7 [ 8/30 ]

第七話 扉

瞳の外側から光が差し込んで来る
朝…?

「んっ…」

眩しさに目を開くと見知った天井に、部屋中に広がる自分自身の匂い

「あれ、私の部屋だ」

私は制服の上着を脱いだだけの姿でベットに横たわっていた

(何で制服のまま?っていうか昨日宿題やったっけ!?嫌な予感…)

寝起きで働かない頭を一生懸命にフル回転させてみる

…昨日は宿題を学校に忘れて取りに行ったはずだ
証拠に机に無造作に置かれた三枚の原稿用紙
だけど手を付けずに寝てしまったようだ

そう、それで教室を出て
…空き教室を覗いて

覗いたら…
…覗いたらどうなったんだっけ
そこまで考えると酷い頭痛がした
何にも考えられなくなる

「っいたぁ…」

まさか、と一人で乾いた笑いをあげる
記憶喪失といってドラマなんかでは良くあるが、そんな類のものだろうか
実際に昨日の記憶が飛んでいるとなれば、結構不気味だ
でもなにか頭に引っかかっていて、何かきっかけがあれば思い出せる、そんな確信めいたものがあった
なにかとても重要なな事だった気がする
この頭痛さえ無くなれば…

私は探るように部屋を見渡した

そう言えば冷える
目覚めたときから感じる肌寒さに不信感を覚えた私は、窓に視線を向けた

「あれ?」

窓が、開いている
ほんの少し隙間風が吹き込む程度だけど、季節が寒くなってからはあまり開けないはずの窓が…
閉めるために窓に触れると、なぜか月光に照らされる部屋が脳裏に浮かんだ
覚えていないはずの昨日の夜の記憶だ
そういえば昨日は明るい満月だった…
満月に照らされた、銀髪…

銀髪?

「いたぁ!」

突如拒否反応のように激しい頭痛が襲ってきた

ばさっと
たってられなくてベッドに倒れ込む
痛いっ!

頭痛が引いた時には何もかも思い出していた

「鳳君が…
けど、あんな事ありえるの?」
学校に行った証拠に机の上の原稿用紙と制服姿の自分
そして昨日の出来事の証拠に昨日自分で帰宅した記憶がない

そしてこの頭痛…

なにもかも、おかしい

「とりあえずシャワー…」
学校に行けばわかることだ

「きゃーっ!みた?」
「うん恥ずかしがってたよね!」
「可愛いいっ」
「あんな彼氏欲しい!鳳君みたいな!」

(名字さん早く来て!)
鳳は俯きながら必死にそう繰り返していた



ただ今、氷帝学園中等部
ここは確かに中3女子用の下駄箱である
名前は下駄箱の影に隠れたままそこに近づけずにいた

(なっななな何で鳳君が居るの!?しかもちょうど私のロッカーの前…)

どうすれば

昨日のことが本当なら、
とても近づけない

もはや半泣きになりながら下駄箱の影から鳳君が立ち去るのを待つことにした
あまり長居しては遅刻してしまう
確認のために顔を影からまた出した

とその時

「あっ」
「名字さん!」

目 が 会 っ た

「そ、そのままでいて下さい」

一歩後ずさる私を見て焦ったように言う目の前の長身美男子は苦笑いをする

「きゃっ」
とまわりから何人かの短い悲鳴が聞こえて来た

「おはようございます」

1.5メートルほど離れた位置から声をかけてくる

「あ、あ、おはよう、」

やばい
これではただの変な人だ、けど尋常じゃない緊張で声が震えてしまう
私の反応に彼は確信した表情で小声で話しかけてきた

「覚えてるんですね」

囁く彼の声は酷く素敵な響きを持った
たったそれだけの言葉がなぜかとても素敵な呪文のような…

「…う、ん」

瞬間、彼の目が人を超越した、従わせる力を持つ目に変わったような錯覚に陥る

「どうか昨日の事は口外しないで下さい」

コクリ

とりあえず頷いておこう
すでに声が出ない私はなんどか頭を縦に振った
それを見て今度は暗い表情になる鳳君

「本当にすみませんでした」

となんと彼は深々頭を下げた
こんな所で!
もちろんこんなことをされたことがない私は軽いパニックをおこした

「鳳君!あ、頭上げて下さい!!」

道行く女子生徒が私を怪訝な顔で見られて半泣きになる

「許してもらえるまで頭を上げるつもりはありません!」

い、いまさら何を許せば…

「許します、許しますから、気にしないよう努力もするから!」

「本当ですか?」

半泣きになりながら言うと顔をあげた鳳君はにっこりと笑って(心臓がとまるほどの綺麗な)笑顔でまわりの女の子を魅力した後去っていった


とりあえず謝罪を頂けたから、よしとしよう
朝からすごい事をしてしまった感じがする


「よぉ」

「ん?おはよ…」

教室に入ったと同時に挨拶され、俯いた私の目に入ってきた相手の上履きからだんだん視線をあげていくと…
「!!」

相手は同じクラスになってから一度も隣になってないし席が近いにも関わらず話したことも無くてましてや、挨拶もした事の無い相手……

「あ、とべさん…」

彼から挨拶だなんて、なにかあるに違いない
チラッと、確認してみても
跡部君は目は間違いなく私を示していた

「な、何でしょう?」

周りから刺さる女子の視線が痛くて、居心地の悪さを感じながらも勇気を出して私から口を開いた

朝から、今日は一種の厄日かもしれない
それは、テニス部の2人と話せることは女の子にとって普通じゃなく特別な事だが
それはひっそりと、人目につかない所で、というのが原則だ

早く切り上げないと、突き刺さってくる視線だけで気分が悪くなりそうだ

「あーん、別に何にもねぇ
挨拶しただけだ」

そういって優雅に教室を出て行く跡部さん
……その挨拶の相手が貴方の場合、大変な事が起きるんですけど……

「ねぇ、名字さんっ!跡部君とどんな関係なの??」

「私もそれ聞きたい!!跡部様の何なの?」

私が席につくと集まってくる女子
思ったとおり、スルーはしてもらえないみたい…

「いやぁ、何なのって聞かれても…話したの初めてだし…」

「それ本当!?」

止まない質問に困っていると、私の後ろから別の声が聞こえてきた

「本当だよ。名前は宍戸派だもんねぇ〜」

「! 友達?」

おはよ、と挨拶しながら歩いてくる友達

「#京羅は#、うちのクラスの宍戸のが跡部様より、良いらしいよ?跡部様は違うって!変わってるよねぇ〜!?」

そう言いながら、女子の注目を自分に集める友達
彼女は私に笑って目配せする

ありがとうと嬉しそうに頷いて(友達があとで言うには本当に嬉しそうな顔をしていたらしい)友達が話しているうちに教室を出た
優しい友達に感謝、感謝だ

授業までは時間がある

静かな廊下にでて、階段を目指した。

タン タン タン

軽い足音を響かせながら階段を上っていく
立ち入り禁止になっている屋上には普段まったく人が来ない
でも何故か屋上の鍵を持っている人が居るようでたまにドアが開く時もあった
噂では上級者から受け継がれてるそうだ

今日ドアは空くだろうか
空かなくても扉のまえの綺麗な階段に座っているだけでなかなか落ち着く

前には立ち入り禁止の扉
構わず私はノブに手をかけ押してみた

(あ、ラッキーだ)

重い音を響かせながら屋上の扉は開かれた

一面に広がる青い空
顔に吹き付ける風が気持ち良くて目を閉じる
また瞳を開いたとき、先客が居た事に気がついた

「…あ」

「お、」

フェンスに寄りかかって座って居たのは空を見上げていたのは、昨日も会った彼
気まずいような変な気持ちがもやもやと胸に広がる

「おはよ」
「おう、長太郎にあったか?」
「うん」

そうかと頷く宍戸君はさほど気にしてないようで何か考える仕草をした

「あの、ね…質問しても良い?」
「あ?いいぜ」

解決したい事がいくつもある
だけどまず何を聞けば良いのかさえわからない
とり
あえず最初の疑問を聞いてみることにした

「昨日私を家まで連れて行ったのって、宍戸君?」
「あぁ、俺だぜ
勝手に入った事は謝る
名字精神的に参ってたみてえだし」

そういう事なら

「昨日の事、全部本当なんだね…?」

「…名字相手だと上手く記憶処理出来なかったみてえだな」

どういう意味か、私には分からなかったけどかなり困った顔をしている彼

「記憶処理?」

「あぁ…信じねえだろうけど」

「信じるもなにも…昨日の事全部覚えてるし、せっかく鳳君が謝ってくれたし、どういう事なのか…」

訳わからなくて泣きそうになる
そんな自分が嫌だ

「…全部知りたい」

かなり小声になってしまったが、不思議と宍戸君はちゃんと聞き取ったようで

「なら、俺らのことを知ったからには、理解してほしい」

真面目な顔をして言う宍戸君
ねぇ、俺ら……それって、

「吸血鬼、のこと?」

以外にもすんなりその言葉が出てきたのは
すごく気になっていたからなのかも知れない ばつが悪そうに顔をしかめる宍戸君

「…まぁな、そう言う事だ
そうと決まったんなら、詳しい事は今日跡部ん家で話そうと思ってる」

「跡部さんの家…で?」

あぁ、と頷いて答えた

「アイツもこうなるって読んでたみてえだし、
跡部が決めた事だから拒否権はねぇと思うぜ?」

「…」

放課後迎えに行くから、と言って宍戸君は出ていき
私は一人大空の下に取り残された


差し出されたのは送り返す事の出来ない跡部家への招待状

第八話へ
修正11/4/1

top
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -