「考えたんですけど、あんまりびくびくしててもしょうがないですよね!」

笑顔でそう言えば昆奈門さんはお茶をすすりながらそうだねえとめんどうそうに返事をした。

「昆奈門さん、聞いてますか?」
「うん、聞いてるよ。名前ちゃんの住んでた平成って本当に平和だったんだね。ぬるすぎて私には生き辛そうだ」
「はい?何ですかいきなり」
「怖い思いをしても数日で忘れてしまう、たぶん大丈夫と思ってしまう。その無防備さは愛らしいけど、あまりにも愚鈍だね」

今度はばりばりおせんべいを食べながらの言葉にむっとしつつひどいですと言えば昆奈門さんは事実でしょと冷たく言った。
確かに甘い考えなんだろうなあとは思うけど、でもいつまでも暗くなっててもしょうがないしどうにもならない。
だから開き直って気にしない事にしようって思ったのに…。

「…昆奈門さんは私が落ち込んでる方が良いって言うんですか?」
「違うよ。私は名前ちゃんの事を心配してるの。分かるでしょ?」
「分かりますけど…でもどうしようもないですもん。私の力でどうにかなるならいくらでも悩みますけど」
「まあ忍たまとはいえ君の力でどうにかなる筈がないけど、それでも警戒をするのとしないのじゃ大違いだよ」
「警戒はしてますよー」
「名前ちゃんのそれはしてないのと変わらないんだけど」

まあ仕方ないね、君は天女だから。
諦めたようにそう言って昆奈門さんはまたおせんべいをばりばりかじる。
なんかかなり適当に流された気がするんだけど…。

「まあいいか…」
「いいんだ」
「いいんです」

自信を持って頷けば昆奈門さんはもう一度いいんだ、と呟いておせんべいを食べきった。
うーん、何か変だったかなあ。
私もおせんべいに手を伸ばしながら考えて…たら伏木蔵くんが勢い良く部屋に飛び込んでくる。
いつも落ち着き過ぎなくらい落ち着いてる伏木蔵くんが珍しい。

「どうしたの?」
「大事件です!」
「大事件?」
「天女が!空から降って来ました!」
「えっ天女?」
「…降って来た、という事は名前ちゃんより前に来た天女と同じだね」

真剣な声で言う昆奈門さんと伏木蔵くんが揃って私の方を見る。
だけど私とその新しい天女さんは何の関係ないし、見られても困るんだけど…。

「名前ちゃん、今新しい天女は自分と関係ないと思ったでしょう」
「えっ!すごい何で分かったんですか!?」
「僕でも分かりますよ」
「えええ、そんなに分かりやすいかなあ?」

顔をしかめてそう言えば二人は大きく頷いた。
…失礼だ!
まあそれはともかく、天女というとつまり私と同じように平成から女の子がやってきたって事だよね。
という事は新たな話相手ができるかもしれない。
こんなところに来ちゃった悲しみや苦しみを共有できるかも!

「伏木蔵くん、天女の子見た?私と同じぐらい?」
「名前さんと同じぐらいだとは思いますけど、仲良くは出来ないと思いますよ〜?」
「えー何で?」
「今回の天女は以前の天女と同じように空から降ってきている。という事はつまり男を魅了する妖術を使うかもしれない」
「使えるみたいですよ。先輩方はさっそく天女の様子を見るために保健室に殺到してましたし」
「あんなに警戒してたのにそんな風になっちゃうものなの?」
「だからこそあんなに警戒していたんだよ」

はあ、なるほど、天女の妖術ってすごいんだなあ。
でもそれと私と仲良くするのは別の話だし、友達になれたりしないかな。
周りが男ばっかりって疲れる気がするし、可能性はあるよね。

「…君が嫌な思いをするだけだと思うけどねえ」
「僕もそう思います」

ふう、なんて揃ってため息をつく二人を横目に、私はここに来て初めての女友達をゲットするべく、気合いを入れるのだった。


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -