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第十話 オニキス

窓から見える空の色は薄暗くて夜が近づいていることを知らせていた
まるで帰らなくても、良いのかと告げてるよう‥‥…――
私は頭に浮かんだそれに何考えてるんだろうと、頭を振った
外から風が巻き上げられる音がする
先ほど家に連絡をしなければと言ったところ、すでにしてあると言われた
跡部さんと鳳君は先ほど部屋を出て行った
彼は、なぜ彼らが氷帝学園を選んだのかという事を話してくれた
跡部さんによると
数カ所、彼等が集まる場所があり、それの一つが氷帝学園だとのこと
なんと氷帝レギュラー陣は跡部家に関係あるか、あるいは跡部さんが自らえらんだ吸血鬼達だという
あのいつも寝ている芥川慈郎君までもが、だ
そういえば、と先ほど車内で浮かんだ事を思い出した
「瞳の色の事、教えて欲しい…」
そう言うと、逆に宍戸君に問われた
「お前は、今までにどの色を見てきた?」
そういえば…
練習試合を見に行ったときの
宍戸君の漆黒の瞳と
昨晩の、鳳君の赤い瞳
それだけだろうか……
「黒と赤、かな」
「あたってんな。」

私は横に体勢をずらして隣の宍戸君と向き合うように座った

「瞳の色が変化するの?」

信じられないように聞くと彼はあごを引いて頷いてみせる

「瞳の色が深まって最終的には黒になる
どんなときになるか教えてやろうか?」

彼の問いに私は興味ありげにうなずいた

私の肯定の合図を受け取った宍戸君は「じゃあ」と私の手首をつかんだ

いきなりの行動に体をこわばらせる
宍戸君はそのまま手首に冷たい指をそえて、探るように滑らせた
ピタリと止まった指
(確か、そこって‥‥‥脈?)
宍戸君は脈を計るようにそえていた手を離し両手で私の手をつかむ
そのまま引っ張って、私の手首を自分の方に近付けた
手首に視線を落としたまま
「俺は、こっからでも名字の血の匂いが分かる
名字の血は俺にとってすげぇ香りだから」
「宍戸君にとって…?宍戸君にだけってこと?」
「その話は、またいつかするつもりだ」
そういって私を見た彼の瞳に確かな変化が訪れた
ありありと深く染まっていくその色に私は息を飲んだ
「?!」
…明るいブラウンの瞳は、ソファーの側のテーブルのような色になり、徐々に深い焦げ茶色に染まっていく
ついには瞳孔との見分けが付かないまでに深まった
文字通り真っ黒な目はシャンデリアの光りを反射して黒い宝石みたいに光っている
宍戸君はまぶたを落として小さく息をすった
「ここまでだ」
彼はそういうと私の手首をパッと離した
いきなりの喪失感に腕はなすすべも無く重力に引っ張られてソファーに落ちた
「はぁ…」
目の前の宍戸君は瞳を閉じたまま呼吸を繰り返している
「ここまでが、今の俺の耐えられる限界」
上がった瞼の下からすっかりブラウンに戻った瞳を覗かせて彼は言った
つまり、血の匂いを強く感じたときに瞳の色が変化するって事よね?
でも「俺にとって」とは、どう言う事なのだろう
1人で考え込んでいると
ガチャ
部屋の扉が開く音がして、跡部さんと鳳君が入って来た
「宍戸、鳳、名字。もう暗いから帰れ」
跡部さんがそう言ったので
壁にかかってある時計を見てみると
すでに9時を過ぎようとしていた
「うそ、もうこんな時間…」
「車を呼ぶ」
跡部さんの家の玄関で私達は振り返った
「今日はありがとうございました、跡部さん」
そういうと、跡部さんは口の端をつりあげて言った
「名前、なかなか気に入った
それじゃあな」
「!!あっ、はい!」
(名前…知ってたんだ)
跡部さんは振り返る事なく屋敷の中へ入って行った
今一度外からの屋敷の広さを見て改めて凄いと思う
すると
「名字先輩、俺名前先輩って呼んでも良いですか?
俺は長太郎で良いですよ」
私の肩に控えめに手を触れた鳳君がきいてきた
その瞳もまた
控え目だ
私は長時間彼等と居たので、鳳君に対する反応も薄れて来た
笑顔で返す
「うん、名前で良いよ
私も長太郎君って呼ぶね
宍戸君も普通に名前で呼んで下さい」
「ありがとうございます」
「おう」
と二人も幾分柔らかい表情で返してくれる
そのことに安心した私は、そそくさと用意された車に乗り込んだ
車内で一番先に口を開いたのは長太郎君だった
「名前先輩、なんか難しいかもしれませんけど、跡部さんの話いろいろ理解できました?」
「うん
何で貴方たちが氷帝学園に通ってるかって
貴方たちが集う場所が、たまたま氷帝なんだよね?」
私がそういうと、宍戸君が口を開いた
「まぁ、俺らも何で氷帝なのかはわかんねぇけどな」
「跡部さんあたりが決定したんじゃないですか?
ここらでそういうの決めれる人、跡部さんだけだし」
新しい情報に私は頭を縦に
振った
「後は、どんなときに瞳の色が変わるのか」
ちらりと宍戸君を見ると、言ってみろというようにこちらを見ていたので、私の考えをのべた
「えと、血の匂いをかいだときになるんだよね?」
その言葉に長太郎君がうなずいた
「あたってます
けど詳しく言うなら、ただ単に嗅いだだけじゃなりません
血を欲しがってる時とか、惹かれるような香りがしたときです」
「惹かれる?人によって血の匂いって違うの?」
「はい、糖、脂質、アミノ酸、タンパク質、各種ホルモンの濃度やらで香りは変わります
体臭と同じようなものです
兄弟なら似てますしね」
「…すごい」
「まあ俺が言う"惹かれる"は我慢がきく範囲の事です簡単に言うと、感情が高ぶったときです」
「そうなんだ…宍戸君はそういう香りの人に会ったことある?」
そう聞くと宍戸君は眉に軽く皺を寄せて、私を見つめた
意味が分からない私は、軽く首を傾げる
「何度か…けどそいつらは我慢できるレベルだったけど」
ふいに顔を背けた宍戸君が運転手に「ここで良いです」と告げた
ブレーキを踏んで、車が止まったのを確認すると、先に降りた宍戸君が私達を後から降ろす
「降りろ。名前の家すぐそこだろ」
そう言われて見ると確かに見慣れた住宅街だ
私の家の近所だった
「?あれ、そういえば宍戸君は何で昨日私の家、知ってたの?」
瞳に不信の色を浮かばせる私に宍戸君は少し慌てた顔をした
「昨日眠っちまった名前を家まで運んだのは俺だろ?
昨日はお前の生徒手帳に書いてる住所で家がどこか分かったんだ」
「だから、変な目で見んな」とさっと歩き出してしまった
その後ろを小走りでおう私と車にお礼を言っている長太郎君
3人の影を月が綺麗に照らし出していた

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修正11/4/1

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