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きらきらきら
雪が綺麗に光っている。
それは
俺にとって、小さな幾千もの光の矢が、次から次へと瞳孔を射抜いていくようで。
目から入ったそれは脳に達した後、真っ黒な俺の中に光を爆発させ消えていく。
そのように小さな輝きを発しても、もう俺は取り返しの付かない黒だというのに…

第1話 光の矢



「えー、仁王って冬好きそうなんだけどな。」
合宿場と呼ぶにはあまりに豪華すぎる設備とホテル。日本一のテニス部の合宿なのだからその位、普通なのだろうか。高級ホテルにしか見えない下宿先の一室で、立海レギュラー陣は季節の話で盛り上がっていた。仁王は雪が反射し光っているのを見て、小さく悪態を付きながらカーテンを半分ほど引っ張った。
「別に特別な感情は持たんっちゅっとるだけじゃ。季節に・・・・」
片方の眉を下げて、いちいちそんなん考えとるけん、お前は・・・・とジャッカルを見て言う仁王の言葉に、便乗した赤也が皮肉たっぷりに笑顔をちらつかせた。
「そー言うジャッカル先輩には雪とかスッゲー似合わないっすよね!やっぱ雪はかっこいい男にしか・・・ぷっ。」
「赤也・・・お前いつの間にそこまで嫌なやつになったんだ・・・?」
その言葉に吹き出したブン太も、ケータイをいじる手を止めて、テーブル越しに声をかけた。
「おいおい、赤也。そんな事言っちゃ悪いだろぃ。そーじゃなくてもジャッカルはアフリカから来たばっかりで、右も左もわかんねーし、雪も見たことねーんだから!」
「「・・・ぷっ!!!」」
あははははは!と、赤也はお腹を押さえ、ブン太はテーブルをばしばし叩きながら同時に笑い出した二人にジャッカルは少なからずの怒りとともに、いつも以上の脱力感を感じた。
「アフリカじゃなくてブラジル・・・・・」
完全に季節からはそれてしまった会話に、蓮二、真田は合宿についてを話し出した。
そんな中仁王は鞄の中から探し出した自分のケータイを、ブレザーのポケットに入れて立ち上がった。
それに気付いた柳生が、ほのぼのとした雰囲気の中声をかける。
「とてもいいところに泊まれましたね。」
「あぁ、さすが跡部じゃ。」
多分合宿費を負担しているであろう跡部家に少なからず感謝をしよう。あんな若いのが当主では大変だろう。といっても、実年齢が何歳なのかは知らないんだが。俺も初めの頃はろくな生活じゃなかったせいで、断片的な記憶しかもう残ってない。・・・年齢なんて数えとるのは人間くらいじゃろうに。
といっても、うちからも結構金だしとるんやし遠慮なく使わせてもらう気でおったんやけどね。
「電話するけ、んじゃの」
自室に行こうと思ったから、一応別れを告げてドアに手を掛けた。
ガチャ パタン
いつも通り、遅くふらふらと歩いてもわざと立てない限り足音などと言う五月蝿い物は鳴らない。フロアの方向に向かいながら、ケータイの履歴を下がっていく。
「もしもし・・・・姉貴?・・・・ん。着いたぜよ。・・・・・悪かったって思っとうきに。行き先は着くまで教えてもらえんやったんじゃ、」うそ。
そんな合宿あるわけ無いじゃろ。
バタン
と鳴った音に振り向けばすでに赤也が横の壁にもたれてこっちを見つめている。
期待と不安と興奮、であろうか。
少なからず恐々とした顔で仁王のケータイから聞こえる声に耳を傾けている。口の端を吊り上げた仁王は電話先の相手に今自分が居る合宿場所を告げた。
「仁王先輩。」
仁王はくっと微かに笑い、電話を切った。
ケータイをポケットに入れながら気の抜けたような緊張感の無い声で「始まったぜよ。」とそう告げた仁王に、赤也はぞくっとした物を覚えた。
「もう一度説明して欲しいんスけど。」
移動中レギュラー皆に真田から告げられた突然の計画に、いくら頭の回転が悪い自分でも仁王がかかわりがあって始めたという事は直ぐにわかった。
が、納得がいかない。
まだ、理解がいっていない。
どれだけ憎んでいるのかも、何故憎んだのかも知らないから。

自分の姉を。


宍戸君としばらく歩いて、やっとホテルにたどり着いた。立派なそれに、あらためて彼等との差のようなものを感じてしまう。
「名前の部屋、一応俺んとこの近くだから…いまいち、安全なのかはわかんねえけど…」
綺麗なフロアに入って、鍵を受け取る。
「ぁ、はい。」
なんだか緊張気味な私に宍戸君は少し笑った。
「まぁよ!何かあったら呼べよな。」
私の手を引きながら、通路を進み、エレベーターの上りのボタンを押す。片手はずっとつながったまんまだ。自然に繋がっているそれを見ながら考えてみる。私達の関係は、言葉にすると、何なんだろう。ふと頭に浮かんだ疑問に、びっくりする。
今までそんな事気にしたことはなかった。
(何考えてるんだろ。)
加速する鼓動に気付かれてしまったら、恥ずかしいのは私なのに…
エレベーターが開けば私を乗せ、降りるときも宍戸君は私の手を引いて降ろした。
ついさっきからピリピリしているように見える宍戸君を不安げに見上げる。
ドアの前でカードキーを出したのを見て、ここ?と聞けば彼は同じ階にある違うドアを指差した。
「え?どうゆう…」
「お前の部屋はあっち。ここは俺の部屋。」
ピッと認証音がなったドアを押して、部屋に引っ張られるまま入った。
「えっ、ひゃ」
いきなり抱きしめられて息が詰まる。
首にかかる彼の息に緊張が走った。
「し、しど君…?」
「連れて来たく無かった。」
固まった私の顔を、強く胸に押し付けた。宍戸君の胸に頭を預けると加速した鼓動が落ちついてくる。
こんなに動揺している彼を初めて見た。
背後で、オートロックがかかった音が鳴る。
不安に駆られている彼と入れかわったように、落ち着いた私は、宍戸君の背中に手を回した。
「あの人には俺は逆らえない。」
「あの人…?」
「…あっちに置いておくより、ここに居た方がまだましかもしれない。」
逆らえないあの人?ここに居た方がまし?
宍戸君が言う"あの人"と悠さんが言っていた"あの女"がもし同じ人ならば、その人は彼を傷つけている張本人だ。
(嫌だ…)
宍戸君が汚されているようで、嫌だ。
みたことも無い人に怒りに似た感情が膨らんで自分でも戸惑った
私は今分からない事だらけだ。でも宍戸君が怯えて居ることは、手に取るように分かった。(でも、)暗いブラウンの瞳が見つめてくる。(すぐに宍戸君の事しか考えられなくなる。)またうるさくなりだした心音と、熱くなる頬。
なんだか、変だ。
宍戸君は。
いつもはこんなに…こんなに、
ぴったりした言葉が見当たらない。彼の右手が頭の後ろに添えられた。
ぼーっと頭を働かせている私に、近づいてきた宍戸君の顔。
「っ、!…ん。」
声を出そうとする前に唇に重なったものに、混乱する。閉じた彼の目と、押さえるように、支えるように私の後頭部に回っている大きな手のひらに、頭のなかで何かが音を立ててハマった。
「はぁ、んっ」
そうだ・・・、言葉が見つかった。
無意識に彼の胸の辺りまで上がった手は、そのまま服をぎゅっと握った。

彼はいつもはこんなに…
甘えていない。


第28話へ
修正11/4/6

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