ張っていくなんて経験は少ないだろう。
でも毎日のように小平太に引っ張られているんだから、どんな風になりたいっていうイメージはきっと固まってる筈だ。
金吾がどういう風に私を先導してくれるか楽しみだな。

「それじゃあ名前先輩、出発しましょう!」
「よーし、れっつごー!」

と言って出発したランニングも順調で、私たちは迷う事もなく裏裏山まで無事にたどり着いた。
曲がり角や登りではちゃんと私に声をかけてくれる金吾はなかなかいいリーダーぶりを発揮している。
小平太とはまた違う、優しさに溢れた先導だ。
まあもちろんこれじゃあ親切過ぎてトレーニングにはならないというのもあるけど…一年生にしては堂々としたものだと思う。
さすが委員会の花形体育委員会に所属してるだけある。

「名前先輩、そこ曲がります!」
「はーい。…んっ!?金吾!危ない!」
「えっ?っ、うわああああああっ!?」
「金吾ォォォォォ!!!」

道を曲がった先に仕掛けられていた落とし穴。
私の方を振り返りながら走っていた金吾がそれに気付ける筈がなく、金吾は見事に落っこちていった。

「金吾っ!大丈夫っ!?」
「う…うう、大丈夫ですう…」

落とし穴を覗き込めば多少体は打ったみたいだけど意識はあるみたいでほっとする。
これでもし中に竹槍でも仕掛けてあるような罠だったら一大事だ。

「引き上げるから掴まって」

手を落とし穴に伸ばし、金吾がしっかり掴まったのを確認すると一気に持ち上げる。
くのいち教室一の武闘派と言われる私にとってこれぐらいは朝飯前だ。
友達には七松二号とか言われるけど気にしない気にしない!
だってそのおかげでこのかわいい後輩を助けられるんだからね!

「ふう、大きな怪我がなくて良かった。痛いとこはない?」
「ない、です…」

しょんぼりと落ち込んだ様子の金吾に苦笑しながら頭をぐりぐり撫でてやる。
ここまで上手く行ってただけに悔しいんだろうな。

「金吾、何で落っこちちゃったんだと思う?」
「…前、見てなかったから」
「うん、そうだね。自分の安全をきちんと確保しないと先導は出来ないよ」
「はい…」

小さな声で返事をして、金吾は歯を食いしばって俯いてしまう。
それから声を上げないままぽろぽろ涙をこぼし始めた。

「悔しかったね」
「…はい」
「次は今日の反省を生かして落とし穴に注意しようね」
「はい…!」
「残りのコースも走れそう?」
「はい!」
「よっし、じゃあいけいけどんどんで残りも走ろう!」
「はいっ!」

私の言葉に元気よく返事をして涙を拭った金吾と走りながら私は思う。
ああきっと金吾は優しくて頼りがいのある、良い先輩になるんだろうなあ、って。

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