くのたま教室には組分けがない。
それはくのたまの人数が少ないからだが、もしもくのたまの人数が多かったり私が男だったりしたら私はきっとアホのは組に入ってただろうなあ、と冷静な目で自分の学力を判断出来る系女子な私は確信している。

「という訳でこのお話の主人公である名字名前は宿題が終わらず困った結果、友人に助けを求めに来たのであった」
「どういう訳なのかさっぱり分かんねえよ」
「食満留三郎には聞いてません。いさっくーん、勉強おせーて!」
「名前…それはいいけどそろそろ留三郎を許してあげてよ」
「嫌です。私の乙女心はひどく傷付けられました」
「顔に涎ついてるって教えてやっただけだろ?んな怒るなよ」
「ほらみろ!何にも反省してない!誠意が感じられない!」

わあ!と嘘泣きしていさっくんに抱き付けば半分は優しさで出来ているいさっくんが留三郎…と咎めるような声を出した。
そしてそうなれば半分は身内への優しさで出来ている留三郎はがりがり頭をかいて悪かったよ!と投げやりに謝るしかない。
予想通りなそれににんまり笑ってやれば、いさっくんも留三郎もやれやれとため息混じりに笑ってくれた。

「ところで宿題って何が出たの?」
「算術のドリル…私算術苦手なんだよね」
「…僕も算術はちょっと。留三郎は?」
「あー…一応見るだけ見るか」
「………」
「名前?どうかした?」
「いやあ…まああれだよね、安定のは組ってやつだよね」
「それが手伝ってもらう人間の言い種か!」

留三郎に怒られたけどてへぺろっ!しつつ算術のドリルを取り出し、いさっくんの机の上に広げる。
それを三人で覗き込む私たち。
…ううん、全然分からん。
並ぶ計算式を見て首を傾げるとごつんといさっくんの頭にぶつかった。
同時にお互いのいる方向に首を傾げてしまったらしい。

「地味に痛い…」
「ご、ごめん…」
「何やってんだお前ら」

呆れた顔で言われるがまあ仕方ない。
これぐらいの巻き込まれ不運はいさっくんといればよくある事だ。
この間も大量にトイレットペーパーを抱えるいさっくんを手伝ってたら一人の時には絶対落ちない喜八郎の落とし穴に二人して落ちたし。
いさっくんと友だちでいようと思ったらそれぐらいの覚悟は決めとかないとね!
かくいう留三郎だっていさっくんの不運が感染してるって最近言われてるみたいだし…。
うんまあドンマイ!

「それよりどう?留三郎は分かりそう?」
「…たぶん?」
「…果てしなく不安!」
「そもそも僕らに算術を聞きに来る事が間違いだと思うよ。文次郎か仙蔵に聞きにいったらいいんじゃないかな」
「うーん、それはごもっともなんだけど、今回は却下だな!」
「何でだよ?」
「だって今日は六はの日だからね。いさっくんと留三郎が出演する回だって画面の前の皆さんも期待してるんだよ!」
「メタ発言は止めようか」

困った顔のいさっくんに注意され、とりあえず口をつぐむ。
留三郎も苦笑いで止めておけと続けた。
むむ、仕方ない。
今後は発言内容に注意しよう。

「しかしい組の二人が駄目なら俺たちでなんとかするしかねえな」
「そうだね…とりあえず算盤だそうか」
「算盤かあ…ねえ、算盤で廊下滑った事ある?」
「ああ…あれ楽しそうだよな。この前一年がやってんの見た」
「楽しそうだけど僕がやったら吹っ飛ぶ気がするなあ…」
「ああ確かに…。でもやりたいよね」
「試すか?」
「ええ?体重的に無理がない?」
「いや大丈夫大丈夫!いけるいける!」
「よし、やるぞ!」
「僕が吹っ飛んだら助けてね」
「もちろん!じゃあ廊下行こう!」

わあっ!と盛り上がって廊下に飛び出し、いさっくんの算盤を足元に設置する。
それから私一番手!と宣言してそっと足を乗せた。
う、ちょっと痛い。
これは草履を履いた方がいいかも。

「いさっくん、ちょっと汚れちゃうけどあとでちゃんと拭くから草履履いてもいい?」
「いいよ」
「あざーす!」

元気にお礼を言って草履を装着。
そして再びそっと足を乗せるといい感じに痛みがない。
これなら…いける!
無駄に効果線をつけつつ、まだ廊下の床に着いている左足で助走をつけ、勢いがついたところで両足を算盤に乗っけた。
や、ヤバい!楽しい!

「ひゃっほーう!」
「おおっ!すげえ!」
「楽しそう…!」
「うおお、すごい!ほら留三郎もやりなよ!」
「おう!行くぞ!」

私と同じ要領で算盤に片足を乗せ、留三郎が勢いをつけて走りはじめる。
それから上手く算盤に乗り滑りはじめた…ところで悲劇は起きた。
私たちが使っていた廊下の途中の部屋からうるっせえ!と叫びながら隈男が勢いよく飛び出してきたのだ。
と、なれば皆さん想像がつくだろう。
けまは きゅうに とまれない。
ずがっしゃあ!と盛大に音をたて、留三郎と文次郎は衝突した。

「ってえ…!」
「ぐうっ、き、貴様…!」
「ああっ!留三郎!文次郎!大丈夫かい!?」
「わーお、大惨事!」
「言ってるバヤイじゃないだろう!二人とも怪我はない!?」
「てめえ食満留三郎!何してやがる!」
「うるせえ!てめえがいきなり出てくるから悪い!」
「んだと!?ふざけんなどう考えてもお前が悪いだろうが!」
「いーやお前が悪いね!」
「何!?」
「やんのか!?」

はいはい犬猿犬猿。
毎度の如く喧嘩をし出す二人にため息をつきつつふと足元を見れば茶色い何かが散らばっていた。

「………」
「名前!ぼーっとしてないで二人を止めてよ!」
「…いやあ、うん、あいつらはほっといていいと思うよ。それよりいさっくん、この散らばってるのって…」
「え?…ああっ!?ぼ、僕の算盤が!」

そう、散らばる茶色い何かとはいさっくんの算盤の珠でした!
…とか明るく言ってるバヤイじゃないですよね、うん。

「…ごめん」
「うう、そんなあ…」

ぼかすかやりはじめた留三郎と文次郎、がっくり落ち込んでるいさっくんを見ながら私は思う。

あ、結局算術のドリルやってないや…と。

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