豆腐の日…それはまさしく彼の為にある日だと私は思う。
彼とは誰か?
そんなのは愚問!
彼とは久々知兵助に決まっている!

「名前…何か盛り上がってるところ悪いけどとりあえず落ち着こうか」
「えっ、だって豆腐の日だよ?いやむしろ兵助の日だよ?」
「いつから豆腐=俺だと錯覚していた?」
「錯覚じゃないよ!純然たる事実として忍術学園中で有名だよ!」
「忍術学園中でって言う事はないと思うけど…」
「あっ、傷付いた?。…って豆腐地獄の再演は置いといて!」

目の前にあるものを隣へ置く仕草をしてみせれば兵助は真面目な顔でふむ、とひとつ頷いた。
むむ、なんというイケメンフェイス。
相変わらず兵助はかっこいいなあと思いつつ、私もひとつ頷いてみせる。

「実はね、兵助…私、この兵助の日に備えて用意したものがあるの」
「え?豆腐の日に備えて?」
「うん、実はね…」

兵助の日と言ったのをあっさりスルーされたけど、スルーされた事実をスルーして私は兵助に隠していたあるものを差し出した。

「とくと見よ!」
「こ、これは…!」
「ふふふ、さすが兵助…気付いたみたいだね」
「ああ…まさかとは思ったが、やはりこれはあの伝説の…」
「そう、これは幻と言われる丸久豆腐店の絹ごし豆腐!」
「おお!」
「そして更に木綿豆腐!」
「おおー!」

じゃじゃーんと豆腐を取り出すと兵助が眩しい!と言わんばかりの表情で拍手をくれる。
それをひとしきり味わって、拍手を手で制してから兵助ににっこり微笑みかけた。

「食べたい?」
「食べたい!」

さすが兵助、豆腐に対する食いつきは異常だ。
ここまで豆腐狂いだとなんだか色々心配になってしまう。
たとえば豆腐に釣られて忍務を失敗したり、豆腐の恨みで誰かを殺しちゃったり、はたまた豆腐を好き過ぎて忍者やめて豆腐屋になってしまったり…。
うう、最後のは本気でありえなくもないし不安だ。
私、将来は兵助と二人で激ムズ忍務をバシバシこなしてスーパー売れっ子忍夫婦になるつもりでいたんだけど、もしかしたら豆腐屋の奥さんになってるかもしれない。
もしそうなってたら私に期待を寄せてくれたお父さんお母さんごめんなさい。
でもたとえ豆腐屋になる!と言われても頷いちゃうぐらいには兵助の事が好きなんだから仕方ない。

…と、まあそれはそれこそ置いといて。

「兵助にこれをあげるにつけてひとつご相談があります」
「うん?」
「あのですね、実はですね、」
「どうした?」
「私にも豆腐料理作って欲しいなー…なんて」
「え?豆腐料理?」
「う、うん。だって兵助の豆腐料理食べた事ないし…」

そう、実は私、兵助の彼女だっていうのに豆腐地獄を味わった事がないのだ。
三郎や雷蔵、勘右衛門はあんな地獄知らない方が幸せだとかいうけど、八左ヱ門はまた食べたい!なんてにこにこだった。
それに味はいいんだよ、味は…なんて三郎達が疲れた顔ながら兵助の豆腐料理のコメントを言うのが羨ましくてしょうがない。
私だって兵助の豆腐料理を食べて、あれが美味しかったこれが美味しかったって言いたい!
そんで豆腐地獄?何をおっしゃるやら、兵助がそこにいるだけで地獄も天国にシフトチェンジするのだよ!と三郎達を鼻で笑いたい!

「…だから私にも豆腐料理を!」
「うん、いいよ」
「えっ、いいの!?」
「もちろん。それに元々名前に美味しい豆腐料理を食べさせたくて作り始めたんだ」
「私に…?」
「毎日俺に付き合って豆腐ばっかり食べてるだろ?だから飽きないように食べ方を変えてみたらどうかと思ってさ」
「兵助…!」

兵助が照れたように頭をかいて私もなんだか照れてしまう。
まさか豆腐料理を大量に振る舞ってたのが私に食べさせるための練習だったなんて…。

「もう!兵助、大好き!」
「俺も大好きだ名前!」
「えへへ…ねえ兵助、一生そばにいてね」
「ああ、もちろんだ。名前こそ俺から離れるなよ?」

笑顔で答えてくれた兵助にますます強く抱きつく私と、受け止めてくれる兵助。
そんな兵助がまるで天使のようにみえて確信する。
やっぱり私には兵助がいるだけでどこだって天国に見えるんだ、って!

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