「名前さん、もう二度と天女には近付かないで下さい。絶対に、約束ですよ」

天女の子の話をしたあと、真剣な顔で伏木蔵くんは何回もそう私に言い聞かせた。
私も伏木蔵くんの真剣な顔に押されて何度も頷いて天女の子に近寄らない事を約束した。
…んだけど、でも向こうから近寄ってきた場合はどうすればいいんだろう。
避けるのも悪いし、こういう場合はしょうがない…よね?

「えっと、こんにちは!」
「………」
「あのー?」
「何で雑渡さんはあんたのそばにいるの?」
「えっ?」
「雑渡さんだけじゃない、伏木蔵も…他のみんなはあんたを嫌ってるのに何で?」

そう言いながら天女の子がそれまでうつむいてた顔をゆっくり上げる。
ぎらりと光る彼女の目は私を見る忍術学園の先生や生徒たちとおんなじ目だ。
憎い、嫌い、そう考えてるのがはっきり分かる目。

「…わ、たし、もう、行くね…」

何とかそれだけ言うけど、天女の子は私を睨んだまま目をそらさない。
何で私、この子にこんな目で見られてるんだろう。
忍術学園の人たちは天女を嫌ってるからまだ納得できたけど、この子から憎まれる理由が分からない。
私はこの子に何もしてない。
なのに、何で…?
とにかく逃げなきゃ、そう思って天女の子に背中を向ける。
逃げなきゃ、何か大変な事に、

「っきゃあああああああっ!!!!!」

突然だった。
突然、天女の子が叫び声を上げて、その声に驚いて振り返ればぽろぽろ涙をこぼして泣いていた。
きーん、と耳なりみたいになって、しばらく呆気にとられる。

「あの…?」
「いやあっ!来ないで!」
「ええ?」

わけが分からない。
どうしていいのか分からなくて突っ立ってると天女さま!とか叫びながら生徒たちがわらわらやってきた。
普段の態度が態度だけに何か怖い。
でも今は私なんかどうでもいいらしく、彼らは私の方を見ずに座り込んで泣いてる天女の子へ集まっていった。

「天女さま、どうされましたっ!?」
「わ、私、ただお話してただけなのに、急に突き飛ばされて…」

…は、はい?
え、それってつまり、私が突き飛ばしたって事…?

「え、ちが、」
「…生かして貰っているという理解が出来てないようだな、貴様…!」
「天女さまはお前と友達になりたいとおっしゃったんだぞ!」
「天女さまを怪我をさせるなんて…!」

私の否定する言葉なんて生徒の子たちは聞く気がないらしい。
私の意見はすべて無視して、集まった生徒たちはどこからか武器を取り出した。
…もしかして私、殺される…?

「ひっ、」
「…待って!」

逃げなきゃ、そう思ったのに全然動けなくて、ぎゅっと目をつむった私の耳に天女の子の声が響く。
と、止めてくれた…?

「私が悪かったの…だからみんな、気にしないで…」
「しかし天女さま…」
「本当にいいの。きっと私に悪いところがあったのよ」
「そんな!天女さまに悪いところなんてある筈がないだろう!」
「ありがとう。でも、もういいの。それより早く行きましょう。近くにいると、なんだか怖い…」

怯えたような顔で言って、天女の子は生徒たちに寄り添うみたいに歩いていく。
生徒たちは納得してない顔で私を睨んでたけどそれでも手は出して来なかった。

「………」

体中の力が抜けて、その場で崩れ落ちる。
こわ、かった…。
ほんとに死ぬかと思った。

「う、うう…うううっ…」

ここにいたらまたあの生徒たちが来るかもしれない。
だから早く部屋に戻らなきゃ。
頭ではそう思うのに体が震えて動けず、結局私は伏木蔵くんが見つけてくれる数時間後までただひたすらそこで泣き続けるのだった。


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