次の日、かなり早い時間に起きた私はすぐ元々着てた洋服を取り出した。
久しぶりに見るその服はなんだか見なれなくて不思議な感じがする。
自分の服なのになあ、なんて思いながらその服を着れば着替えは完了。
なんで洋服に着替えたかって言うと、学園長先生が一番最初と二番目の天女の子はまだ1ヶ月で帰るって分かってなくて着物のまま突然消えたから、朝から洋服を着ておいた方がいいってすすめてくれたのだ。

「でも本当に戻れるのかな…」

私は他の天女とは違うところが多いらしいし、なんだか不安になる。
もし帰れなかったら…そう考えてから頭を振った。
不安になってもしょうがないし、昆奈門さんが昨日言ってたみたいに必ず帰れるってそう思ってた方がいい。

「帰る前にもう一回伏木蔵くんと昆奈門さんに会いたいなあ」

昆奈門さんは難しいだろうけど伏木蔵くんには会えるかもしれない。
帰る時間は人によって違うって言ってたから、伏木蔵くんがいつも会いに来てくれる昼過ぎまではまだここにいる可能性がある。
それに学園長先生にももう一度お世話になったお礼を言いたいし、食堂のおばちゃんにも美味しいご飯のお礼を言いたい。

「よしっ、とりあえず顔を洗ってこよう!」

しんみりする気持ちをぐっとこらえて立ち上がる。
いつまでもぐずぐずしてたら時間がなくなっちゃうし、さっさとやる事を済ませちゃおう。
いつもより丁寧に畳んだ布団と夜着、借りてた着物を一カ所にまとめておく。
簡単な掃除は昨日のうちにしちゃったし、これでもうこの部屋はいつ帰っちゃっても大丈夫な状態だ。
部屋を見回して確認して、引き戸を開ける。
カッと強い日差しに一瞬だけ目を閉じて…

「あ、れ…?」

目を開けた時には世界が一変していた。
コンクリートの壁や道路、立ち並ぶ電柱、私の前を走っていく車やバイク。
後ろを振り返ると私の家がある。

「………?」

あれ、おかしいな、何か頭がぼーっとする。
何してたんだっけ、私。
ぼんやりしてる頭を振って考える。
…うーん、全然思い出せない。
首を傾げて考えてると何だか久しぶりな気がするケータイの着うたが鳴った。
どこにしまったのか思い出せなくてカバンをひっくり返してごちゃごちゃにしてやっと見つけだす。

「もしもし?」
「もしもし?じゃないでしょうよ。待ち合わせの時間は何時だったか覚えてますか、名前ちゃん?」
「…わーお」
「あと15分以内に来ないとお昼は名前の奢りだから」
「えっ、今すぐ行きます!」

非情な友だちの言葉に慌ててケータイをポケットにしまって走り出す。
ぼんやりした違和感はまだ残ってるけど遅れたら大変な事になりそうだし。
ああでも慌てたらまた転んで笑われちゃうなあ。
そんな事を考えてあれっと思う。
笑われちゃうって、誰に?

「………」

考えてみるけど分からない。
確かに誰かを思い出しかけたのにはっきりしない。
何だろう、何を、

「わっ!?」

考え込んでたせいか、運動神経?何それおいしいの?というタイプの私はべしゃっ、と情けなく地面に倒れ込んでしまった。
おおう、膝すりむいた…!
やっぱり考え事しながら走るのはだめだ。

「…お姉さん、大丈夫ですか〜?」
「え、」
「立てます?」
「………」

いつまでも立たない私に声をかけてくれた男の子が心配そうに私を見る。
それからようやく立ち上がった私に男の子はうふふと笑った。
私は見覚えのある男の子に何も言えずにぼんやり見つめてしまう。

「…早く会いに来てくれなきゃ、針千本、ですよ〜?」

約束ですからね、そう言った直後、私の方をじっと見つめながら男の子はすうっと消えた。

「…え、ええっ、えええええー!?」

思わず叫んだ私の耳にうふふとあの独特の笑い声がもう一度響くのだった。


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