学園長先生の庵とかいう場所に連れていかれたあと、なんだか色々聞かれた結果私は今のところ害がないと判断されたみたいだった。
なんでも今まで来た天女はやってくる時必ず空から降ってきて、しかもすぐに忍たまの上級生たちは妖術に惑わされて天女にめろめろになってたらしい。
だけど私は空から降ってきた訳じゃないし、上級生たちはいつも通り。
何より私が透明なせいで手が出せないからほっとくしかないという事だった。
もし透明じゃなかったら殺されてたのかなと思うと恐ろしい。
うーん、忍たまって実は怖いアニメなんだなあ。

そんな風に考えながら貸してもらった部屋でため息をつく。
部屋を貸してもらえたのはよかったけどほんとによかったのかな。
天女っていうのが学園に迷惑をかける存在だって何度も聞かされたからたぶん追い出されるだろうなあなんて思っていたのに、学園長先生は学園のはずれの部屋を貸してくれた。
それに学園の中ならどこに行ってもいいらしい。

なんで?いいの?と思って聞いたら学園では天女が来るのは恒例イベントみたいになっていて、下級生にとっては上級生がいない状況でどう委員会を機能させるかの実習、上級生にとっては鍛錬の出来ない状況から戻ったあと、自分の体をどうやって元の状態まで鍛えるかの実習になってるって事だった。
でもそれも四回目になるとマンネリ化してきて、生徒たちの心情はともかくみんな慣れた対応になっていたらしい。
そんな時にやってきた五人目の天女の私は前例がない透明で、しかも生徒たちを惑わす妖術を使っていない天女だった。
だから生徒たちがそんな天女にどう対処するのかを見たい、なんて説明をされた。

透明なおかげで死ぬ心配はないから納得したけど、これって私が透明じゃなかったらどうなってたんだろう。
私の命なんかおかまいなしみたいな感じだったし…。
いくら天女が迷惑かけてるって言っても私は前に来た人の事なんか知らないし、なんの関係もないのになあ。

理不尽!と思いながらごろんと畳に寝転がる。
畳の感触はちゃんと感じるのに何で透明なんだろう。
わけが分からない。

「なんか忍たま?の子たちも目つき怖いし…」

この部屋に来る途中、すれ違った忍たまの子たちはどんだけ天女が憎いの?ってぐらい鋭い目で私を見ていた。
思い出すだけでぞっとするぐらい怖い目。
そんな目で私を見るくせに頭を下げても挨拶をしても何の反応もないから余計に怖くて仕方ない。
学園長先生が言ってた天女にマンネリ化してきてるって絶対にうそだと思う。

「はあ…もうやだなあ…」
「スリルを楽しむのも一つの手だと思いますよ〜?」
「スリルねえ…ってうわあああっ!?」
「うふふ、驚かせてすみません」
「ゆ、幽霊!?幽霊なの!?幽霊なんだよね!?ひええ、お願いだから呪わないで!」

半泣きで幽霊らしき男の子に土下座したら男の子は違いますよ、なんてくすくす笑う。
えっ違うの?なんて言いながら顔を上げたら、男の子にお姉さん面白くて好きですよ、なんて言われてしまった。
面白いって、絶対褒められてないよね…。
うん、まあでもこの子が幽霊じゃないなら良かった。

「あ、でもさっきは何で急に消えたの?」
「あれは潮江先輩が僕をよそに運んだんですよ」
「潮江先輩ってだれ?」
「あの時お姉さんの前にいた隈のひどい人です」
「隈…ああ、あのおっさん」
「潮江先輩はああ見えて15才でいらっしゃるんですよ」
「えっ、うそっ!?」

どう見ても30は越えてるおっさんだったのにまさか15才なんて…。
若いのにめちゃくちゃ苦労してきたのかもしれない。
かわいそうに。

「でも一瞬で消えるなんてすごいね!ここってほんとに忍者の学校なんだねえ」
「中でも潮江先輩はギンギンに忍者してらっしゃいますからね」
「ギンギン?」
「ギンギン」
「…よく分からないけど、とにかく頑張ってるんだね」
「そういう事です」

うふふ、と男の子はまた静かに笑う。
不思議な雰囲気の子だなあ。

「そう言えば君の名前は?」
「僕は鶴町伏木蔵です」
「室町不思議そうくんね!」
「…鶴町伏木蔵です」
「鶴巻オジギソウ?」
「うーん、昆奈門さんもこんな気持ちなのかなあ…」
「こなもんさんて誰?」
「うふふ、面白い」

オジギソウくんに笑われながらとりあえず自分も名乗るとよろしくお願いします名前さん、と頭を下げられた。
それに慌ててこちらこそと頭を下げる。
丁寧な子だなあ。
ていうかいいのかな、みんな私の事を天女だ!って恨んでるみたいなのによろしくして。

「ねえ、オジギソウくん。私と話してて友だちに仲間外れにされたりしない?」
「さあ?でも僕、名前さんの事を気に入っちゃいましたから〜」

忍たまの子たちの目を見たあとだし、オジギソウくんが普通に話してくれるのは嬉しいけどほんとに大丈夫なのかなあ。
そんなふうに思うけど、なんだかやっと私を人として扱ってもらえた気がしてほっとする。

「ありがとね、オジギソウくん」
「僕の名前は伏木蔵ですよ〜?」

私が伏木蔵くんの名前を覚えるまで、まだまだ先は長い。


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