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第19話 急ぎ足

 プーッ プーッ
「宍戸っ!?…切れちゃった。」
どうしちゃったの…?
嫌な汗が伝っていく。
慈郎は嫌な予感を振り払いながら、上着をひっつかんで玄関を飛び出した。
マネージャーの…
名前の家に。


逃げなきゃ…!!!
口を塞いでいる手に、思いっきり歯を立てた。
「!!いってぇ・・・。」
腕が離れた瞬間に、やっとの思いで彼から逃げ出した。
(逃げろ!)
もう、息を吸う暇も無い。
後ろを振り返らず階段を駆け上がった。
後ろでわめく声を聞きながら、それすらも聞こえるか聞こえないかの間に自室に滑り込んで鍵を閉める。
勢いあまって床に突っ伏したが、即座にドアから後ずさる。今にも扉を蹴破って来そうで肩の震えが止まらない。へたり込んだまま後ずさりする。後ろに進んだ背中は、壁に当たって停止した。
"壁に当たって"停止したよりも、"頭をよぎった言葉"に停止した。のほうが、最適だった。

“鍵、閉めて寝ろよ”

あの日、宍戸君が注意した言葉。

“部屋の窓の鍵、閉めて寝ろよ”

もう一度その言葉が頭をよぎった時には、もう遅かった。
  ス――
背後で、窓がゆっくり開く音。
意識が、遠退きそうになった。

「よかったぁー!名前ちゃん、ココにいたC!」
えっ、この声…
「……あ、くた川君?」
「そーだよ。今日はごめんね〜。驚かせちゃったみたいで。
慈郎でいいよ!」
ごめんね、とは部室でのことを言っているんだろう。
「慈郎君。なんで、ここに…」
がちゃりと後ろのドアが開く音にびくっと飛び上がった
「よー、芥川!」
慈郎君の表情が驚きへと変わる
「え、丸井君…?なんで?」
混乱状態の慈郎と名前を無視して、ブン太は名前の腕を持ち上げた。
「おかえしー。」
  ぶつり
「ひあっ!!!」
本気でかんだのか、犬歯が肌に突き刺さっている。
皮膚の焼けるような痛さに言葉が出ない。
ぐっさりと、さされた牙が素早く抜けた。
「じゃな。芥川♪」
"丸井君"はふっと口を吊り上げて窓に足を掛けた。なんて人だ。そう思いながら、窓辺から飛び降りる背を見送った。

「っ、痛い。」
じんじんと痛む腕を見ると血が止まっていない。その腕を、芥川さんが包み込んだ。
「ごめん。治してあげる。」
そう言うと、傷口に唇を近づけた。
そっと、吸い込むように傷を治していく。
   何、コレ
「特殊でしょ?吸血鬼は治癒能力が高いから。
ちょっとその能力を分けてあげたの。」
「ありがとう…さっきの人とは知り合い、なの?」
そういうと慈郎君は眉をひそめた。
「なんていうかね・・・お兄ちゃんって言うか、なんだかそんな感じでしたってるんだ。俺。同じ歳位なのに、可笑しいよね。」
「あの、人を?」
「そのせいで、さっきのは戸惑っちゃって。助けてあげれなくて、ごめん。」
「いや、別に…」
「ごめん…名前ちゃん。」
そう呟いて明け渡された窓に視線を向けた。

「ごめん…宍戸。」

もうその声は、泣き声に近かった。

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修正11/4/4

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