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第22話 警告

学校で沢山寝たからかその日は夜になっても眠れなかった。
そんな私が、眠ろうと必死になってやっと見たあの"夢"…
1、2時間だろうか?
もしかすると10分しかたってなかったのかも。

思えば、あの夢は何かを警告していたんだと思う。
後日、私の前に現れた…“あの人”が

気づいたら、私は知らない場所にうずくまっていた。
……寒い。
見上げると、ハラハラ落ちてくるそれは…見たことも無い位、真っ白な 雪  雪  雪
雪以外に何にも無い。
――銀の世界――
寒くて、とにかく心細かった。直後、かすかに聞こえて来る雪を踏みしめる音。その足取りは軽く速くて、人間じゃ無いことは確かだった。
ハッ、ハッ、ハッ
それと共に聞こえて来たのは…犬特有の、息切れみたいな呼吸音。
少しずつ近づいて来る“それ”に静かに振り返る。
そこにいたのは
「綺麗…。」
この白銀の世界に取り込まれるんじゃないかと思う位……
真っ白な狼。

ピンと張りつめられた首元には艶やかでふさふさした毛
長い前足の間からは深い胸、曲線を描いて上がり込んだお腹。
普通の狼よりもっと大きいんじゃ無いかと思うくらい、大きくて
美しかった。
私を捉えたその瞳は、ギラギラ怪しく光っている。
光を受けて黄色の瞳が金色などの光を放つのを見て、自然と自覚する。
純粋な恐怖に襲われた。
彼は“捕食者”
ここに放り出されて無力な私は、“獲物”

そこで、声が聞こえて来た。それは焦りのにじみ出た、聞いたことがあるような声だった。知らない声だと言うのは確かなのに…
「名字名前…戻れ。つねに亮についてろ。」
「亮…?宍戸君…??」
不思議になって呟くと、それをかき消すように狼が吠えた。
まるで、亮についてろ…と言う“誰か”との会話を邪魔するように。

……もう遅いとしらしめているように。

白い世界に遠吠えが響いた。
嫌な夢……。

その夢は何日も続くことになる

数日後いつも通り部活をして家に帰ると、跡部さんからメールがきていた。明日、朝の内に部室に来るように…
さっさとやることを済ませて、ベットに倒れ込む。

朝、約束通り部室に直行した。静かにドアを開けると、冷たい空気が体を横切って行った。いつもこうだ。
「失礼しまぁす。」
……部室の扉は、彼等の世界と私を遠ざけてくれる最後の壁。
でも、いつもドアノブに手を添えたとき浮かぶのは“彼”の顔。
心なしか、私の手で扉を開くのが…開けることが嬉しと感じてします。
「ぅわっ!!」
ドアを開けると真ん前には誰かの胸板。
ビクッとして後ずさると、しっとり濡れた前髪の間から黒い瞳が覗いていた。
「ぁっ…おはようございます。」
思わず口元を隠してしまって、急いでその手を下に下ろす。
シャワーを浴びたのか、眼鏡を外していて髪の毛から冷たい雫が肩や胸に落ちていた。
「おはよぉさん。」
無表情で呟いた忍足さんは部屋の奥に入って行った。

扉から中を覗くと、こちらに背を向けてソファーに座って居る後ろ姿。
忍足さんは更衣室に入って行った。見慣れた背中に呼びかける。
「宍戸君…。」
その声に反応して振り向いた彼は、機嫌が良いみたい。

ううん…
瞳の色が明るいブラウン。
一番はっきり残っている記憶は真っ赤な瞳だったから‥‥‥
毎日夢で見る狼の瞳を思い出して、背中が冷たくなった。
(彼に言うべきだろうか)
でも相変わらず夢では狼と声。それだけだ
あの声ももうはっきりと思い出せるようになった。一言で言うなら、宍戸君のそっくりさんみたいな声だ。

軽く微笑むと、宍戸君はソファーを飛び越えてこっちに歩み寄ってきた。
「名前、お前を連れて行かない事にした。」

 ?!

近寄って、突然告げられた言葉に頭が混乱した。
何言ってるの?
「そんな、いきなり・・・・・・」
合宿明日からなんだよ?
「だから、長期休暇は好きな事でもやっとけ。」
昨日言ってた連れて行く気は無いって・・・本当だったんだ。
それに…違うの
何だかすごく嫌な予感が…
「な?」
「ぇ・・・う、ん」
明るいブラウンの瞳が満足そうに細められる。
三日月型に歪んだ瞳を見ながら私は複雑な気持ちになった。
夢の言う事を聞いたほうがいいんじゃないか‥そんな気が。
さっきから胸元がざわついて気持ち悪い。
「合宿場、すげー遠いから俺らは今日からここを絶つんだけどよ。
お前は最初から連れて行きたく無かったから言わなかったんだ。
ごめんな。」
「せやけど…もしも、ん時はしょうが無いで?」
耳元で囁き声。
びくっ
「…!!!」
笑いを耐えたような…独特のイントネーションにびっくりして心音が加速する。
「それは、どう言う意味ですか?」
名前の行動は忍足の加虐心をくすぐった
後ずさる名前ネクタイを掴んで引き寄せる。
「ぅっ……」
いきなりのことに抵抗を忘れてしまった
ネクタイがきゅっとしまって首に圧迫感が走ったのと同時に後ろから宍戸君の声。
「おい離せよ」
・・・忍足さんには今確実に速くなった私の心音が聞こえてるんだろう。
面白そうに笑った忍足はさらに京羅のネクタイを引っ張った。
(っ、苦しい…)
その瞬間首に回って来た宍戸君の手。
シュッと、強引にネクタイを取り外す。
「…忍足、お前何遊んでんだよ。」
名前のネクタイを指にからませながら眉に皺を寄せる。
そんな宍戸に悪びれる素振りも無く忍足は名前に向き直った。
「ごめんな名前ちゃん可愛いからつい…
はっきり言って、無理に近いっちゅーか無理なんや。だって合宿場に付いて、ほな始めよか。なったときにマネージャーおらんやったら立海も黙っとらんやろ?」
どうやら彼にとっては単なる遊びのようだ。
「途中から、参加せなあかんな。
問題は俺らがどんだけ時間稼げるかやけど…」
口元に手をそえて目を伏せる忍足さん。
深い藍色の髪の毛が静かに揺れる。
「“ウチのマネージャーは熱だして3日後から参加しますー”とか言って納得してくれるような相手や無さそうやん?」
忍足さんの話に聞き入っている私を自分と向き合わせた宍戸君はネクタイを首にかけてくれた。
「それをどうにかしなきゃいけねぇ・・・少なくても3日くらいは。」
「せやねぇ、簡単に言ったらどんだけ上手く嘘つけるかや…」
後ろからの話し声を注意して聞き取りながら、ネクタイをしめる。
すると、一個だけ開けていたボタンを宍戸君にしめられた。
「ぁ、これ、最初から開けて…」
「閉めろ。」
「あ、はい」
でもそう言う宍戸君は普通に第一ボタンをあけている
首はもちろん鎖骨も見える
「??なんだ…?」
「いや…///」
顔、熱ぃ…。手で頬を隠して下を向いた。
「んじゃ遅れっからもう行け、名前!」
時計を見ると確かにもう教室に行かないと危ない時間だ。
「わ、本当だ!それじゃあ・・」
名前は急いで部室を出て行った。
「・・・はぁ、」
突然眉間に皺を寄せてソファーに倒れこんだ宍戸をみて、忍足は力の抜けたような笑いをもらした。
さっきよりツヤのある、低い声。彼の“いつもの”かすれた声で。
「忍足ー・・・お前そういうの止めろよ
つーか、ネクタイひっぱた時点でマジ怖がってたから。」
「別に?気に入ってもらおうとかは思うて無いんやけど・・・
ただ、宍戸の反応おもろかったしなぁ?宍戸?」
「うるせえ。」
ソファーに仰向けになった宍戸は天井を見ながら忍足に視線を投げた。
「満月だけはさけたい。」
「当たり前や。」
「二日後だから、出来れば落ち着くまで五日は欲しい。」
「そんなん無理やって分かってるんやろ?」
「あぁ。」
次名前に会うのが遅けりゃ遅いほどいいとか・・・
頭ではそんなん考えてっけど、
本当は自分がどう思ってるか
俺は気づかないふりをする




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修正11/4/4

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