15 [ 16/30 ]

第15話 沈黙

名前の血の匂いで部室のドアを開けたが、その俺に香ってきたのは想像を絶する血の香りだった
「はぁっ…はぁっ…っ」
初めて直にかいだ名前の血の香りに全身に鳥肌がたつ
思わず頭をかかえて座り込んだ
(何も感じるな…)
酷く甘ったるい、アイツの血の匂い
(クッっ!やべー)
異常なほどの心拍数
名前の首筋にとろけるような黒い瞳を向けた宍戸は、押さえの効かなくなりそうな自身に視線を外して向日を睨んだ


以前、跡部さんの家で目の変化を見せてくれた時のように瞳を閉じて深く呼吸をくりかえしている宍戸君‥‥
「あ、宍戸く…‥」
「名前、今は宍戸の近くに行くな」
心配になって歩みよろうとするところを跡部さんにとめられた
でも。と、もう一度宍戸君の方に視線を向けた私は息を飲んだ
薄く開かれた唇から、白い“牙”が覗いていたからだ―…‥
「とにかく。話を始めるぞ、いいな!」
ソファーに腰をおろした跡部さんは静かに周りを見渡した
皆、そのままの状態でそちらを見る
「あ、の跡部さん、私今日からマネージャーをするんですか?」
「あぁ名前。勝手に決めて悪かったな」
「跡部から謝るとか珍しいな侑士」
「せやなぁ、お嬢さん何もんやろか」
「忍足、向日!私語を慎め!名前の親には了解を得ている」
「あ、そういうことなら。全然構いません」
すると跡部さんは満足したように口の端を吊り上げた
それにしてもお母さんったら、私が一人になることが多いからって今まで部活に入らせなかったくせに...
「まず、昨日宍戸と鳳が立海の仁王と切原に接触にたのは話したな
やはり立海から合宿の書類が届いた
まぁ前々から合宿をやることは決めていたが、問題は日程がはやまった事だ
学校の長期休暇に合わせて2週間程」
「合宿‥‥」
ぼそりと一人呟くと、疑問が浮かぶ
日程が早まった事が問題なんだろうか‥‥?
「被るん?満月と。」
もう一つのソファーに足を組んで座っている忍足さんが興味ありげに呟いた
「…そうだ」
そちらに視線を向けて簡潔に答える跡部さん
その答えに周りの空気が凍りついた
その中で一人跡部さんを横目で見ていた日吉君がまさか。という風に聞いた
「…そのマネージャーを連れて行くはず無いですよね?」
「それが立海の要求だ、日吉」
「遊ぶ気かなぁ〜」
慈郎の言葉に眉間に皺を寄せた跡部さんは綺麗な顔を歪めた
それに、向日さんも呆気に取られたように声を発した
「まじ…」
その横で忍足が切れ長な瞳を宍戸に向けた
どこまでも楽しんでいるような藍色の瞳がゆらりと揺れる

「宍戸…、その子。

満月やって、耐えきるん?」

戸惑うように視線を下に投げる
そのようすを見て忍足は跡部に目を向けて、口を開いた
「場所はどこなん?」
「俺様の別荘だ」
「やろな」
そっぽを向いた忍足
名前は瞬きを繰り返した
(跡部さんの別荘って……やっぱ噂通りお金持ちだ...)
ぱんっと手を叩き、跡部は皆に向かって口を開いた
「今日はここまでにする、解散!」
それに皆席を立った
それぞれが部室をさっていく
「あの、宍戸君」
「あ?」
「大丈夫…?」
最後に残った私は座ったまんまの宍戸君に声をかけた
「あぁ」ってうなずく宍戸君の右手を両手で掴んで立たせようと引っ張ったけど、私の力ではなかなか立たせられない
しばらくして、私が何をしようとしているのかきずいた宍戸君は私の手を離しはしなかったものの、自力で立ち上がった
「合宿、楽しみ?」
何を言えばいいのか分からないままそう聞くと宍戸君は、顔を歪めて私と目を合わせた
不安に駆られる
私何かいけないことを言ってしまった…?
「お前は、俺たちが…俺が満月にどうなるかしらねぇからだ」
「え…?」
宍戸君の瞳を見上げた私に宍戸君は目をあわせずに部室を後にした


――そう
彼らが満月にどうなるのか
何故そこまで満月を強調するのか‥‥‥
全てを知らないでいた。


ジャー
蛇口からでる水音だけが静かなリビングに広がっていた
あれから数日間私はマネージャーとして部活に参加している
部活にも慣れた
予想と反して部員200人のテニス部には一人もマネージャーが居なかった
マネージャー希望者は居るもののみんなメンバー目当てで部活が続けば続くほどきついといって止めていくらしい
それで跡部さんは去年からマネージャーをとることを止めたそうだ
でもかわりに1年の新入部員達がマネージャー業をしていて彼らと一緒にマネージャー業をすることで思ったより大変ではなかった

でも1年生達に紛れて雑用をしていると跡部さんや宍戸君に"レギュラーの仕事だけしてくれたらいいから"とたびたび言われた
でもせっかく1年生の後輩達と仲良くなれたし"はい"と返事はするもののこっそり一年生達にテニスについて教えてもらったりした
部活後は宍戸君と長太郎君が家まで送ってくれた
帰りにそのことを話すと宍戸君に怪訝な顔をされたけど..
『テニスのこと知りたいなら俺に聞けよ』
『でも、宍戸君忙しいでしょ?』
『おまえなぁ、そういうの気にしなくて良いから』
『うん』
長太郎君が(なぜか)思わず笑ってしまって宍戸君は長太郎君を鋭い目で睨んでいた
『長太郎お前後で覚えてろよ』


私は今、一人キッチンに立って晩御飯の後片付けをしている
お母さんは今日は帰ってこないらしい
単身赴任のお父さんが帰ってくるのはまだまだ先だ
リビングにぼんやりと投げかけていた視線を壁に掛けてあるカレンダーに移した
急なことで後3日後にはもう合宿
何ともいえない不安と期待が名前の胸に広がっていた
ガシャン!
「っあ!!」
ぼーっとしていたせいで、手からお皿が一枚床へと落ちていった
ばらりと砕けたその破片をかがんで手にとる
少し力を入れれば直ぐに手を切ってしまいそうだった
跡部さんに部活中はは血には気を付けるように言われていた
「…はぁ」
なんとなくその言葉を思い出しながら鋭い部分に注意して集めているとき、あることに気がついた

一気に鳥肌がたつ

(い、今...)

………だれか、いる
静かなリビングに広がった笑い声と、呼吸音
次の瞬間、私は誰だか分からない“彼”に口を塞がれた
宍戸君からはしそうにないチョコレートのような甘い香りと、聞いた事の無い笑い声
一瞬瞳に移った色は、綺麗な赤だった


第十六話へ
修正11/4/2

top
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -