04


「はぁ…やはりそうそう上手くはいかないものだな」


目の前のシンは頭をゴシゴシかきながら溜め息をついた。


「まぁいきなりあんな事言っても難しいとは思っていたが…」

そうポツリと呟きナマエの走っていった方向を見つめていたシン。
やはり妹の事が心配なのだろう。
そう思っていたらシンは不意に私の方を向き直った。


「だか、ジャーファル。お前ももう少し言い方というものがあるだろう」

「ですがあれが私の本心です」


私はきっぱり答える。
馴れ合うつもりなど端からない。
それは先に言っておいた方がいいだろうと思ったからだ。
だがそんな私をシンは諫める。


「だとしても、だ。お前はまだ何も知らない。」

「私にだって知ってることくらいあります」

「暗殺とか、か」

「っ!」


シンの言葉にムッとして言い返した私を、シンは冷たい目で見る。
背筋に冷たいものが走り私は押し黙るしかなかった。


「だけどそれも失敗した今お前は俺と共にここにいる事を忘れるな。
それにお前はこれから生きていく上で必要な事は何も知らないんだ。
この国の事も家族が何かも。何も、だ。」


そこまで言ったシンは先程とは打って変わって優しい目に戻り私の頭を優しく撫でた。


「家族はいいものだぞ」

「…私にはわかりません。」


それは本当の事だった。
家族というものが、必要性がわからない。
私は今まで一人で生きてきた。
頼れるのは自分自身だけ。
そんな生き方をしてきた私には家族というのは知らない存在だった。


「そう…だったな…」


私を見つめ少し寂しそうな顔をするシン。
私の事なのに何故シンがそんな顔をしているのかわからない。理解できない。

不思議そうにする私をぎゅっとシンは抱きしめた。
ふわっと暖かさが私を包み込む。
それは私が初めて感じた人の暖かさだった。


今まで殺してきた人間は全て冷たくなっていった。
そんな中生きている人間と触れ合う――しかも抱きしめられるなんて事は初めてで。
人は暖かいという当たり前の事を私は初めて知った。


そして同時に私は初めて触れ合う暖かさに少し恐怖していた。
私がこのまま抱きしめかえしたら壊れてしまうんじゃないか。
私の手は今まで幾人も殺してきた血塗られた手。
そんな手で触れればたちまち壊れてしまう、そんな脆く儚いもののように思えて。
私はシンの後ろへと伸ばしかけた腕を止める。
そして自分の勇気の無さも思い知った。
今まで人を殺す時は何とも思わなかったのに。
それは暖かさと同時に初めて知った感情だった。




確かに私は何も知らないかもしれない。
けどここは私にとって暖かすぎる。
今まで暗い場所にいたからこそ浮き彫りになる違い。
むしろ辛くなるだけ、それは自分が一番わかっている。
私にこれ以上の暖かさは必要ない。そう痛感した。


私を導いてくれたシンには感謝している。
だから私にはシンだけでいい。
ナマエと、家族にならなくていい。
例えそれがシンの願いと反するものだとしても。






だから私には家族なんていらない






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