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第20話 制御不可能


次の日、朝早くから氷帝テニスコートにはテニス特有の乾いた音が響いていた。
「そろそろ時間ですね。」
「おお!ありがとな日吉」
さっさと部室に入っていく日吉に宍戸は後ろから声をかけた。
「俺ちょっと部活出れねぇって、長太郎に言っといてくれね?」
それに日吉は眉をひそめて立ち止まる。
「散々練習につきあわせといて、それはあり得ませんよ。
大体何で鳳とやらないんですか?」
「あいつ、何かと気ぃ使いすぎるから…
つーか、なんとなく。」
「そうですか。」
立ち止まった日吉はまた歩き出した。
(練習にならない…。)
いつもとパワーが違いすぎる。まだ日は射していないというのに宍戸先輩は普通の人間位の打球しか打てていなかった。
(なにか…あるみたいだな)

その後、宍戸が制服に着替えて部室を出たときにはもうとっくに授業が始まっていた。
教室に行く気にはならない。保健室の先生が今日出張で居ないらしい事を思い出し、歩き出した。
保健室には、用がある。
首筋を押さえた宍戸の手には、はっきりと二つ穴の開いている感触が伝わってきた。
こんなとこは自分で治せねぇし。

ついた保健室には案の定誰も居なかった。
椅子に腰掛けた宍戸は、片手でネクタイの結び目を緩める。めんどくさくなり全部とってしまう。シュルシュル、首元をすり抜けていったネクタイをひざに掛けてボタンを外そうと首元に手をかけたとき・・・・・・
ガラガラ・・・
「すみませーん。」
扉を見るとビックリした様子で顔を赤らめている見たことも無い女子生徒。
(俺、昨日のせいで貧血なんだよな。)
そのまま見詰め合って、俺は優しく笑いかけた。
女子生徒はその様子に動揺しながらも笑顔で答える。
そのまま、俺はそいつに近寄るとかなり動揺しているようで少し悪い気もしなくは無かった。どうやら視線は俺の制服を見てるようだ。

まぁ、保健室で一人で脱いでたら変な勘違いされかねねぇもんな。
「ちょっと、こっちこいよ。」
俺の頭に浮かんでいるのはもう、一つのこと。
「え、あの///」
求められているとでも思ったのか表情に隠しきれて居ない期待が見え隠れする
まあ、求めているのは確かだ

     血

「いいから、」
そう言って引き寄せると瞬間、鼻を突く香水の匂い。
(・・・っ、ユリ?)

一気に気持ちが悪くなる。
「え?」
様子が変わった俺に、戸惑ったように顔を覗き込んでくる。
あぁ・・・なんだよ!!
瞳が暗く、暗く染まっていく。
どんどん下がっていく、体温。
「やっぱ一人になりてぇから出てってくんね?」

パタパタ…
保健室から走り去っていく音を聞きながら、椅子に深く座った。
目をつぶって、呼吸を整える。
鋭くとがった牙が下唇にあたっていてさっきの感情を抑えきれていないのが分かる。
まじ、どうにかしねぇと。
牙を舌で舐めながら天井を見上げていると、

「・・・宍戸君?」
この声…
体が反応する間違いない。
「・・・名前?」
「うん、あの、跡部さんに聞いたら教室来てないって。」
保健室かなって。と微笑みながら言う名前。
「来てくれんのは嬉しいんだけどよ、タイミング悪すぎ。」
「え、タイミングって・・・」


言いかけた言葉はつなげられなかった。
宍戸君が強く抱きしめてきたから。
「う、あ。し、ししど…」
「今日はマジで無理、限界」
耳元に囁かれる言葉に心拍数が早まる。男の人に抱きしめられたことなんて初めてで。
もう、心臓が壊れそうだ。切ない声で言うもんだから、身体が熱っぽい。戸惑いながら、さ迷っていた腕を宍戸君の背中に手を回す。
身長差があるからか、やっぱり男の子と女の子の差なのか、背中がおっきかった。
「名前。」
さらに強く抱きしめられて息が出来ない。

(もう、止められねえかも。)
抱きしめ返してきた名前にぷっつりと頭の中で何か張り詰めていたものが切れてしまった。名前のネクタイに指をかけて早急に緩める
シャツをずらせば見えた白い首筋からは香りがする
唇をそっと押し当てて、歯の間から舌をのぞかせた。
「っ、」
その感覚に名前の口から酸素を吸い込む音が聞こえてきた。
牙が邪魔になり始める。
いきなりの事に恐怖を感じたのか俺の背中に回していた手が引っ込んだ。
でも、俺は離さない。
こいつ特有の甘い匂いで頭がクラクラする。
いままで必死に我慢してたくせに、案外あっけないもんだな。とか、どこかで感じた。
ただただ本能が言うままに、欲望が疼くままに。
(駄目だ)
とっさに手のひらで口をふさいだと同時に、俺の牙には皮膚をつらぬく感触が走った。
そのとたん、叫ぶ名前の声。
「痛ッてぇ。」
思いっきりだったようで思ったより深く穴が開いていた。
(今のまま噛んでたらかなり血出てたな…)
そんなことを創造する自分に恐怖を感じた
流れる血を舐めると瞳の色は赤く染まっていく。
その様子に名前は目を見開いていた。
怪我をしていないほうの手で引っ張って、そのまま腕の中に閉じ込めた。
「怖いだろ?」
逃げようとしてももう離さねぇから。


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修正11/4/4

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