君がいるなら


「はぁ…龍也先生恨んでやる」

土砂降りの空を見て私は溜め息をついた。





事の始まりは放課後―――

夕方から雨が降る予報のため降り出す前に帰ろうとした私の前に笑顔で立つ龍也先生。


「龍也先生只でさえ怖いのにその不気味な笑顔どうにかして下さい」

「お前っ…先生に向かってその口の聞き方…しかも仮にも現役アイドルなんだそ!!よーし覚悟は出来てるか」

「仮なんですかっていうかマジ怖いんでその笑顔止めて下さい」


ヤバいヤバい龍也先生笑顔なのに全く目が笑ってないよ。


「まぁ冗談はさておき。
みょうじ、お前どうせこの後暇だろ?
だったらちょっと雑用手伝ってくれ。」

「私にはこの後帰ってぐうたら過ごすという予定が…」

「よーし暇だな。じゃあついてきてくれ。」


龍也先生は私の言葉を遮り有無を言わさぬ勢いで続けた。
だから笑顔が怖いですってば!!


「わかりましたよ。ただし私傘持ってきてないんで早めに終わらせて下さい。」

「わかったよ。雑用つってもやることちょっとだしな。それに万一降り出しても大丈夫だろ。」


そこまで言ってちらっと横を見る龍也先生。
龍也先生の視線の先には一ノ瀬くんや神宮寺くん、来栖くんがいた。
そしてこっちを見ていた来栖くんと目が合った。
やっぱり可愛い顔してるな〜と思ったのも一瞬で、すぐさまバッと効果音がつきそうなほどの勢いで思い切り顔を逸らされてしまった。
…はて、私何かしただろうか?


視線の行き場に困った私はとりあえず龍也先生に視線を戻したが
目の前には何故かにやにやしてる龍也先生。


「にやけてて気持ち悪いです先生。」

「…そんなに残りたいか。たっぷり雑用でも何でも押しつけてやる。」

「職権乱用!!人でなし教師」

「うるせー!!」


そんなやり取りをしながら龍也先生と教室を出た私。




それが1時間前の出来事。

そして現在、おかげでこの雨である。
さっきまで曇り空だったがバケツをひっくり返したように降っている。
しかも先生も先生だ。
本当に山ほど雑用押しつけてやがったよ元ヤン教師め。

心の中で悪態をつきながら重い足取りで下駄箱に向かう。
なんでこんな日に限って傘を忘れるんだろう…

そんな事を考えながら玄関につくとそこには来栖くんの姿があった。


「あれ、来栖くん?まだ残ってたんだ。」

「おぅ…」

あれれ、どうしたことか。
いつも元気な来栖くんが大人しいぞ。


「わかった来栖くんも傘忘れたんだ!それでずっと雨止むの待ってたんだ!」

「違げーよ!一緒にすんな!さすがに今日傘忘れてくる奴はいないだろ」

「…ですよねー」


うぅ…大人しいと思ったけど違ったみたいだ。
可愛い顔して毒舌だよ。


じゃあなんで残ってるの、と私が聞こうとする前に私の目の前に差し出された来栖くんの傘。


「みょうじ傘忘れたんだろ。これ使えよ。」

「なんで私が傘忘れたって知って…まさかエスパー!?」

「いや、普通に教室で龍也先生と話してただろ」

「あ〜、あの時か。……でも」


そこまで言って言葉に詰まる。
気づいてしまった。

本当は聞きたい事がいっぱいあった。
来栖くんが濡れるよ?とか
龍也先生との話を聞いててわざわざ私がくるまで残ってたの?とか
そもそも帰宅時間でざわついた教室に私と龍也先生が話してたって気にしてなければ耳にも入らないであろう会話、
それを普通と言う程度に耳を傾けて聞いてたの?とか…

そして顔を真っ赤にしながら傘を差し出す来栖くん。

そんな彼の姿を見たらそんな言葉は口に出来なくて


「あ…ありがとう」


傘を受け取りながら御礼を一言だけ言うので精一杯だった。


「じゃ、また明日な」


そう言って真っ赤な顔を隠すように慌てて校舎を飛び出して行った来栖くん。
私は来栖くんが見えなくなるまでその場から動けなかった。


来栖くんってあんなに格好良かったっけ。


胸のドキドキを感じつつ、
明日来栖くんに傘を返すときなんて言おうか
そう考えながら手の中にある傘をぎゅっと握りしめた。





君がいるならこんな天気も悪くない
(気づいてしまえば気持ちなんて一緒で変わるもの)








確信犯龍也先生と照れ屋翔ちゃん






120929





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