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第十二話 香

トクン トクン
 トクン トクン

貴方の胸に頭を預けて
瞳を閉じた
危険な香
それを漂わせる銀髪の仁王
相手を不安に陥れるような
金色の瞳と綺麗な銀髪
頭の中はそればかり
心臓が早鐘のように
打っている……
でも私の肌に伝わってくる
貴方の鼓動と確かな熱で
私は確かに
…救われる。



―逃げるんすか?―
くそっ‥‥
胸くそわりい
名前をしっかり腕に抱え込んだままさっきからかなり早めている足に更に力を込めた
胸の奥がじりじりと焼かれるみたいだ
…イライラする
黙って俺の胸に頭をもたれている名前の心音が直に響いてくる
さっきの緊張がまだ取れてないからか、その音は早かった
「宍戸君‥‥?」
不安げに響く声
小刻みに鐘打つ心音
どれも今は苛立ちを募らせる要因に思えた
はぁ…俺、ガキみてぇ
激ダサ
無意識のうちに溜息が出る
何にも言わない俺に何を思ってか名前はまた口を開いた
「宍戸君のせき…」
“責任じゃないよ”
そう言葉をつなげようとしてんのがわかるから、それを言わせないためにわざと足を止めた
大体、こいつがあんなにびびってたのは俺が仁王の挑発に乗った事にも関係あるわけで…
少なくともこいつの責任じゃねぇ
「名前‥‥」
スッと瞳を細め、すまなさそうに見下ろした
すると名前は
「気にしないで
私、何にもされてないし」
“大丈夫”って
微笑みながら俺に言った
大丈夫じゃねぇくせに
でも、その笑顔に俺は安心した


私の言葉を、素直に受け取ってくれたのかは分からないけど、宍戸君は幾分かすっきりとした顔で私を見下ろしていた顔を上げた
あごでくいっと前をさしたので、つられて私も宍戸君の視線を追うと、もう家は目の前だった
ゆっくり降ろしてもらう
「あ…
あの、送ってくれてありがとね?」
薄暗い中彼の顔を見上げて告げると宍戸君も年相応の明るい笑みを顔に浮かべた
「別に
そーいやあ‥‥これからは部屋の窓の鍵閉めて寝ろよ」
「え…何で知ってるの?」
確かに私の部屋は窓の鍵を開けたまま、
最近は寒いからきっちり閉めてるけど鍵はいつもどうでも良いや。って思ってかけてない
「前窓開いてたぜ。あ、送ったときな」
「ぁ‥‥」
そう思えば…
「‥‥私、宍戸君に送ってもらってばっかりだね。」
正確に言うと今回で3回目、
前は長太郎君も送ってくれた
最初は抱かれたまま半分寝てたから分かんないけど
今更だけど、頬がほてるのが分かった
「気にすんなって
つーかもう寒いから家入れ」
「うん、そうだね。上着ありがとう」
気付いたらまだ着た
ままだった宍戸君のブレザーを脱いでお礼を言いながら手渡した
「おう」
見上げると彼のつり目と目があった
「あ、じゃあ、ね」


家に入って行った後ろ姿を見送ってポケットから携帯を取り出した
開いてすぐに長太郎に電話をかける
プルルル‥‥プルッ
『はい。』
呼び出し音が数回も鳴らぬうちに、通話口の向こう側から声が聞こえてきた
「‥‥長太郎、どうなった?」
先程からの苛立ちの原因となる事を実際口に出してみると、予想通り‥‥‥‥いらついた
『すぐ帰って行きました。
ただ、言われた事がありまして‥‥‥』
「‥‥おう。」
…名前から受け取った上着に腕を通す
…甘い
頭がしびれるようなあいつの香りがした
「跡部ん家に行くぞ」
『はい。』

気が付けば‥‥
貴方の香りに安心して
今思えば‥‥
貴方の香りに癒される

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