一ノ瀬 トキヤくんの場合
ふふふふ、私が今日という日ををどれほど待ちわびていたか!
「トッキヤー!!」
いてもたってもいられなくなり視界には入ったトキヤに向かって思いっきり突進する。
そんな私を後ろを振り向く事なく華麗に交わすトキヤ。
危なっ!もう少しで壁にぶつかる所だったぞ。
恨みがましくトキヤに視線を向ければ溜め息をついてるところだった。
「なんですかその目は。避けるのは当たり前でしょう」
全く、と呆れているトキヤ。
だからと言って避けなくてもいいじゃないか。
ほら、抱き止めるとかの発想はないのか!
…まぁそれもそれでやられたら恥ずかしいけど。
まぁいいさ、壁にぶつかりそうになった事は文句は言わないでいてあげよう。
なんたって今日のなまえちゃんは機嫌がいいからね。
なんてにやにやしていたらトキヤに不気味がられた。酷い。
「それはそうと何ですか一体?」
「あっそうそう、トキヤってさお菓子とか持ち歩いてないよね?」
「…お菓子、ですか?」
トキヤに言われて本題を切り出す。
そう、トキヤに聞きたかったのはこの事だ。
まぁダイエッターなトキヤにとって答えは聞くまでもない事だろうけど。
「そんなもの、持っている訳がないでしょう」
ビンゴ!!
よし、とトキヤに見えないように小さくガッツポーズをする。
私の中で期待が確信に変わる。
そう、今日は待ちに待ったハロウィンなのだ。
なのにお菓子を貰えないのに何故喜んでいるかだって?
それは別にお菓子目当てではないから。
ハロウィン――言い換えれば『トリックオアトリート』という素晴らしい言葉によってイタズラを正当化できる日である。
そう、最初からトキヤにイタズラするのが目的だ。
普段腹黒ドSトキヤさんにイジメられてる私にとってこのチャンスは逃すまい!!
ここぞとばかりに日頃の鬱憤を晴らしてやる!!
ということで、と気を取り直しお約束のあの言葉を言おうとした瞬間――
「なまえの考えてる事なんてお見通しですよ」
「…え?」
「なまえがこれから言う台詞ですよ。当てて差し上げましょう。『trick or treat』――でしょう?」
「っ!」
バ レ て た !
さすがトキさんヤこういう時の頭の回転の早さは感心する。何故わかった!!
そしてやけに発音いいななんかムカつく。
そんな私に向かってトキヤは笑顔を見せる。
あ、この笑顔は黒い時に見せる笑顔だ。
本能的に危険を察知するけど時すでに遅し。
「と言うことでなまえはお菓子持っているんですか?」
「今の私に言ったんですよね…」
「他に誰に向かって言うんですか?」
「ですよねー…」
あなたは馬鹿ですか、とでも言いたげな視線を私に向けるトキヤ。
だけど言い返す気力さえもない。
だってまさか逆手に取られるとは思ってもみなかった。
実際トキヤにイタズラすることしか考えていなかった私はこんな展開予想外で…
勿論お菓子なんか用意している訳がない。
その事を渋々トキヤに伝えるとより一層笑顔を輝かせた。
なんか黒いオーラが見える気がするけど気のせいだよね。気のせいだと言ってよ。
「それならばイタズラ決行ですね」
「…やっぱり、そうなりますよね…」
「さぁ、私を陥れようとしたんですからイタズラ――思う存分期待して下さいね」
今まで見たことないくらいのきらっきらな笑顔で言うトキヤ。
あぁ私は一体ナニをされるんでしょうか。
大体想像できますが怖くて言えたものではありません。
私はこれから自分に降りかかるであろう出来事に溜め息をつくことしか出来なかった。
「今夜はどうやって愉しませて上げましょうか。嫌だって言っても寝かせてあげませんから」
「マジ勘弁して下さい」
A.逆手にとられました腹黒トキヤ
121107
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