「ねえ、伏木蔵くん。ずっと気になってたんだけど聞いていい?」
「何ですか?」
「伏木蔵くんさ、私に会いに来てて先生とかに怒られたりしないの?」
「うーん、怒られる事はないですけどー…」
「ないけど?」
「心配はすっごくされますよ」
「…だよね」

ほんとに今更なんだけど、あれだけ周りの人たちが私に対して不快感を分かりやすく出してるんだし、伏木蔵くんが何か言われない訳がない。
私は話し相手がいて嬉しいし、ほんっとうに感謝してるんだけど…。
でも怒られずに心配されてるんならまだ良かった。
もし怒られてるなら伏木蔵くんに申し訳なさすぎる。

「うーん、僕は僕がここに来てるせいで名前さんの立場が悪くならないか心配です」
「ん?どういう事?」
「天女の力に惑わされてる、って思われる可能性もありますから」
「天女の力…っていうと、上級生の人たちをめろめろにしてたってやつ?」
「そう。相手を僕に変えたから先輩方には何もなかったと考える人もいるかもしれません」
「はあ、なるほど…」

まあでもそんなのは今更な気がする。
だって元からあんなに睨まれて嫌われてるんだし。
身に覚えのない事で憎まれてる今、やっぱり妖術で伏木蔵くんを惑わしてるんだ!とか思われてもたいして変わらない…なんて考えを伏木蔵くんに言うと呆れた顔をされてしまった。
ええ?何で?

「名前さんは今、人を惑わす妖術は使えないって思われてます」
「うん、そうだね」
「でも僕が名前さんに惑わされてるって思われたらどうなると思いますか?」
「ますます嫌われるんじゃないかなあ」
「それで済めばいいですけど、命を狙われる事もあるかもしれないですよ」
「うーん…でもさ、私は透明だし殺そうとしても殺せないから大丈夫じゃない?」

実際、さらさらストレートの人は私を殺そうとして失敗してるし。
触れない相手に攻撃なんかできるわけがない。
だから心配いらないと思う。

「伏木蔵くんは心配性だねえ」

あははと笑ってから伏木蔵くんの頭を撫でようとして空振りをする。
伏木蔵くんの体に手を突っ込んじゃうのはこれで四回目だ。
うーん、慣れないなあ。
なんて考えながら自分の手を見てると、伏木蔵くんがいきなり懐から昆奈門さんの人形を取り出した。
なんだなんだ?

「名前さん、避けないで下さいね〜?」
「え?何を?ってうわっ、いきなり投げないでよー!」

軽くだけど昆奈門さん人形を投げつけられて伏木蔵くんに抗議する。
人に向かって物を投げるのはよくないし、仮にも昆奈門さんの姿をした人形を雑にあつかうのはもっとよくないと思う。
この人形をくれた昆奈門さんが泣いちゃうよ!
なんて訴えは伏木蔵くんに綺麗に無視されてしまった。
無視はよくない、絶対に。

「名前さん、名前さんは透明だけど透明じゃないってわかってますか?」
「うん?」
「名前さんは壁や床は触れるし、ご飯だって普通に食べれますよね」
「そうだけどそれが?」
「今みたいに投げられた物は当たるし、食べ物に何かを仕込む事も出来ます」
「…えーと、つまり?」
「苦無を投げられて殺されたり、毒を入れられて殺されたりするかもしれないって事です」

他にも名前さんを殺す方法なんていくらでもあるんですよ。
そう言われて初めて気付く。
ここは忍者の学校で、私を嫌う人たちは私を殺す事ぐらいいつでもできる。
たったの10歳の伏木蔵くんでさえ人を殺す方法を勉強してるような場所なんだ、って。

「………」
「僕は心配です。いつか名前さんが殺されちゃうんじゃないかって」
「…ど、どうしよう…怖くなってきた…」

まさかそんな、命の危険にいつも晒されてるなんて思ってなかったから平気でいられたけど、気付いちゃった今となってはあれもこれも心配になってくる。
今日食べたご飯に何か入ったりしてないよね?
天井とかに誰かが隠れてて、私を殺そうとしたりしてるんじゃないの?
ぐるぐる考え始めるともう全部が恐ろしい。

「今は学園長先生が名前さんを殺さないように言ってるから大丈夫だと思いますけど…」
「………」
「でも、油断はしちゃだめです。何かあったら必ず僕か昆奈門さんに言って下さい」
「うん…わかった…」

こくりと青い顔で頷くと伏木蔵くんはでもいつ殺されるか分からないなんてすっごいスリルですね!なんて良い笑顔で言い放った。
…伏木蔵くんの趣味は、よく分からない。


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