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第六話 扉


    あの時


貴方たちに深く関わる扉を開けてしまったのは誤算なのだろうか?
でも貴方と私は磁石みたいに離れようが無かったと、そうも言えるから…

ゆっくり目を向けると、顔を背けている鳳君
その頬は赤くなっている

彼が……
宍戸君が叩いたんだって言うことを自然と理解した

すると宍戸君はかがんで私の頬に手を伸ばした
戸惑いながら私に伸ばした手でぬれた頬を強引になでる
「大丈夫か?」と聞いてくる彼に何が何なのかまったく分からずわずかに顔を縦にふる

「んで?長太郎勝手に何やってんだ。」

宍戸のいつもより一段と低い声に鳳は硬く閉じていた口を開いた

「……っ、宍戸さん俺!その人が宍戸さんの」

「そう言う事を言ってんじゃねぇ」

困惑の表情を浮かべて宍戸を見る長太郎に宍戸は眉間に皺を寄せて言葉をつなぐ

「他にばれたら生きてけねぇだろ。俺はお前が一人で遠くに引っ越すなんてごめんだぜ
場所考えろよな、ったく」

「宍戸さん…」

目に見えて暗くなっていく鳳

「お前は、もう帰れ。こいつは俺が送ってくから」
「分かりました」

そう答えて鳳は転がっている女子生徒に近づくと自分がつけた傷に唇を添え一時すると今度は額に口付けた
なにをしているのか検討も着かず一部始終を眺める

鳳は女子生徒を抱え窓のほうに歩いていく

次の瞬間私は目をつぶらなかったことに後悔する
それは、鳳が窓から…

飛び降りたからだ

「!?」

驚きで声にならない声を上げ窓のそばまで、駆け寄って下を恐る恐る覗き込むが

…既に鳳君の姿は消えていた。

今の一瞬で……

その間に名前の後ろにたった宍戸は、そのままひざの下に手を滑り込ませた。

「えっ、えっ?」

とたんにびっくりした顔で視線を向けてきた名前に「送ってやるよ。」と言ってそのまま抱き上げる

「あの、おろして!!重いから!!それに、送って頂けるのは嬉しい事なんですけど私一人で歩けるし!!」
「いや、良いって」
「お願いです...恥ずかしいし、重いから」

顔を赤くしてだんだん声が小さくなっていく名前の顔をしばらく眺めた後、宍戸は言い聞かせる様に口を開いた


「あのよ、名字の足に合わせてたら家につくの遅くなんぞ?」
「え、それは、どういう」

確かにスポーツもやってないし別段体も鍛えてないけどなぜ彼は私の歩くスピードが尋常じゃないほど遅いような言い方をするのだろうか

「…あの、私でも宍戸君でも歩く速度はあまり変わらないと思うんですけど‥」
「はぁ、お前はノロノロ一緒に帰って俺に襲われたいのか?」
「へ?そ、それはどういう…」

そう言ってぼっと効果音がしそうな位顔が赤くなった私を宍戸君はふんっと鼻で笑った

そして、そのまま窓枠に足をかけた

    まさか

予想通り宍戸君は窓枠に掛けた右足に力をこめて思い切り外へと飛び出した!
いきなり襲ってくる無重力感
内臓が浮かぶような気持ち悪い感覚に叫びそうになるのを宍戸君の胸に顔を押し付ける事でどうにか抑える

「お、落ちるっ」

「誰がだ?」

「へ?」

地面に落ちる衝撃に耐えるために堅く閉じた瞳をそっと開ける
すると少し笑いながら前を見る宍戸君の表情が見えた
顔を少し動かすと、まわりの景色が凄い勢いで流れて行くのが分かる

彼は人間では考えられない速さで走っていた

ううん、飛んでる?分からない

でもさっきの出来事に比べてしまえば、
異常な速度も妙に気にならなくなっていた

夢なのかもしれない
今日は変にリアルな夢を見ているんだ

とたんにそう思えてくる

「名字じゃねぇんだし、おちねぇよ!」

可笑しそうに笑い出す彼に

それなら、私と一緒じゃなかったら何なの?
と聞きたかったけど宍戸君の表情を見て、何も言えなくなった

「どこか、痛いの?」

時がたつにつれ、宍戸君の額には薄く汗がにじみだした、何かを必死に我慢しているようにみえる

「あ?何の事だ」

そんな事言っても、どんどん表情に余裕が無くなっていくようにみえる。

「なにか、苦しそうに見える
それにさっきからあんまり息してないみたい」

そういうとわずかに驚いた顔で一瞬私を見下ろした

「まぁ、あんましてねえ」

どうしても夢である気がする
私の夢の中の宍戸君はあんまり息しないのか

「…そうなんだ。」

だんだん落ちてくるまぶた

気づくと自分のベッドの上に倒される
宍戸君は寝ぼけている私の額にそっと唇を押し当てた

最後に見たのは美しい満月。
宍戸君と鳳君は私とは違うんなら、一体何なんだろう。
浮かんだのはさっきも浮かんだあの三文字だったけど、まるでもやがかかるように何も考えられなくなってきた

(気持ちいい..)

私は額の柔らかい感触についに瞳を閉じた....

部屋に入るとそこは名字の匂いで充満していてとても長居は出来なかった
(早いとこ済ませねえと本気でやべぇぞ)

外の空気をいっぱい吸って息を止める
満月の下でこの匂いはかなりキツい

すでに半分眠りについている名字をベッドにおろす
こいつが生徒手帳に住所かいてて良かったぜ

とりあえず上着だけ脱がせて停止する
(う、上着着てたら寝ずらいよな
つか明日になったらこいつはなんも覚えてねぇんだしな)

後は記憶処理だけだ
もう一度窓の外の空気を吸い込んで
そっと額に口付ける
いつもの手順

傷をなめて治した後、記憶に幕をかぶせる
記憶修正なんて手の込んだことは出来ないため、軽い記憶喪失になってもらうわけだ

なにかいつもと感触が違う気もしたが、足早に窓から立ち去った




明日になったら、また、
会わないようにすれば良いだけのこと



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修正11/4/1

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