「んんっ?あれは…会計委員会の任暁左吉?」

気持ちよく晴れた日、気分もいいし少し鍛錬でもしようかと歩いてたら離れた場所で何かを必死に持ち上げようとしてる左吉が目に入った。
むっと顔をしかめる左吉の額にはぽたぽた汗が垂れていて、必死な感じが伺える。
なんだか大変そうだなあ。
よしっ、ここはひとつこの私が手伝ってあげようじゃないか!
奮闘する左吉の後ろまで行き、私の気配に気付いてない左吉からひょいっと荷物を奪う。

「うわっ!?」
「やっほー!大変そうだね、手伝うよ!」
「あ、名前先輩…」

驚いたように私を見る左吉が持ってたのは会計委員会名物の10キロ算盤だった。
文次郎が委員会の後輩全員に持たせている、アホみたいに重い算盤。
なるほど、これを持って移動するとなればまだ一年生の左吉には辛いかもしれない。
今度文次郎にちゃんと言っとこう。
せめて5キロぐらいじゃないと無理なんじゃないのって。

「どこまで行こうって思ってたの?持ってったげるよー」
「…いえ、あのう、」
「ん?遠慮はしなくていいよ?」
「違うんです…」

しょんぼり落ち込みながらの言葉の意味が分からなくて首を傾げる。
違うって何が違うんだろう。

「どうしたの?」
「…運ぶつもりだったんじゃなくて、鍛錬してたんです」
「鍛錬?」
「はい、算盤を上げ下げして筋力を鍛えようと思って」
「ああ何だ、そうだったの。ごめんね、勘違いしちゃった」

確かにこの算盤を上げ下げすれば相当な鍛錬になるに違いない。
でも左吉は偉いなあ。
まだ一年生なのにちゃんと自主的に鍛錬を積んでいるなんてすごいと思う。
私が一年生の頃なんて遊びほうけてたもん。
山本シナ先生によく怒られたっけ…。

「うんうん、左吉は偉いね!」
「そんな…偉くなんかないです…」

珍しい左吉の反応におやまあ、なんて喜八郎みたいな事を考える。
いつもなら褒めると僕は優秀ない組の生徒ですから!なんて言ってきらきらするとこなのに、今日はなんだか謙遜しているじゃないか。
なんか変なものでも食べたのかな。
不思議に思ってると左吉はそれに気付いたのか、実は…と話を始めた。

「算盤を使って鍛錬をしようと思ったんですが上手くいかなくて」
「上手くいかないって?」
「続かないんです。委員長の潮江文次郎先輩は寝ていても軽々上げ下げしてるのに…」
「そりゃ文次郎は六年生だしねえ。まあ無理しなくてもいいんじゃないかな。左吉はまだ一年生なんだし、仕方ないよ」
「でも…でも、同じ一年の団蔵は算盤を抱えて走れるんです」

団蔵、と言われてそういえばと思い出す。
新学期が始まる前日、団蔵は文次郎と一緒に実家の加藤村から算盤を抱えて全力疾走させられたって言ってた気がする。
うーん、確かに団蔵は一年生にしては力持ちだし、同じ委員会で一年生の左吉にとってはライバル的な存在なのかもしれない。
でもなあ…。

「団蔵はほら、力はあるけどさあ…」
「馬鹿ですよね。分かってます」
「はっきり言うね…。私も人の事は言えないけどさ、間違いなく団蔵はアホのは組の一員だし、学力では左吉が負ける訳ないじゃない」
「でも体力面では劣るんです。僕は優秀ない組として少しでもは組に負けたくありません!」

おお、なんだか左吉らしい理由だなあ。
しかしあれだ、昔の文次郎を見ているようで何か面白い。

「左吉、あのね、文次郎も昔そう言ってかなり無茶な鍛錬をしてたんだよ」
「やっぱり潮江先輩も…」
「うん、でもね、ある日無茶な鍛錬のし過ぎで体を痛めちゃってね」
「………」
「そのせいでテストを受けられなくて追試になっちゃったんだ」
「えっ…」
「それから文次郎は自分の力に見合った鍛錬をするようになったの。無茶ばかりしても意味がないって気付いたんだろうね」

そこまで言うと左吉は静かに視線を落としてしばらく何か考え込む。
それからぱっと顔を上げて、私にぺこりと頭を下げた。

「名前先輩、ありがとうございます。僕、もう無茶な鍛錬はしません」
「うん、それがいいよ」
「潮江先輩に一年生の時にどんな鍛錬をしていたか聞いてみる事にします」
「きっと文次郎も喜んで教えてくれるよ!」
「はいっ!」

うんうん、良かった良かった。
左吉に笑顔が戻った事に安心して、またねと手を振って分かれる。
いやあ今日はいい事したなあ。
これは文次郎に報告して甘い物でも奢って貰ったって罰は当たらないかもしれない。
よし、今度の休みは甘味屋巡りだな。

「…って、あれ?」

しまった、左吉の算盤を普通に持って帰ってきちゃったよ。
うっかりしてた。
仕方ない、きっと左吉は文次郎のとこだろうし持って行くか。
ため息をつきつつ六年長屋に忍び込むと、案の定文次郎の部屋から左吉が文次郎に教えを乞う声が聞こえてきた。

「潮江先輩!潮江先輩は一年生の頃はどのような鍛錬をされていたんですか?」
「一年生の頃か…そうだな、あの頃は毎日忍術学園を10周ランニングしたあと歩伏前進で更に10周、それが終わるとスクワット100回に腕立て伏せ100回、腹筋100、手裏剣投げ100回に…」
「ごっめん左吉!そいつ参考にならなかった!」

慌てて止めに入った私の目に映った左吉が泣きそうな顔だったのは仕方のない事だと思う。
…文次郎の役立たず!

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