「 幼い大人と子どもたち 」



 昔から、俺は嘘が上手かった。

 嘘が上手いというよりも、当たり障りのない対応が得意だった、という方が正確だろうか。
 誰にも媚びず、されど逆らわず。優柔不断なんて評価は面倒だから、決断は素早く下す。
 そんな矛盾を矛盾することなくこなして、こなせてしまったからこそ、多分。


「――五衣。わたしの話、聞いていなかっただろう」

「え……ああ、悪かったな」

「……そこは嘘でも、聞いてたと答えるのがお約束じゃないかい? 全く、わたしの周りは期待外れな男ばかりだねぇ」


 はあ、と小さく吐息を漏らす蜻蛉に、俺の正面に座った少年は不満そうに鼻を鳴らした。

 蜻蛉と同級生だと言う彼は、中学生にしては随分大人びた顔立ちで、態度で、彼女を見遣る。


「どうせ、そこには俺も入ってるんだろう、陣目」

「うふふ。察しの良さだけは一級品だねぇ、凪月」

「そりゃどうも」


 呆れたように呟く少年の名前は凪月高瀬……蜻蛉とはクラスメイトなのだそうだ。

 冷気が空を覆い始めた十一月の土曜。せっせと勉強に励んでいた俺を訪ねて来たこの二人組は、申し訳なさなんて微塵も感じていないような態度でコーヒーを口にする。
 冬には炬燵になる正方形のテーブル。俺の向かいと左側で、子どもたちは子どもらしからぬ調子で口論している。


「で……五衣さん、でしたか」

「ああ、名前で構わないよ。俺も高瀬くんって呼ぶから」

「それならなおさら結構」


 不快感を隠そうともしないで俺を睨み付け、彼はコーヒーが入ったマグカップをテーブルに置く。嫌気が差すような生意気さだが、自分が子どもだった頃も思い出されて、叱るに叱れない。


「五衣さん。アンタ、何を考えてるんです?」

「……何を、って、具体的には」

「頻繁に陣目と会って、こいつに協力して、アンタはどういう結果を求めてるんですか? こんな子どもに付き合って遊んでやる義理もないでしょうに」


 ふ、と呼吸して、彼は力を抜くように肩を揺らした。

 保護者のような言動に、俺の左側から嘲笑じみた笑い声が飛ぶ。マグカップで顔を半分隠してはいるものの、蜻蛉の表情を想像するのは容易だ。


「子どもの遊びって言うけれど、俺には君も子どもに見えるけどな」

「確かに俺は子どもですよ、五衣さん。だけどそれなら、陣目だって必然的に子どもってことになるでしょう?」

「嫌な物言いをするんだな。君がまだ中学生の子どもだなんて信じられない」

「そんな子どもじみた感想は聞きたくないのですが」


 だらだらと進展しない俺の返答に、呆れたように高瀬くんはコーヒーを口にする。






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