06


聞いてしまった――
シンとナマエの会話。
聞くつもりなどはなかった。
ただそれはほんの偶然の出来事だった。

私は自室に戻る廊下を歩きながら先程の事を思い出す。



私は与えられた自室で今日シンに教わった国政の事などを復習していたのだが、どうしてもわからない事があった。
別に明日でも良かったのだが気になってしまいシンに聞きに行った。
それがきっかけだった。


シンの部屋へと行ってみれば入口の扉が少し開いていて、中から明かりが漏れていた。
まだ起きていたとホッとしたのも束の間、中から話し声が聞こえてきてつい気配を消し聞き耳を立ててしまった。
多分これは生き抜くために身についた癖なのかも知れない――


ただシンには気付かれていた、と思う。
一瞬中を覗いた時目が合ったような気がした。

だから逆にどうしてもわからない事がある。
なぜ私に聞こえるように、私の話をわざわざしたのか。

そしてナマエの話――
初めて知った。
今まで知ろうとも思わなかった。
私に対しては仏頂面だが、いつも周りにはにこにこ笑顔を向けていたナマエ。悩みもなく生きているただのお嬢様だと思っていた。
それが余計気に食わなかった。
だから……意外だった。
こんな事を思い過ごしていたなんて。


そして改めて思い知らされた。
兄妹の絆というものを――
シンを見るナマエの笑顔はやはり普段のものと違っていて本物の笑顔だ。
そしてシンも同様にナマエを見る目は穏やかだった。
確かにシンは優しい。
だがそれは私に向けられるものとはやはり違っていて。

やはり家族などと言って私が間に入る隙間などないのだと思い知った。
そんな事端からわかっていた事だけれども。


私が家族になる事を拒否した理由。
きっとそれもあるのだろう。
そんな事言っても思い知らされるだけだから。

実際そうだった。
この3日間シンやナマエに触れ合って感じた家族というもの。
それは私が心の奥底どんなに願っても手には入らないものだと言うことは確かだった。


いつも何でも手に入れてきた。
食料、お金…
無いものだったら奪ってでも手にしてきた。暗殺してでも。
それが今、初めて手に入らないものを前にして。
見ているとつらくなるんだ。


私はふと、足を止めた。
いつの間にか自室の前まで戻ってきていた。
私は中へ入りベッドへ腰掛ける。
もう、シンに聞きに行こうとしたわからない事など頭になかった。


今頭の中を占めているのはシンとナマエの事。
どんなに否定しても自身の本心に気づいてしまった。
いや、本当は前から気づいていたが気づかないふりをしていただけかもしれない。





あぁ所詮これはないものねだり――
頑張ってもどうにもならない。
結局は羨ましいんだ、と。








気づかなければよかった







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