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第九話 異香の館

流れるように走っていく車に
乗っているのは、私と彼。

ついた先は明らかに周りと異なる雰囲気を醸し出す洋館

跡部邸


忘れていた緊張感が今更ひしひしと体に伝わって来た
ブレーキを踏んでゆっくり速度を落とし、車が止まったので私はそそくさと車から降りた

周りを囲む森のような木
薄暗い空にうっすらと見える白い月

肌にピリピリとした感覚が走った

大きな玄関門の前に立つ。
宍戸君はアンティークなそれに一体化したように備え付けられたインターフォンに指をそえて軽く押した
すると一時の間も与えずに、静かに開かれた扉から数人のメイドが顔を出した

その中から一人、こちらです
とだけ言葉を発したメイドはツカツカと冷たい廊下を進んでいく

無言になってその後を付いていく私とポケットに手を突っ込んだまま、その数歩後ろを歩く宍戸君

カツン カツン

廊下は電気の明るさで温まってなどいなくて、ひたすら冷たさを感じさせた
壁にかかってある絵画は全て見ただけで触れてはいけない物だと言うことが分かる
歩けば響く足音に、緊張のせいか小刻みに震える腕を抑えるように掴むけど、反対に心に余裕が無くなっていった

緊張のあまり固まりそう――……‥‥

「おい、大丈夫かよ?」

見かねて声をかけてきた宍戸君に無言で頷く

その時、前を歩いていたメイドがココです。と言わんばかりに扉の前で立ち止まった
ドキドキと早まっていく鼓動に深呼吸を繰り返した
扉を開けるべきなのか、どうなのか迷って居ると

「んな、緊張する事じゃねぇだろ」

後ろからのびてきた腕が目の前のドアノブに手をかけた

「あっ!心の準備が‥‥‥」

私の言葉も無視して宍戸君はそのままドアを勢い良く押した

広い部屋には
上等な絨毯と本棚で埋められた高い壁

真っ先に名前の視界に入ったのはこちら側に背を向けている革張りのソファー
肌寒いくらいの部屋の中で、そのソファーの横に薄暗くランプが一つともっていた

薄暗く奥まではよく見えない部屋の中で
すらりとした影が立ち上がったのが見えた

思わずあとずさると後ろに立っていた宍戸君の胸にぶつかった
思わず肩がこわばる
部屋の中から微かに喉を鳴らして笑う声が聞こえてきた

そのままゆっくりと私たちの方に近づいてきた彼の顔が廊下の光を受けて浮かび上がった

瞬間、息を飲み込む

水面のように薄暗い中でもキラキラとゆれるアイスブルーの瞳に
さらさらとした茶髪
綺麗につりあがった口元からは小さな笑い声が漏れている

「5分ほど遅刻だ、宍戸」

流れるような声で言う彼は、昼間学校で見るのとは数段違った
高貴なオーラが流れ出ていた
その言葉に口を開いた宍戸君。

「別に気にしねぇだろ?」

「まぁ、名字を連れて来たことに代わりは無いからな。
   入れ」

一歩踏み入れると心地良く薔薇の香りが広がった
跡部さんは私達を招き入れると部屋に明かりをともした
薄暗さに目が慣れてしまっていた私は突然の光に思わず目を閉じる

目を慣らしてもう一度見てみると、さんさんとした光を放っているのは高い天井にぶら下がったシャンデリア
映画等でしか見たことのないそれに思わず瞳を見開いた

スッ

惚けていた私の肩に軽く手がそえられる

「こんばんわ、名字先輩」

振り返るとそこには微笑んでいる鳳君がいた
私も少し後ずさりなが、こんばんわと返して置いた
笑顔がひきつっているのは自分でも十分承知だ

「あの、朝も言いましたが昨晩は本当にすみませんでした」

私の行動に軽くショックを受けたのか、鳳君は肩を落とした

「名字、長太郎も悪気があってしたんじゃねぇし」

その様子を見て苦笑いしながら宍戸君が言った
それは、私も理解しているつもりだ
好奇心であの教室に近づいた所からすれば元は私のほうにも責任がある
――けど、やっぱり体が勝手に構えてしまう

その様子を見ていた跡部さんが私たちをソファーに促した
急いで座ると私の前の席に座った跡部さんに見つめられた
彼は教室でも、コートでも、特別な存在感を持っている
眼差しに有無を言わさぬ圧力を含んでいた

「まず、ここに呼んだ理由は…分かってるな?」

すっと一度深呼吸して、出来るだけはっきりと答える

「はい」

私の返事に納得を示した跡部さんは続ける

「突然だがお前の俺たちに対する思いを知りたい
俺たちをどう思っているのか、その答え次第でいろいろ変わるからな」

頬が引きつるのが分かる
私は色々と考えた後、一言づつ、言葉を発した

「あなた達みたいな"存在"を信じてなかったし、あり得ないと思ってたから、私昨日は…」

そこで一度止める
跡部さんが先を促した

「……怖かった。人じゃない、自分とはまったく違う生き物みたいだった」

正直に、正直にと嘘を言わないように気をつける
この瞳の前では嘘をつけない
不実なことをはいた所でばれるんだろう

「でも、そういう押し付けみたいなのは、良くないと思うし」
視線を足元に落とす

「話してみただけだったら、貴方は私たちと全然変わらない
人間の、ようだし
朝起きたとき確かに昨日の事は忘れてた
でも思い出したいって思って…
私がそう望んだから記憶も戻ってくれたんだと思うの
それに私はそのまま平然として生活できるような人間ではないから
……だから、貴方達の事をちゃんと知りたいです」

そこまで言って、ゆっくりと跡部さんに視線を合わせた
思いのほか、彼は満足そうな顔をしている

「承知した。だが、これからはもう少し危機感を持ってもいいかもな」

念を押すように私に言った跡部さんは話し始めた
自分たちについて



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修正11/4/1

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