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第17話 悲哀

あれは、俺が丁度13か、14位の時だった
その時から、俺はまともに生きれなくなったんだ
俺は、あの時…変わってしまった

学校の帰り
ぼーっとしていた俺を正気に戻したのは首筋に走った激痛

瞳を開けると見覚えの無い部屋
随分と眠っていたかのように、身体がなまって重かった
「宍戸…亮
やっとみつけた私の…」
隣から聞こえてきた声にびくりとしてそっちを見ると、一人の女が座っていた
「あんた誰だよ?」
起きて感覚がはっきりしだしたのか、身体が痛み始めた
頭も痛いけど、首が……痛い
「ユリナ…
百合菜様って言ってみて?」
「は?なにいってんだよ」
「駄目」
その女は俺の顔に手を伸ばしてきたかと思うと、さっきから一番痛む首に指をやった
時々爪を立てながら撫でるように指を滑らせる
「まだ人間だからしょうがない…変身すれば二度とそんな口聞けなくなるわ」
笑いながら満足げに傷を触る

痛い
「さわんじゃねぇ」
顔を歪めて起き上がると、首に手をやった
何でこんなに痛むのか自分でさすって確かめて、有り得ないことが分かった
「…んだよ、これ」
二つ
穴の開いている首筋
さっきより痛くなってきた。火が、燃えてるみたいな。
「ほら、変化が始まってる
亮君…もうちょっと寝てたほうが良いみたい」
その言葉を最後に、俺はシーツに吸い寄せられるようにベッドに倒れていった
普通、吸血鬼が吸血鬼の血を飲む事はしない
吸血鬼は人間から血を飲むだけで本来なら飲まれることは絶対無い
なぜなら、吸血鬼は自分の身体の中にある血の量が一定より減ってしまうことを嫌うからだ
その体の拒絶反応は想像を絶する
でも、宍戸はいつもその状況だった
「はぁ、っ…はぁっ…」
両手をついて、息が切れている俺と微笑んで俺を見下ろしているこの女
毎回、自分の好きなときに俺の部屋に来ては寝ている俺の首筋に口を寄せて、牙を立てる
毎回、襲ってくる激痛と気持ちの悪さ。肺がどこかに行ってしまったような苦しさに酸素を取り込もうと必死になる

最初の頃は苦しくて、痛くて…嫌で
ぼろぼろと床に落ちていく自分の涙を見ながら喉が痛くなるくらいに咳き込んでいた
いつも、あいつは前に立ってそんな俺を眺めながら、唇についた俺の血をふき取っていた
月一度、最大でも三ヶ月に一度のペースで俺の前に現れる。
―――――コンコン
「…・・・・。」
「亮様?いらっしゃいませんか?」
「………・・・・・・います。」
ドアを開けてると使用人のような者が、赤いものが入ったボトルを持ってきた。
「亮様、百合菜様がもうそろそろ耐えられないんじゃないのかとの事で、持ってまいりました。」
真っ赤なボトルが何であるか、使用人が入ってきた瞬間の匂いで分かった。
ボトルに目を移したまま、ごくりと喉がなる
机に、乗せられたそれを残して使用人が出て行った
ゆっくり近寄って、手にとって匂いをかいだ
(…っあああ!)
喉が燃えあがるように干からびる
ボトルの口に顔を寄せた宍戸はボトルを机に戻して飛び退いた
これを飲めば、俺はもう完全に吸血鬼という化け物になると
何処かで思った
体は変わっても心まで変えられたくなかった
――だから・・・
薄く開いた唇に彼女からあたえられた白い牙を覗かせて、自分の手首に噛み付いた
右手を気持ち悪くつたう赤い液体を宍戸は一心にむさぼった
俺が自虐行為をやめるまで、手首に巻かれた包帯は取れることが無かった
直ぐに俺の歯に食いちぎられる包帯は、こりず嫌がらせのように巻きなおされた

もっとあの女に汚染されて……
気が狂う程の孤独感でどうにかなりそうだった時に…

跡部に会ったんだ


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11/4/2

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