「ええと、あの…?」

驚いた表情のままこっちをガン見してくるおっさんにとりあえず話しかけてみる。
無視。
もう一度話しかけてみる。
やっぱり無視。
三度目の正直!とちょっと大きめの声で話しかけてみる。
…おっさんは何も答えないで私をガン見したまま動かない。

「…ねえ、あの人大丈夫?」

仕方なく隣の男の子にそう聞くけど、男の子はあれー?とか不思議そうに首を傾げていて答えてくれなかった。
なんだよもう、無視しないでよー。
男の子にまで無視されてしまった事に不満を感じつつ、もう一度おっさんに視線を戻す。

「あれっ?」

おっさんの姿が忽然と消えていた。
えっ、えっ!?な、何で!?
意味が分からない状況に頭がついてかない。
混乱してまた隣の男の子に視線をやるけど、なんと男の子も消えていた。
えええ何で!?

「ままま、まさか、やっぱり幽霊…!?」

さあっと顔を青くして、きょろきょろと辺りを見回すけどどっちの姿も見当たらなくてひええと叫ぶ。
どうしよう、めちゃくちゃ怖い!
訳が分からなくて泣きそうになりながら立ち尽くしてたらどこかから騒がしい声が聞こえてきた。
ひ、人だ!人がいる!
それにほっとしてそっちへ向かおうとしたら、それは目の前に突然降ってきた人に阻まれてしまった。
て、え、降ってきた…?

「な、なんなの!?」
「それは私のセリフだ」
「えっ?」
「貴様ら天女のせいでどれほど私たちが苦しんでいるか…!」

ぎらりと凄む妙に髪がさらさらの人にびくりと体が揺れる。
怖い、いやだ、逃げたい…!

「幸いにも今回はまだ貴様の妖術は影響を及ぼしていないようだ。…何かが起きる前に始末させて貰う」
「し、始末…?」
「殺す」

静かな声でそれだけをぽつりと言って、男の人は私の方へ素早く近寄ってくる。
逃げなきゃ、そう思うのに上手く体が動かなくてその場にべしゃりと倒れ込んでしまった。

「ひ、いや、」
「命乞いなど無駄だ!」

殺される!
そう確信してぎゅっと目をつぶる。
けど、しばらくしても私に予想していたような痛みは襲って来なかった。

「…?」

おそるおそる目を開くと男の人は私に馬乗りになろうとして失敗したらしく、私のお腹辺りに膝を突っ込むような状態になって呆然としていた。
あ、そうか、私今は何でか分からないけど人は触れないんだっけ。

「…な、んだ、貴様は…」
「わ、分かりません」

ようやく、って感じでそう言った男の人に答えると男の人はぶるりと体を震わせて後ろに跳ねる。
それから信じられないものを見るような顔で私を見て、黙り込んだ。
私もどうしていいか分からなくてとりあえず立ち上がる。
殺されそうになった経験なんてないから反応に困ってしまう。
逃げても無駄だろうし、なんか逃げなくても死ぬ可能性無さそうだし…。

「…え、と、あの…私、」
「黙れ」
「………」

鋭い目と声でそう言われてひっ、と黙り込む。
こ、怖い…!

「…土井先生、どう処理しますか」
「ど、どいせんせい…?」
「学園長先生の指示を仰ごう」
「ひえっ!?ど、どこから!?…ってああっ!何かテレビで見たことある人だ!」
「………」
「………」
「あ、す、すみません…」

土井先生、そうだ、この人土井先生だ。
主人公たちの担任の先生!
うわあ何か懐かしいなあ。
いやそんな事を考えてる場合じゃないのは分かってるけど死ぬ可能性が無さそうだって分かったらほっとしたっていうか…。

「ついて来い」
「は、はあ…」

やっぱり冷たい声の土井先生に返事をしてテレビで見てた先生となんか雰囲気違うなあと思いながらついていく。
やっぱり先生も私を殺そうとか思ってるのかな…。
別に私何もしてないのに何でこんな事になってるんだろう。
前に来た天女とかいう人たちは何をしたんだいったい。

はあ、とため息をついてとぼとぼ土井先生のあとをついて歩くとさらさら髪の人に凄い目で睨まれた。
もう嫌だ!早く帰りたい!


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