05
あの出来事――ジャーファルがシンドリアにやって来てからもうすでに3日経とうとしていた。
そうなれば嫌でもジャーファルと顔を合わせる機会はあるわけで…
廊下などですれ違う事は多々あった。
しかもその殆どが兄様と一緒に、だ。
兄様はどうやらジャーファルにシンドリアの事を色々教えているようだった。
いくら王と言えどいきなり連れてきた少年を王宮内に、しかも家族のような扱いで居させる事は少しやっかいなようで。
何でも王宮内にいさせる口実の為にも名のある役職につけさせようとしているようだった。
その為に勉強につき合ってるとか何とか…
そんな訳でせっかく兄様が王宮内にいるのに大して遊んでもらえもせず私のイライラは毎日募る一方だった。
しかもジャーファルもジャーファルだ。
私と目があっても何も言わない。
それどころか澄まし顔で会釈さえもしない。
当然そっちがその気ならこっちだってと、私も無視してやった。
勿論あんな事言われて私から何かしようだなんて思いもしなかったけれども。
そんな悶々とした日々がしばらく続いた。
そんなある日の夜。
私は兄様の部屋にやってきていた。
「兄様〜、今回のお話聞かせて!」
「そういえば、まだ帰ってきてからナマエに話してなかったな」
「そうだよー」
私は頬を膨らませる。
兄様が帰ってきたらまず一番に私に出かけた時の話を聞かせてくれる。
ジャーファルがくるまではいつもの風習だったこの光景。
でも今回は兄様は殆どジャーファルと一緒にいたから――
ようやく隙を見て出来た兄様との時間だった。
そんな私の心情を知ってか知らずか、優しい手つきで頭を撫でてくれる兄様。
やっぱり兄様が好きだ。
こういう時間は久々だったのでいつもと変わらないやりとりに安堵する。
そう、私には兄様だけでいい。この優しい手さえあればジャーファルなんていらない。
……せっかくの兄様との時間なのにジャーファルの事を思い出してしまった。
私は頭の中から消すように首を左右に振った。
そんな私の行動を不信に思ったのか。
不意に兄様が撫でていた手を止める。
「兄様?」
だが兄様を見上げばどこか別の場所を見ていて。
視線を追えばその先はこの部屋の扉があった。
「どうかしたの?」
「いや、なんでもない」
不思議そうに聞けば、再び視線を私に戻す兄様。
その顔は真剣な顔だった。
「それで、ジャーファルの事なんだが…」
「……うん」
やっぱり…
これは避けて通れない話題だって事くらいはわかってた。
だけどやはり少しだけ気分が暗くなる。
「もう少しだけでも仲良くできないか?」
「私にはいらないよ。兄様以外必要ない。」
「そう言うな。お前にも俺以外の人間と接する機会が必要だ」
少し兄様の声色が変わる。
少し低い真面目な声。
「ナマエいつも王宮内で1人で、同い年の友達も他に家族もいない。
やはり寂しいだろう。
俺もいつでも一緒にいられればいいが、そうはいかない。
だから、あいつが、ジャーファルがいれば…」
「いらない!」
私は大声で兄様の言葉を遮った。
普段は出さない私の大声に兄様は驚いようだった。
確かに私はいつも1人だった。
兄様の妹という立場もあり、あまり王宮の外にも出たことがない。
当然友達と呼べる人もいない。
王宮内にも顔見知りはいるが所詮は従者であり親しい人物などはいなかった。
そう、兄様以外は。
そんな私を兄様が心配している事はわかっていた。
けれど――
「俺にはこれ位しかできないんだ」
ふと、ポツリと呟き俯く兄様。
いつも笑顔で強い、憧れで自慢の兄様。
そんな兄様のこんな姿は初めてで。
それほど心配かけてたんだ、と改めて気づく。
ごめんなさい、兄様。
私は前を向く。
「…わかった。明日、少し話してみる」
これはジャーファルの為なんかじゃない。
兄様の為。
そう自分に言い聞かせ
私はジャーファルと向き合う決意をした
121120
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