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昔から私は男の子とそんなに関わりが無くて、女の子の友達とか親友とか、そういう関係があるように、男の子とも友達になったりするのはどういう感じだろう?とか考えたことはあっても日常に必要な以上の関係を持とうとしたことは今まで無かった…
生まれて初めてしたキスは、壊れてしまいそうにとても不安定だった。
たぶん、他の子が体験するような物とは全然…世界が違うくらい異なった物だったと思う。

私の顔を固定する彼の手とは対照的に彼の服をつかんだ私の手はひどく震えた。
なにか刺激を与えてしまえば、危険だと思って
ただ従順に彼のキスに答えた。

離れると同時に一瞬視界がはじける様に真っ赤になった。ひどい頭痛が走る。
「…名前、手。」
宍戸君の服を掴んでいる指を解かれた。その途端力が抜けて、立っていられなくなって座りこんだ私と、今までの事が嘘のように距離をとる宍戸君。
「…っ。」
不自然なほど静止したままこっちを見下ろす真っ黒の瞳。痛い頭を抑えながら必死に表情をとらえた。そこには、動物のような目。
「、!!」
一瞬で彼が何を考えてるのか鮮明に分かってしまったような気分になって恐怖を感じた。保健室の時のように刺激してしまったのかと思うと激しい不安に駆られる。

彼がまた一歩あとずさる姿に息が詰まった。
しん、と静まる部屋。

「…ごめん。ちょっとそこから動かないでくれ」
突然発せられた声に安堵感が広がった。動かないでと頼まれてもふらふらして立てないけど、取りあえず話せているという事は、宍戸君も少しは落ち着いているのだと思う。

「落ち着いたら、自分の部屋行っていいから…」
何とか名前に言って部屋をでた。
ていうか、俺は…
ドアの前でしゃがみこんだ。自分の口内に吐き出される熱い吐息の感触がリアルによみがえる。
「おい、宍戸。どうしたんだよ?」
ばっと顔をあげると岳人の姿。
「お前、顔赤くねぇ?」
「赤いか?」
「微妙に。」
「じゃあ気のせいだろ。」
そうかよ、と言って変な顔をする岳人を使って立ち上がる。
「おわっ、てか宍戸9階?」
「おう、お前は?」
「俺一個上〜」
「跡部は?」
「しらねぇけど、多分10階だと思う。」
「お前と同じ階じゃんかよ。」
「いや、だってよー、一人部屋だから早く入ってみてぇじゃん?他のやつがどこかなんて…」
と話しまくる岳人と一緒にエレベーターに乗る。ドアが閉まると同時にさっきのことをちょっと話してみようか、なんて考えが浮かんで
「ずっとさ、忘れてたよな。」
「…なにを。」
一階上がるだけに時間はかからない。
岳人が言うとすぐドアが開いた。
「俺今かなり人間っぽい、かも。」
先に出て行きながら岳人が笑いながら振り返る。
「俺たち元は人間じゃん?基本は変わってねーんだよ。」
「そっか、」
「跡部、ここだぜ」
「(知ってんじゃん。)ん、じゃな。」
「おう。」
岳人は自分の部屋に向かっていった。言われた部屋のドアの前に立つ。
コン、
ノックとともにドアが開いた。
「跡部、俺ちょっとやべーかも」
冗談まじりにいった俺を一瞬青い目がとらえて、軽く笑った。跡部はそのまま部屋に入っていく。後に続きながら内装の違いに驚いた。
「は!?お前なんでベッドがそんなにでけーんだよっ」
ちょっとキレ気味な俺にばかにしたような顔をした。
「当たり前だろ、俺様が寝るんだ。」
「そーっすか。」
「で、名前を迎えにいったんだな?」
「あぁ、部屋に居る。」
「お前の?」
「は?」
「匂いで分かる。」
「…。」
跡部は柄にも無く少し心配そうな顔をした。
「何かあったか?」
「…した。」
「(主語がねぇ。)へぇ、で?」
「俺、一気に限界感じた。どーすりゃいいのかわかんねーよ。」
「でもあいつが来たんだろ。合宿中はここに置いとくしかねぇ」
「あぁ、"あの女"がいるからあっちにおいといたらいつ殺されたかもしんねぇけど…」
「あいつよく俺様が居る東京にこれたもんだぜ。それほどにお前に欲しかったのか…」
「…。こっからもどったら、全部終わらせたい。」
「……いや、」
意外だった否定に眉をひそめた。
「ここで一気に終わりそうな気がする。あの女と立海、もしかしたら繋がりがあるかもしれないと思ってな。」
「!…なんでだ?」
「面白い噂を聞いてなぁ?幸村から、な。あいつが参加していない事にも関係があるだろうよ。」
「入院してんだろ?」
「吸血鬼が入院か。」
「しらねぇよ。」
「真田と話してみる価値ありそうだな。」



あのまま私は動けないで居た。
情けないことに腰がたたなくなっていて、しばらくただ座って居ることにした。
(さっきの…)
いきなりされたからびっくりしたけど、嬉し、かった。
宍戸君の行動に今までに無いくらい心臓がどきどきしてる。一つだけ、分かったこと。
(私は彼が、好きなんだ。)
新しく気づくというより、やっと感情に名前を与えられたような感覚だ。
こんなに心が乱されるのに、やっぱり居てくれるだけで安心できる。
その時、ドアの開く音がして振り向くとびっくりした宍戸君が立ち尽くしていた。
帰ってくる前に出て行こうと思っていたので私もびっくりした。
「あ、ごめ。」
といいながら立ち上がろうとする私の肩を押して、座らせる。至近距離に彼も一緒に座った。
「わ、(ち、ちか…!!!)」
さっきのことを綺麗に思い出してしまってどうしようもなく赤くなった顔を隠すように下を見る。
「名前、こっち向け」
む、無理無理無理!さっき考えてた事とか全部ばれそう…!
恥ずかしさでどうにかなりそうなのに、
「名前。」
期待して待っている宍戸君にまた呼ばれる。諦めて時間をかけて彼の顔を見返すと、困った様に笑っていた。
「俺、もう我慢するんじゃなくて、」
「?」
「お前に慣れることに労力を費やすことにした。」
頭の後ろに掌が伸びてくる。さっきと同じ流れに気付いて肩が小さく跳ねる。
「し、ししど君!」
「宍戸君じゃなくて、亮。」
「ぇ、!?」
「宍戸君じゃなくて、亮って呼べ。」
「い、今?」
「今。」
さっきからそわそわしてる私の両手をもう一方の手で押さえた。
顔が自分で分かるくらい熱くなる。でも手が押さえられえ居るせいで隠せない。
もう一つの彼の手によって、私は顔をそらすことも許されないのだ。
「も…恥ずかしい、恥ずかしくて死にそう。」
「いいから言えって。」
宍戸君は面白そうにに笑う。
「っ、…亮。」
「ん。」
「…っん、」
掌で顔を持たれると同時に唇に柔らかい感触。恥ずかしいのと、心臓が痛いのですこし視界が滲んだ。自然と口から零れた言葉。
「好きだよ、亮。」
「ははっ」
「ほんとだよ。」
「違う、嬉しいから、俺も。」
「あははっ、幸せ。」

いきなり驚いた顔で私の顔を見た亮に、どうしたんだろうと私も見返すと
「俺も。」
と言って彼も笑った。



第3話へ
執筆09/12/6
修正11/4/6



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