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第23話 麗血


その夜名前は自分の部屋の窓辺を見つめながらも、頭の中は空っぽだった。
電気を全て消した部屋の中は白い月に照らされて仄明るい。
酷く浮かない、寂しそうな顔をしている名前が思う事は一つだった
青白い月は音もなく、黒い海の中にぼんやり光をただよわせていた。
(みんな、もう合宿所についたのかな……)
嫌な予感がする。
でも、実際の現状はなにもかも教えてもらう暇なく置いてかれちゃった……寂しいなぁ

…馬鹿みたい。
みんなは私のために何も告げずに行ったのに、
…なのに、

だけど…

依存していたみたいで、とりとめも無いような事が頭の中を駆け巡った。
朝に、いきなりそんなのイヤだって言っておけば良かったのかなぁ。
置いて行かないでって、
構わないから連れて行ってって。
でもきっと、みんなは何でいきなりそんな子供のような事を言うんだって、怒りそう。
ううん…それだけじゃなくって、いきなり忍足さん達に説明されても、言葉を返す隙なんか無かった。
ただ、満足げに笑った宍戸君の目を見てると、私は行かなくて正解だと勝手に頭が理解した。
私の為でもあるし、彼が喜んでるし、溜息と一緒に、望んでもいないのに流れてきた涙にぎょっとした。
涙が落ちないように瞬きをしないように気をつけながら、顔を上げる。
その時・・・
窓辺に座っている男の人と目が、あった。
目が・・・合った?
いきなり体に鳥肌が立ってまた窓辺を振り返ると、そこには影も形も無い。
それもそのはず、見間違いに違いない。
窓辺に人がいるはずが無い。だって、ここは一階じゃない。
上ってこられるはずが無い。
涙で視界がはっきりしないからだ。
じゃ無かったら・・・
名前は頭を振ってその考えを飛ばした。
いや、合宿に行ってるはずだ。皆も立海の生徒たちも。
「はぁっ・・・」
窓から目を離し、ベットに向かった途端
ゆっくりと二本の腕が伸びてきて優しく抱きしめられた。
ビックリして目を閉じる暇なんか無かったけど・・・
すぐに分かった。

この匂いは・・・

“彼”だ・・・

夢を見てるのかも知れない。
夢中になって抱きつくと、目を閉じてしまって大粒の涙が流れた。
「わ、わたしっ・・・っ連れて行って欲しいって、き・・・気付いたの。
・・・なんだか、何だか・・・寂しくてっ・・・ごめんなさい・・・ごめんなさい。」
「連れて行く気なんだけど・・・」
咳き込みながらも、耳に入った声にぎくりと体が固まった。
確かに彼の香りがしたからそうだと思い込んだのに、その声は彼とはすこし違っていた。
・・・だれ?
見上げると、その人の髪は宍戸君のように短くなくて首に流れていた。
でも、顔は見覚えのある顔だった。
もう大混乱だ。
「宍戸君・・・??」
彼は私の両肩にそれぞれ手を乗せて、目線が同じになるように腰を折った。
宍戸君よりも背が高い。
「俺も宍戸だけど」
にやっと笑った拍子にサラサラとした髪が後ろに流れて銀色のピアスが耳についているのが見えた。

「亮じゃない。」



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修正11/4/4

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