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第八話 知っていく

何で、跡部さん…?
跡部さんも吸血鬼なの?

“拒否権は、無いと思うぜ?”
先ほど、宍戸君が残していった言葉を一人屋上で思い出してみる
絶対に、跡部さんの家に行かなきゃいけないって事だよね…。
そう考えると、自分でも良く分からない不安に襲われる
肝心の跡部さんは同じクラスではあるけど、彼には話しかけずらい

…私は、記憶を全部思い出してしまった
そのせいで、彼らの事を知ってしまった
だから、

“俺らのことを知ったからには理解してほしい”

そうは言われたけど、私は彼らの事を理解できるのだろうか…
今日跡部君の家に行って話しを聞いたとして、私はそれを受け入れられるのだろうか…

“他にばれたら生きていけねぇだろ”

昨日、宍戸君が鳳君をなだめるように言った言葉

吸血鬼は、
彼らは確かに幻想の中の生き物として理解されている
その吸血鬼が本当に存在したとして、私たち人間はどういった反応をするんだろう…

「あー…‥・
色々考えてたら、頭痛くなってきちゃった」

でも私が分かることは、ただ一つ
もしも彼らの存在が世界に知れたら……

「人間との差別を、受けるのかな」

それは、私も思った事
彼等は、自分と同じじゃない
人じゃ‥‥無いんだ

なら 怪物と言われるのが‥‥‥普通なの?

とにかく、この事を私が他人にばらす事はない
私がばらす事で彼等はここに居られなくなる
そこまでの重荷を背負いきれない

「もう、戻ろ」

一時間目が始まりそうだったので、早めに屋上を立ち去った

もやもやは、全然晴れない

タン タン タン




   降りて行った




登って来た階段を



全てはこんなふうに

登って来たモノを

降りて行くコトを

当然だと言えないのかな‥‥‥





教室から見える晴天
青い空に白い雲が流れていく
ゆっくり ゆっくりと
ゆっくりなのは、時間も?

(出来れば、放課後来てほしくないなぁ)

不安感が私を掴んで離さない
跡部さんの家に行って、何する?
私は何を話せば良いんだろう
そもそも、あの跡部"様"の家だなんて
…友達がしったら大騒ぎするだろう
だけど今自分は沈黙を守る立場なんだ

一人葛藤していると、
頭上から声がかけられた

「名字、HR終わってんだけど?」

「あ、あぁ。ありがとう」

隣の男子が声をかけて来たので物思いにふけていた意識が一気に浮上する

時計を見ると私は少し顔を歪めた
無情にももう最後のチャイムがなるわずか3分前

「っ〜〜」

声になっていないうめき声を上げながら、机に顔を埋めていた
だんだんと教室から生徒がいなくなって行くのを音で感じながらも、ペタンと机に張り付いて動かない、動けない

すると横からすっと伸びてきた腕が私のカバンを掴んだ

「何やってんだ。早く準備しろ」

「?」

何かと思って顔を上げるとそこには

「ぁ!!見て、宍戸君がいる!」
「本当じゃん!何しに来たのかな」

自分と私の鞄を持つ宍戸亮の姿
宍戸君、迎えに行くからって
何も教室
まで来なくても…

私が眉をハの字に下げたのを見て、宍戸君は不審に思ったのか声をかけてきた

「おい、お前どうかしたのか?迎えに行くって言っておいただろ?」

チラッと私の確認しながら‥‥

「あの、それは覚えてるけど…」
「は?」

ほら、っ私が周りを見ると習って彼も周りを見渡した
すると、こっちを見ている視線に気が付く

「はぁ、別に気にすることじゃねぇだろ」

そう、簡潔に言うと彼はさっさと教室のドアの方に歩いていった
スタスタと先を行く彼の後ろを小走りで追いかける
不釣合いというか、結構シュールな絵だろう

ついた校門の前には黒光りする外車

それに滑るように乗り込んだ宍戸君
それに続いて緊張しながら私も車に乗り込んだ
車の中で、何を話せばいいのかも分からない私は
ずっと黙ったまま車窓の外を眺めていた

しかし、何かを持っている宍戸君の手元が気になった

そこには、宍戸君の物なのか私には分からないロザリオのネックレス
銀色の十字架に自然と目が行く
つやつやと光っているロザリオを見ながら、私は一つの疑問があがった

吸血鬼は十字架が嫌いではなかっただろうか
でも何でもなさそうに十字架を握っている彼の手には緊張感のかけらも無い

「手に持ってるネックレス、」
そこまで言ってネックレスを指差すと宍戸君は「あぁ、これな」といって軽くロザリオを持ち上げた

「長太郎が部室に忘れて帰って。あいつも今日跡部んちに来るだろうから、返そうと思ったんだ」

日の光で光るロザリオが彼のものには少し見えなかったので、そこには納得したが私が聞きたいのはそれではない

「あのさ、十字架は、平気なの?」
「…」
「…え、あの、」

驚いたような顔で停止した彼の顔が、次の瞬間クッとゆがんだ
「っくくく…」

笑うのを耐えているのは一目瞭然
私はというと、そんなに可笑しいことをいってしまったのか?と、不思議に思う
笑いが収まったのか、宍戸君が話し出した

「こういうもんを怖がると思うか?」

どうやら私が吸血鬼に対して持っているイメージはあてにならないようだ

「でも、そう言い伝えがあるし…」

「分かりやすく説明するぜ?
ほら、たとえばな…吸血鬼が騒がれた時代に、人殺しとか叫んでおいて、人間たちは一人でも俺らを殺せたか?」

私はいきなりの質問に首をかしげる。分かりやすいどころか、もっと意味が分からない
そもそもそれがいつの時代か分からないうえ、そんな昔の事は知りもしない
その時、私は存在しなかったのだから知るわけ無いだろう

「つまり、俺達は人間とあんまりかわらねえから、絶対に殺されないし、むしろ見つかった事も無い。
十字架が怖いなんてありえない話だぜ」

すこし笑いながら説明する彼
社内の薄暗い中で見た彼の顔は昨日の教室で見た鳳君のように、いつもより端正に見える

「なら、日の光は?」

「平気じゃなかったらテニスもできねぇだろ」

「……確かに」

「十字架も嘘、太陽を怖がるっつーのも嘘
とがった牙が生えてるってのもただの言い伝え
必要な時は別として、普段はあっても邪魔だろ?」

一番最後の言葉まで当たり前の様に言ってのける宍戸君
今の言い方ではまるで血を飲むとき限定で牙が伸びてくるといっているようだけど…
そんなことありえないよね…?
彼と話すうちに私が知っていた言い伝えはやっぱりほとんど嘘だと言うことが分かった


けど、推測では変わりに瞳の色が変化する…そういう特徴を持ってるらしい

知っていく

それは悪いこと?
昔聞いた気もするけど…

名前は知らなくてもいいんだよ

でもね、もう無理だよ?
だって彼と話すのが楽しいんだもの
それに、知識は世界を広げるとも言うでしょう?
しかし昔の科学者は言った
"知ることで悪になる場合もある"と。


知っていく

彼らを

車内の楽しい時に、闇に染まっていく気がした



   私の体




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11/4/1

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