26 [ 27/30 ]

第26話 それが一つの区切れだとも知らずに

名前は最近見る夢の事を思い出していた。大きな白狼と、白い世界と、不思議な声。
名前はもう分かっていた。
「どうやって・・・?」
あの声は悠さんだった。夢の中にまで入ってくるのだろうか、彼らは。名前の言葉に宍戸悠は、明るく笑った。
「さっきやったのと要領は同じだ。直接吹き込んでた。でも雪の景色とかは俺はかかわってない」
「狼と声は貴方が見せてたんですか?」
悠さんは困った顔をした
「いや、声だけだ。」
「えっと、住所知ってたんですか?さっき直接って…じゃあ、ま、まま毎晩ですか?」
「知ってたんじゃない、亮に聞いた。そう、直接額にな。文字通り毎晩。それでどうにかなると思ったからな。お前の頼みごとなら聞きそうだったから。」
「………。」
一気に質問をしてしまったのは自分だが、悠が全てに返答を返したことに名前は一瞬停止した。
「…えー、それじゃあ、あの夢は何か…何か重要な意味があるんですか?正夢だとか。」
「正夢か…確かにそれが一番近い例えかもな。ただどうなるかはまだ分からない。」
(・・・・・・・世界が違う。)
夢に未来が映るなんてどんな物語なんだろう。でも、とても真剣なブラウンの瞳。
ここまで似てるなんて、皮肉だな…見てると凄く逢いたくなる。
"彼"に

「まぁいい!」
物思いにふける私を引き戻すように悠さんは口を開いた。
「行こう、沢山時間がある訳じゃない。
どうやら亮はお前を大切にするあまり、いろいろ追い詰められてるみたいだし、一気に終わらせるためにもお前を合宿に連れて行く。」
さっき自分が入ってきた窓に鍵を閉めた。外の風のせいで部屋はすっかり冷えていた。
名前の机に向かった悠は適当にペンと紙を拾い上げて差し出した。
「家族が心配する。親が起きる前に朝早く学校に向かったと書いておけ。明日になれば、合宿に行った事を了解してもらう。」
私の顔を覗き込んだ悠さんは優しく頭をなでてくれる
「安心しろ。」
言われる通りに書いていき、念のために合宿に行かなければ行けないようになった。…見たいな事を簡潔に書いた。信頼度は高まると思うけど。
「あの…でもこんなんで本当に大丈夫何でしょうか?」
「大丈夫だ。俺がちゃんとしとくから。」
…分かりました。と小さく答えてから、二人でリビングに行った。テーブルの上に手紙を置いておく。静かに歩くよう気をつける名前の横を物音一つ立てずハイスピードで追い越した悠に少なからずも名前は、びっくりした。悠がそっと玄関の扉を開けてあげ、二人は家を後にした。

side change

"久しぶりに夢を見た。
あんまり見たくない夢じゃった。
「ねぇ。」
何で月が欠けていくか分かる?
あいつがそう問うてきたのはもう昔。
「少しずつ砕けて、星屑になるんだよ。」
何だと思えば、完璧なおとぎ話ぜよ。
呑気やね、
俺の足元で鎖がじゃらりと鈍い音を立てた。
憎まれとうともしらんで。
「だから、月が無くなったらもっと綺麗に星が見えるでしょ?」
俺に憎まれとうとは思わんのやろうか、こんな事しとるくせに。ここじゃ空も見えん。
「でもね、月は不思議な力を持っていて…」
その続きは聞きたくなかった。星屑が集まって「 」になった時は…………

のう、姉貴。姉貴は満月が一番綺麗やゆうとったけど…

満月が一番残酷じゃ。"


ぱちっ
「…私、寝てた?って。……。」
目を開けた名前は一瞬言葉を無くした。(どこ、ここは。)それ以外の思考が停止して何にも考えられない。
白、白、白...
窓の外は夢で見たのと同じ雪の世界。
「はよ。」
隣には悠さん。それが寝てしまう前と唯一変わらない点。
「すみません。寝てしまったみたいで…」
頭を俯かせたまま上目使いで辺りを見回した。どこかの、カフェのようだ。
(どこだろ…?天気が良いし、朝かお昼かなぁ…?)
二人は奥の方の席に座っているため、他のお客さんは一切見えない。
宍戸悠は手元にあるカップから何か飲みながら辺りに目をやった。
それに対して、名前は壁に寄りかかったまま、ぼぉっとする頭を何とか起こそうと努力していた。(…とっても温かい。)とりあえず、目の前のココアを飲んでみた。
「もうすぐ弟が来る。」
「……は、はぁ。…弟さん?」
寝ぼけている私に見かねた用に悠さんがはっきり発音した。
「もうすぐで、宍戸亮が、来る。」
「……え。」
「……。」
「えぇ!?」
カップを持った手が大きく揺れた。中身が零れたら火傷決定だ。だが、名前自身が気づく前に既に悠がカップを支えていた。
「ここどこですか!?」
合宿に行ってるはずの宍戸君が、何でここに?
「合宿場から…大体、歩いて30分くらいだ。」
また一口と、カップを傾ける悠さん。コーヒーを飲んでいることに気づいた。
「いつの間に…。」
言葉を無くす私の表情を面白そうに観察しながら、悠さんが立ち上がった。意味あり気な笑い方をしている。
「もう来た。」
悠さんが指さすのに続いて窓の外を見るけど、特に目につく人は居ない。
と言うより雪と凍ってる道路以外何も見えない。
でも…一気に鼓動が加速する。好奇心や嬉しさに似た、息の詰まるような…胸がぎゅっと締め付けられるような。そんな感覚に襲われる。
「出よう。」と言う悠さんに従って、店を出た。
「さむい…。」ここがどこなのかは分からないけど、冬真っ盛りだ。遠く見える木々は真っ白。
「名前。」
ふと、名前を呼ばれて辺りを見回す。
悠さんの声だと思って振り返っても悠さんは知らん顔。
……?
「名前、こっち。」
声のした方を見てみるとポケットに手を突っ込んでお店の壁に寄り添うように立っている宍戸君。寒さのせいで、すっとした鼻の頭が赤くなっている。
「あ、し、宍戸君」
頭の中はとにかく真っ白。何を言えばいいか分かんなくて読んでるのか独り言なのかはっきりしない口をついて出た。何でか分かんないけど、焦る。
「あぁ」
宍戸君は私をみて少し笑ったみたいだった。宍戸君は次に悠さんに目を向けた。
「兄貴、さんきゅ。」
「おう。」
ここからの二人の会話は何て言ってるのか分からなかった。
唇を薄く開いて私に聞こえない小さな音量で声を落として話をしだしたから。
でも、最後は「気を付けて。」と言い合って居るように聞こえた。
「行くか。」
差し出された手をそっと握る。建物の中に居た私とは違って、ここまで歩いてきた宍戸君の手はちょっと飛び上がる位冷たい。
何にも言わずに歩き出す宍戸君に引っ張られながら、振り返って、悠さんに頭を下げた。悠さんは手を振って私達を見送った。
「ねぇ…宍戸君、寒い?」
「さぁな。わかんねぇ。」
手が冷たいわりに寒そうじゃない宍戸君は私の問いに困ったように返事した。
「暑いのは結構あちぃんだけどよ。何でか、寒いのはあんま感じねぇんだ。…名前は寒いか?」
「うん。すごく。」
体にあたる風が刺すように冷たい。足が雪にずっぽりハマって歩くのが難しい。すんでるところとは全く違う冷え込みだ
「ぁ、あのよ……乗る、か?」
「へ?」
相手は真剣。どうやら、いたって本気で私を背中に乗せようとしてるらしい。
私が乗った方が歩きにくいと思うけど…
「走るし。」
立ち止まって私を見つめる。
でも私は首を振った。
何となく、もっとこうしていたかった。
繋いだ手から私の熱が宍戸君に吸い取られ、いつの間にか同じ位の体温になっていた。
そうか。と答えてまた歩き出した宍戸君はマフラーを貸してくれた。
首に巻くと、宍戸君の匂いがしてちょっと笑って。
「…まだ遠い?」
「いや、多分もう少しだ。」
「多分って…あはは」
キラキラ光る雪が綺麗
「しょうがねえだろ!こんなに遅く歩いたりしねぇからわかんねえんだよ。」
「なんかその言い方ちょっと心外…」
二人とも意味もなく笑ってて。
あの時だけは、楽しい。それしか頭に、体にないくらい、楽しくて。
光に反射する雪にまけないくらいキラキラ光ってたと思うよ。


FIN
修正11/4/6
明日高校入学式です!

top
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -