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第24話 血縁

「俺が誰なのか…あぁ、記憶を見せるのが一番早いと思うよ。
このために、亮の記憶を借りてきた。」
彼とよく似た顔をして、彼と同じ匂いのその人は、名前の顔を包み込むように両手を置いた。
「初めは気持ち悪いかも知れない・・・」
名前の額に顔をよせたその人は、そこに唇を押し当てた。
そのとたん、溢れんばかりの熱が唇を通して頭の中に流れ込んで来た。
気持ち悪い…と言うよりも変な感触がするだけだった。
数秒後、自分の部屋とこの人を映していた名前の目は、違った映像を映し出した……


「なー、跡部。」
「何だ?」
「俺ここに来てどの位たった?」
「さぁ…10年位じゃねぇのか?」
大きな部屋の中心に置いてある机に向かい合って座る二人の人影。
髪の長い男の子と外国人のような顔立ちの男の子。
二人の顔見て名前は、はっとした。
跡部さんと宍戸君だ…
どうやら自分の姿は二人には見えないらしい。
「はぁ?嘘だろ、そんなにねぇって。」
「はぁ…」
とため息をした跡部は読んでいた本を閉じて髪をぐしゃっと握った
「あぁ、嘘だ。20年たった。」
「じゃあ、跡部、俺、ユリナ様…あの女のとこにどんくらいいたと思う?」
ギクリとしたように跡部は宍戸を見たが、一瞬の事で宍戸は気付いていないようだった。
サラサラと長い髪をまとめようとしている。
「知らねぇよ。」
「あー、俺もわかんねぇ。」
宍戸君は天井を仰いだ為に表情が見えなくなったが、跡部は真っ青な瞳を泳がせた。
「跡部、あのよ」
口を開きかけた跡部を宍戸の言葉が遮った。
「俺んち、連れてってくれね?」
椅子から飛び降りて髪を大きくふわりと舞わせた宍戸は、中庭を向いた。
「多分もう、誰も住んでねぇだろうけど…」
悲痛そうな顔をして跡部が舌打ちをした。
「こんな事になるから話したく無かったんだ…」
「は?なんつった?聞こえねー。」
「…そんな顔するくらいなら、変な事言い出すんじゃねえって言ったんだよ。どーせ行ってもみんな死んでる。誰も待って何かくれねーんだよ!!」
跡部の手元のカップが割れたが、中身が凍り付いていて机に当たって高い音が響いただけだった。
「分かってるよ。」
言葉こそ平常を装ったものの、宍戸の瞳の色が深く深く落ちた。
「あぁ、誰も居ねぇよ。あの女が閉じ込めてたおかげで俺には家族が居なくなった。
でも、今どうなってるか知りてぇんだよ。」
「…すまねぇ。車用意する。」
数秒間睨み合った後、携帯を取り出した跡部は車の手配をした。
その時、
「一回休憩な。」

いきなり横から声をかけられた。
宍戸君でも跡部さんでもない。
二人は今目の前に居るんだから。
「へ?」
いきなりの声に驚いて振り向くと、もうそこは自分の部屋だった。
・・・戻ってきてる。
どこから持ってきたのか、宍戸さん(だと思われる)はペットボトルの水を飲みながら座っていた。
「聞いてもよろしいでしょうか・・・?」
彼は横目でこっちを見てから頷いた。
「何で、宍戸君は跡部さんの家に住んでたんですか?
あの女って誰のことでしょう?
それに、貴方はだれで・・・」
宍戸さんは方眉を吊り上げて口元に笑いを湛えながら人差し指で静かに・・・と合図した。
「そういうのはいつか、亮から聞けば良い。俺が誰かは続き見れば分かる。」
そう言って、彼は私の頭の後ろに手を回してまた“吹き込んできた”。


次に見えてきたのは、一軒の家の玄関だった。後ろの黒い車は、跡部さんが用意するといっていた車だろう・・・
その前に立っているのは紛れも無くさっきの宍戸君だ。
続きの記憶なんだろう。
異常なほど慎重にドアに手を掛けるとガチャリと音が鳴って家が彼を中に招き入れた。
「新しい入居者か…?」
不可解だが気にせずまずは入る事にした宍戸は足を踏み入れた。

中は予想外に綺麗だった。
リビングに続く廊下を一直線に突っ切った宍戸は、リビングの扉の前で立ち止まった。
誰かいる。コーヒーの匂いがする。
一瞬とまどったが、勢い良く扉を開けた。
「あのーすんませんけど、今この家どうなって・・・・・・・・・・・・」

そこで宍戸は大きく瞳を見開いて言葉を切った。
時間が止まった錯覚、動けなくなった。
「嘘だろ?」
リビングにはすでに人がいた。カップを持って、こちらを見て居る。
「お帰り、亮。髪伸びたな。」
宍戸君とそっくりの顔。真っ黒な髪。
名前は瞬時に今自分の部屋に居るあの人だと分かった。
「嘘・・・だろ?」
その場に崩れ落ちた宍戸君は声も出さず、動かなかった。
長い髪の毛がカーテンのように下に垂れて顔は見えなかった。
泣いてるようにも・・・見えた。
「なんっ・・兄貴・・・。」


「宍戸君の・・・兄弟?」
「その通り。」
またもや気付くと自分の部屋。
「兄だ…宍戸悠。」
宍戸君の家に悠さんが居たという事は間違いなく、彼も吸血鬼になったんだろう。
「ゆうさん…ですか。」
そうだ。と微笑む顔が宍戸君そっくりで不覚にも胸がはねた。

でも……どうして?
どうして宍戸君の兄までもが、吸血鬼の存在を知り、吸血鬼になったの?
どうしたら吸血鬼になるの?
そんなに簡単になれるの?
それに悠さんは私を合宿に連れて行くって…
「私、合宿には行かない事になってます。
満月と被るし…立海の生徒に、危ない人が居るので。」
「あぁ、知ってる。」
当然のように返事した彼に名前はあ然とした。
なら、何故だろう…?
この人はみんなとは違う意見の持ち主何だろうか。
でも勝手に悠さんに付いていって、合宿に参加したりしたら私はみんなの計画をぶち壊しにしてしまうってことなのに…
困った顔をしだした名前を見かねて、悠は口を開いた。
「確かに合宿に人間を連れて行かないって言うのは利口な選択だった。
ただ…」
「ただ?」
名前は悠に目を向けた。首を傾げる。
「立海なんかより、もっと危ないやつがいる。」
「"あの女"ですか?」
勘で言うとそうそうと頭をなでられて照れてしまう。
宍戸君なら自然にはしない行動をやってのけるから…年上って凄いな。
「亮は"あの女"の事誰にも言って無いみたいだな。まぁ、自分が犠牲になれば良いってとこだろうなあいつの考える事だから。」
「?」
"あの女"は宍戸君と関係を持っていて、それで宍戸君は犠牲になっている
そしてそれを彼は秘密にしている、と?
「宍戸君は悠さんにだけ、そのことを言ってたんですか?」
「いや。あいつからは聞いてねぇ。
"あの女"について俺に教えてくれるやつが立海にいるんだよ」
「!?」
「だから合宿場に居たほうが安全だって踏んだ。

だからお前に言っておいたけどな、亮から離れんなって。」



私が瞳を見開くのと彼が目を細めて見つめ返してくるのを、ほんの少し

少しだけ…
少ししか、欠けてない月が照らし出した。



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修正11/4/4

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