「……これ」

「……ん?」

「絶対間違ってるだろ」

じとりと少々の苛立ちを含めた視線で見つめた先には、可愛いラッピングと紙袋の数々。優に三十個は超えているのではないだろうか。

「えっへへ」

「何照れてんだ!褒めてねえよ」

今日は嫁の誕生日だ。仕事をできるだけ早く切り上げて戻ってきたというのに、部屋の隅にプレゼントの山ができている。彼女は仕事場でいわゆる――人気者、で。同僚や後輩どころか先輩からもプレゼントをもらって戻ってきたようだ。

「それより歳さん、おかえりなさい!ご飯食べる?それとも先にお風呂?」

「それは……名前、って答えるべきか?」

「え?……そんなこと、必要ない」

「そうか、残念だな。先に風呂入るよ」

「はーい!」

とことこと走って準備に向かう甲斐甲斐しい妻を尻目にプレゼントの山を見つめる。名前はまだひとつも開けていないけれど、包装紙や紙袋から高価なブランド品があることが伺えた。くそ、俺はそんな高いもん買ってきてねえぞ。玄関に置きっぱなしのケーキの紙袋を見て顔を顰める。名前がブランド品に興味がないことは知っているが、なんだか負けたような気がして気分を害す。

「歳さんお風呂どうぞー」

「ああ、ありがとう名前。……その前にちょっとこっち来い」

「?はい、何?」

きょとんと首を傾げたまま名前が傍に立つ。ソファーに座るように促して、腰を下ろした名前を見た。

「あの?歳さん、どうしたの?」

「誕生日おめでとう、名前」

「あ、……はい、ありがとうございます」

真剣に言えば、名前が嬉しそうに柔らかく笑った。こういう、時々可愛らしいところがあるから手離せない――もちろん、すべてが引き寄せて離さないのだけれど、名前は土方の扱いをよく知ってると思う。それがまた、意図的ではないというところが怖かったりもするが。

「あのな、名前。俺はあのプレゼントみてえに何も立派なものは買ってやれねえが……」

「あ、気にしないで!私、歳さんにこうして祝ってもらえただけで嬉しいから」

にっこりと本当に幸せそうに笑うものだから、こいつの言葉は嘘ではないのだろう。ああ、もう、本当に愛しい。

「ったく、俺の嫁なのにな」

どうしても拗ねたように言えば、名前はおかしそうに笑った。

「もしかしてやきもち?歳さん、かわいい」

くすくすと笑われるから、更に拗ねたような口調になってしまった。

「うるせえ!俺がお前を一番喜ばせてやりてえんだよ」

「……、」

今度は名前が真っ赤になる。かわいい、と眉を下げて笑えば名前は何か言おうと口を開いた。結局言葉にならずにまた俯いてしまったが。

「名前、玄関にケーキ買ってある。お前の好きなチョコだ」

「あ……覚えててくれたんだ、好きな味」

「当たり前だろうが、どうしても忘れられねえんだよ」

こいつの言った一言、好みだとか願いだとか行きたいところだとか、そんな些細な言葉すらしっかりと覚えている。

「ふふ、ありがと、歳さん」

「いや、礼をいうのは俺のほうだ。生まれてきてくれてありがとうな、名前。愛してる


「…………ありが、と」

名前は目をうるうるとさせながらお礼を言った。引き寄せて抱きしめて――名前を、腕の中に閉じ込める。この満足感は一生、俺だけが知ってればいい。腕の中にこいつがいる幸せは、他の野郎にはわけたくもない。

「……歳さん、大好き」

腕の中で名前がぼそりといった。嬉しくて跳ね上がる心臓の音は名前にも伝わっているだろうか。ほんのりと赤くなった顔だけは見られないように、土方は名前を抱きしめる腕に力を込めた。



夫婦、「誕生日」



2010/11/08
11月だと……ご無沙汰しています、時雨です!コメントもちょこちょこありがとうございます!縮小運営しようかなとか思ってます。そのうちランクとかから抜け出すかもしれないです…。

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