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第16話 百合

この女の甘ったるい百合の匂いは……

お前の香りとは違って

気持ちが悪い―――――

「ひっ…っ!?」
口をふさがれたことによって声が出ない
     怖い
「ふーん」
思わず背筋が凍りついた。
私たちと同じくらいの、変声期が通り過ぎた少し幼さの残る低い声
「ずいぶんと大事にされてんだな」
後ろから髪をかきあげられると首筋に視線を感じた
「噂のbloody roseなのに、まだ噛まれてないのかよ?」
「っ!!」
その言葉に彼が“何であるか”を瞬時に理解した
テニス部の皆から聞いたことのあるワード
Bloody Rose
私はポケットに手を突っ込んで、かんを頼りに携帯のボタンを押していく
――宍戸亮
ちょうどそこに来たとき、ダイヤルボタンを押した
「仁王の言う通りみたいだな」
お願い、出て!
プルルル……プルッ…
『・・・・はい』
出た!急いでポケットから携帯を取り出した
「宍戸君っ!?っあ!」
「直ぐ宍戸に言うのかよぃ
面白くねえじゃん」

……腕から携帯が取り上げられた

瞳に涙がこみ上げる
この人はいったい誰なの
   怖い

「名前?
……名前っ!!」
プチッ…
何の返答もなしに切られた電話に焦りがこみあげる
瞳を見開いた宍戸は、電話をかけなおすために部屋を出ようとドアに急いだ
「亮?何処行くの…?」
そのとたん腕に回された白い指に思わず立ち止まった
「……電話です」
視線を外して部屋から出た
直ぐに携帯を開いて登録しているアドレスを開く
時間が無い、
それに俺は今名前の所に行ってあげれない
アドレス帳…一番最初に表示された名前に電話をした
「慈郎っ!」
「んー?どうしたの宍戸?」
「お前が良く行くコンビニあんだろ?
前にムースポッキーがどうとか言ってたとこだよ!」
「うん
……宍戸、何かあったの?それに、声、かれてる」
「何でもいいから、あのコンビニから右の道に入った通りに秋山って表札がかかってる家があるから!」
「そこに行けばいいんだね?!」
「おう! 慈郎出来るだけ、いそ」
首の下から入ってきた冷たい手が勝手に通話を切った
瞬間香る、百合のかおり
「亮」
高く響くその声に唇を噛んだ。
「何ですか?」
「誰と電話なの?」
背中にぴったりと張り付かれて息が詰まるような感覚に襲われた
腰に腕を回されて、きゅっと抱きついてくる
「百合菜様…」
覗いてくる真っ赤な瞳
昔から覚えさせられた名前
今は口に出すのにも吐き気がした
でも主人に従順な吸血鬼の本能にそう簡単には抗えない俺はこれからまた始まるであろう苦痛に恐怖を覚える
「二回目、ね?亮…」

呼びたい名前は一つだけなのに

今会いたいのも一人だけなのに

鎖につながれて 

記憶に植えられた名前を呼んで

俺はこの女に縛られている

刻まれる牙の痛みをやり過ごす術は
昔覚えてたはずなのに……

お前が甘すぎて

お前が俺に温かすぎて

今になってまた傷が痛み出したんだ


「入りましょう?」
手をひかれて部屋に入る
久しぶりに会ったこの人
なんで俺の居場所を知ったのか
俺は一生会いたくなかったのに
この女が何しに来たかなんて、そんな理由一つしかなかった
首筋にそえられた細い指に、冷や汗が出てくる
俺でも痛いのは嫌だ
柄にも無く出そうになる涙をプライドでどうにか我慢して目を閉じた



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