「ヤバい文次郎マジヤバい!」

そう言いながら文次郎と仙蔵の部屋に飛び込めば、文次郎は非常に迷惑そうな顔で何の用だ、とひっくい声をだした。
あ、こりゃ徹夜三日目ぐらいかな。
一瞬でそう察したけど、だからと言って私が遠慮をしてやる筋合いはない。
文次郎がどれほど寝てなかろうと私の抱える問題の前では塵ほども影響力を持たないのだ。

「ヤバいんだって!助けて文次郎!」
「説明しろ」
「それが口に出すのも恐ろしいんだけど、作法委員会が使ってる部屋を誤って爆発させてしまいました」
「諦めて死ね」
「いやああああ!助けてもんえもーん!!!」

見るからに嫌っそうな顔で私に死刑宣告をして、文次郎は読んでいた本へ視線を戻す。
ちくしょう友だちだろ!
そんな思いを込めて抱きつけば、バカタレ!の一喝と共に吹っ飛ばされた。
ちょ、マジ一瞬意識飛んだぞこの野郎!
女子に何してんだバカタレ!

「女がそう易々と男に抱きつくんじゃない!」
「そう言うなら女の扱いしろよ!」

とりあえず突っ込みを入れて、それから深呼吸。
いつもならこのまま文次郎とじゃれているところだが、今日はそういう訳にはいかない。
何しろこれから恐怖の大魔王に抹殺されるかもしれないのだから!

「文次郎、後生だから私を助けて!」
「知るか!自分でやった事の責任は自分で取れ!」
「ひどい!私たち友だちだと思ってたのに…そう思ってたのは私だけだったの…?」
「お前の嘘泣きに今更騙されるか!」
「チッ、役に立たない男だな!男なら女を守る気概をみせろよ!」

舌打ちと共に言ってやればお前のどこが女だ!などと言い出す始末。
さっき女ならうんぬん言ってたのはどこのどいつだよ!
もう一度チッと舌打ちをして、それからどうするべきかを考える。
流石に作法の活動場所を破壊して無事でいられるとは思わないけど、一人で立ち向かうより二人で立ち向かった方がいいのは確実だ。
どうにかして文次郎に協力させないと…。

「…あーあ、やっぱり文次郎なんかじゃ頼りにならないかあ」
「ああ?」
「そうだよね、文次郎なんかより留三郎に頼む方がいいに決まってるよね。留三郎って強いし優しいし、最初から留三郎を頼りにすれば良かった!」
「何だと!?」
「無駄な時間過ごしたわ。さっそく留三郎に頼みに行こっと」
「…待て」

…かかった!
ふふふ、やはり留三郎の話を持ち出せば乗ってくると思ったぞ文次郎よ!
これで仙蔵からの攻撃を防ぐ駒がひとつ手に入った!

「何?私忙しいんですけど!」
「お前、あいつに頼むつもりなら止めておけ」
「何でよ?文次郎には関係ないでしょ」
「…教えておいてやる。あの野郎はな、」
「何?」
「今日は学園長の使いで出かけてるぞ」
「な、何だってえええ!?」
「俺を怒車の術にかけようとしたんだろうが、甘いぞ名前!」
「くっそ、くたばれ隈男!」

眠気のせいかテンションが高い文次郎がどやっ!としながら高らかに言う。
ちくしょう留三郎め、何でこんな大事な時に不在なんだバカタレが!
留三郎に対する怒りと文次郎に対する怒り、そして大魔王がやってくる恐怖で涙目になりながらとりあえず文次郎に殴りかかる。
私の怒りをその身で受けやがれ!

「くらえ文次郎!」
「くらうか!」
「避けんなちくしょう!」
「ええい、大人しく反省を促されてこい!」
「反省じゃなくて粛清が待ってんだよ!死亡一択だよ!」
「自業自得だ!」

なんて、元気にじゃれあっていたのがいけなかったらしい。
私は唐突にすてーん!と勢いよく畳に足を滑らせ文次郎の方へ転がった。
流石に文次郎もそれは予想外だったらしい。
かわす間もなく足元に滑り込んだ私に巻き込まれ、ずしゃっとその場に倒れ込む。

「ったあ…」
「ってえ…」

と、二人で呟いた直後。
すぱん、と音をたてて文次郎の部屋の障子が開けられた。

「…は?」
「え?」
「あ?」

驚いたような声に障子の方へ目線をやれば恐怖の大魔王様がそこにはいらっしゃった。
マジでか!

「うわわ、せ、仙蔵さんじゃないっすか!」
「…ぶっ、く、」
「仙蔵?どうした?」
「くっ、くくっ、はははははっ!」
「ええっ!?仙蔵が壊れた!?」
「な、何だお前たち、そ、そういう、ぶはっ、関係だったのかっ!」
「え?」
「はあ?」

慌てて取り繕おうとした私と様子のおかしい仙蔵を心配した文次郎を無視し、壊れたように笑い出した仙蔵に驚いたのも束の間。
仙蔵に言われた言葉で自分たちが陥っている状況に気付いたのは二人同時だった。
そう、文次郎が滑って転んだ私の上に乗っかっていたのだ。

「ばっ、ばっ、バカタレェェェ!!!」
「ぎゃあっ!?」
「ははははは!!!」

状況を理解した文次郎の選択などただひとつ。
私を情け容赦一切なくぶん投げる、ただそれのみ!
という訳で私は気付けば一瞬で仙蔵の足元へ移動していた。
文次郎マジでぶっ飛ばす。

「いったあ…!」
「く、くくっ、なかなか面白いっ、見せ物だったぞっ、はははっ!」
「普通は笑うとこじゃないよね!?何でそんな爆笑してんのっ!?」
「面白いだろうっ、お互いに、趣味がくくっ、悪すぎて!」
「どういう意味だよちくしょう!」

私とこいつは一応友だちの筈だけど違う気がしてきた…。
…はっ!しかし今のインパクトが強いせいで仙蔵が私への粛清を忘れてるかも!
よし、この隙に…

「逃げられるとでも?」
「ですよねー」
「安心しろ、私は今お前たちの体を張ったギャグで機嫌がいい」
「ギャグって…。でもそれなら良かった!少しは甘くしてくれるんだよね!」
「ああもちろんだ。お前はただ私のかわいい後輩のからくりを試してくれるだけでいい」
「それ死ぬ!確実に死ぬ!助けて文次郎ー!」

ずるずると引きずられながら助けを求めた私は、すぐに気付いた。
先ほどまで元気に私とコントを繰り広げていた潮江文次郎がすやすやと眠っている事に。

「てめっ、文次郎!次に会った時にはぼっこぼこにしてやっからなあああああ!!!!!」

そう叫んだ私がそれからすぐに作法のからくりによってぼっこぼこにされたのは言うまでもない。

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