※ある企画に提出しようと考えているお話の一部分。
詳細はそちらのお話でちゃんと書きたいと思います。
今はただ、ぐわっと来ているお話の一部をここでお披露目。

銀土前提モブ有
性描写なし






どうして抵抗しないのか分からなかった。
両手足は自由で、抵抗しようとすればできるはずなのに。
土方は逃げようともせず、暴言を吐くこともしない。
ただ身を任せてその切れ長な瞳を瞬かせるのだ。
男の手は伸びて、慈しむように滑らかな頬を撫でる。
そこでようやく銀時の時間は動き出した。

「その汚い手で土方に触るな!」

色白な頬に添えられていた手を払いのけ、庇うようにして男と土方の間に身を滑り込ませる。
なんで、と。
背後から声が聞こえた気がした。
なんでか、なんて。
そんなの、俺が聞きたかった。
なんで助けを求めないのか。なんで抵抗しないのか。
なんで身を任せるのか。
聞きたいことなんて山ほどあるのだ。
今こうして土方を背に庇っている間にも、心のなかのドス黒い闇は銀時の心を覆い尽くそうと手を広げている。
それに飲まれまいと必死に歯を食いしばっていた。
そんな銀時の心の葛藤を見透かしたように、目の前の男はくすりと笑った。

「すまない、不快な思いをさせてしまったかな。でも安心しておくれ。もう十四郎に手を出しやしないよ。今はちょっと、お別れをしていただけなんだ。」

少しだけ、時間をくれないかな。
男は目を伏せて、この通りだ、と頭を下げた。

「そんなこと…!」
「銀時、」

できるか、と怒鳴るはずだった声は、土方の小さな声によって飲み込まれた。

「銀時、頼む。」
「ひじかた…?」
「頼む。この人と、話しがしたいんだ。」

お願いだ、と。
守っていたはずの土方にさえも言われてしまえば、銀時には頷く以外の選択肢は残されていなかった。

「何かあったら直ぐに呼べよ。」
「大丈夫だ。あの人は、そんなことしやしないよ。」

安心しきった笑顔。
どうしてそこまであの男を信じられるのか、分からなかった。
二人の間に滑り込ませていた自分の身を引いて、二人が話しやすい環境を作ってやる。
けれどあくまで身を引いただけで、銀時の戦えるテリトリーから出ることはしなかった。

「十四郎、いい人を見つけたね。」

男は銀時を見つめ、穏やかな笑みを浮かべる。
つられるように視線を動かした土方はゆっくりと瞬きを一つして、それから「うん」と小さく答えた。

「ほら、私の言ったとおりだっただろう?いつか私よりもお前を愛してくれる人ができるって。」
「…うん。」
「世界は広い。その通りだっただろう?」
「うん。」
「これからはうんと甘えればいい。今まで我慢していた分もね。それから、私のことなんてもう忘れておしまい。私はお前の幸せだけを願っているのだから。」

男の言葉に、土方は答えなかった。
ぎゅっと拳が握られ、そして小さく頭が揺れる。
困ったな、と男は苦笑してお前の為なんだよ、とあやすように黒髪を撫でた。
けれど土方は答えず、今度ははっきりと首を振った。

「いやだ。」
「十四郎」
「いやだよ。あんたを忘れろなんて、そんなの無理だ。俺はあんたがいたから、ここまで生きてこられたんだ。空っぽだった俺に世界を与えてくれたのも、感情を教えてくれたのもあんただ。あんたは俺の一部なんだ。そんな人を忘れろなんて、できっこない。」

そんな酷なことを言わないでくれ。
そう告げた土方は泣いていた。
涙は流していないけれど、きっと心の中では泣いているに違いないのだ。

「でも私は、お前のその純粋な心を利用して、お前を抱いてきたんだよ。それこそ、お前がまだ感情を持たないうちから。酷い男だろう?」
「それでも!あんたは無理やり組み敷くことなんてなかった!いつも俺を優先してた!
俺だってあんたを拒絶したことなんて一度もない!」
「お前は、優しいね。」

ふっと男の目元が悲しげに歪んだ。
あぁ、痛いほど伝わる。手放したくないのだと、愛しいのだと。
それを目の当たりにして、銀時は複雑な心境になった。
ずっと土方は男に脅されてこんな理不尽な関係を続けているのだと思っていた。
けれど、二人の態度や会話から察するに、銀時が思い描いているような関係ではないようで。それどころか男にしても土方にしても、形は違えど互いを愛しいと感じているのだから、部外者が踏み込んでいい問題ではなかった。




continue…?



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