さよならのメッセージ
ジー…ガサガサッ
『えー、あー…もしもし?』
「…電話じゃねぇっての」
ガサガサと物が動く音に混じって安っぽい音が聞ける
今はもう居ないアルの声がボイスレコーダーのスピーカーから流れる
『もうそろそろ時間みたいだからサヨナラを言おうと思います』
妙に落ち着いた大人っぽいそれはなんだかアルのモノには思えない
やっぱ女っていざとなったらしっかりしてんだな
『お兄様が帰って来ない内に消えてしまっていたらゴメンナサイ。…卑怯だよね?勝手に居なくなるなんて』
「…本当、卑怯だし」
『アルは、お兄様にナイフで斬られた後、よく覚えてないの』
「っ…」
『最後、お兄様が抱きしめてくれたのは覚えてるんだけどね…その後は気づいたらヴァリアーの扉の前に居て直感でお兄様が居るって分かったからいつの間にかノックしてた』
淡々と喋るアル
思い出して微笑んでいるようなそんなアイツの表情が浮かんだ
『お兄様やボス達がアルを迎え入れてくれた時凄く嬉しかった。お城に居た時みたいにみんな優しくて楽しくて』
「…」
『ありがとうって伝えておいてね』
「自分で言えよバーカ」
『あっ、今バカって言ったでしょ?』
「…んで分かんだよ」
『何か言ってそうな気がする』
まるで俺の言葉に返すかのような返事とフフって笑うアルの吐息が妙にリアルだ
『ね、お兄様。幽霊ってね、後悔とか心残りがあると、天国に行けないんだって』
「あ?突然なんだよ」
『アルもさ、そうだったみたい』
「心残りって何だし」
『あのね…アルは、アルはね』
「…」
『お兄様の事がっ…ジジッ
アルの最後の言葉は途中から雑音だけになった
結局、アルの気持ちを聞けないのかよ
雑音だけになったボイスレコーダーを止めて窓の外を見る
なんだか妙に綺麗な青空が目にしみて涙が出そうになった
「…ちゃんと言わなきゃ分かんねぇっての」
呟いた言葉と一緒に出た息は真っ白でもう冬本番なんだと実感する
時刻は12時過ぎ
俺は最愛の人にサヨナラをした
「アル、お前が何処に居ても…俺はお前だけを愛してっから」
ほんの少しのお別れだと自分言い聞かせ部屋を出た
真っ黒い隊服の上着と数本のナイフを手にして
END
......
(また…遊びに来いよな)
いつかまた逢えるその日まで
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