▼番外編・言葉を慎め
私は白、ことクダリさんとソファーに向かい合っていいた。
「ねえ」
「あ、はい!!」
「それやめて、僕が苛めてるみたい」
どこが違うんですか、私のよわーい心に圧力掛けやがって。
ノボリさーんヘルプミー!!
ノボリさんがなぜか知らないけれども、異常なまでに私とクダリさんを合わせたがらないから全くと言っていいほど、二人っきりになったことがない。ノボリさんってばトレインに乗るときだってクダリさんが来れない様に念入りに鍵を掛けたり裏工作したりしていた。
そんななか今日はクダリさんが休みだからセキュリティーを軽くした為、クダリさんの侵入を許してしまった。
私の勘ではこのクダリさんはブラコンだ、しかも結構こじらせた。だって私が事務員(と書いてノボリさん専用の雑用係)になったときとか怖かった。お前は野生のバンギラスか!!
「君のせいだよね、少し前にノボリがおかしかったのって」
「た、たぶんはい?」
「なんで疑問形」
ふふ、と笑ったクダリさん。あれーブラコン違うの、なにそれハズカシイ。
「……ノボリさん、何か言ってました?」
「ううん、全然」
「ですよねー」
私の話をするはずないよね、ノボリさんが怖いのはクダリさんに私を取られること、らしい。
「なんだかわかったような口ぶりだね」
「ええまあ、これでも……」
私ってばノボリさんのなんだ!?私、ええっと恋人じゃないし、彼女じゃないし、というか彼女と恋人一緒だし。かと言って、友達を抱きしめたりして寝ないだろうし。
「ああーうん、居候です居候」
「え、彼女じゃないの!?」
ぽかんと口を開けたクダリさんを見れば、ああこの人ノボリさんと双子なんだあって。似てるなあ、かわいい。思い返せばこの人は……。さっきの顔も、私を見てくるあの目も全部ノボリさんのためだったりしてるのかなあ。
「だって私たち一緒に住みましょうは言ってても、付き合ってくださいとかはしていないんですよ?」
プロポーズはされましたけど、あれを乙女の憧れと認めると私は女の子たちに袋叩きにされるんじゃないのか、と私は常々思っていますとも。
「……なにそれ」
がくんと肩を落としたクダリさん。あれ?
「やっとノボリそういう人できたのかなあって思ったんだけど、でもそれってもう恋人とか超えてるよね」
「恋人以上彼女未満みたいな感じですか」
「恋人も彼女も意味同じだよね!?」
可愛いぞ、この人。なんだろう最近全く見ることのできないノボリさんの弱った感じを常に出している感じがする。慌てた顔とか似てるなあ。ノボリさん素直な気持ちの半分ぐらいはクダリさんに取られてるんだろう。
「でも、ほんとにそうなんですよ」
「さすがノボリ、ちきーん」
「いや、クダリさんこの場合はへタレって言うんですよ」
「確かにね」
「いや否定しましょうよ」
あははーなんて笑い合いながらクダリさんと談笑を続ける。クダリさんってばブラコンというかただの兄思いのいい人ですか。
「なまえさま」
ノボリさんに呼ばれた気がする。気がする、ではないらしい。
クダリさんと顔を見合わせる。……はは、死亡フラグ立ったかも。首の関節が錆びついたように動く、振り向きたくないなあ。
「クダリと一緒に、仲良くなにをしていらっしゃるのですか」
いつの間にか、かなり近くに移動してるみたい、声が近い。
「お、お話を、少々……」
「それにしては仲良さ気ですね」
「そ、そうかなあ」
「浮気、ですか?」
目でクダリさんに助けを求めるけれど、もちろん知らん顔された。薄情者め!!
「もしや、いつもこんなふうにクダリと会っていたのですか」
「違う」
これだけは自信を持って否定できる、違うよノボリさん。
「では今日だけ?」
「うん」
「そうですか」
息をついたノボリさん、私の肩に手が置かれた。
「ねえ、ノボリ。ノボリとなまえって付き合ってなかったの?」
「はい」
「いいえ」
ノボリさんと私の声が反対のことを言いながら重なった。クダリさんを見れば「かわいそうに」みたいな憐れんだ目で見られた、なんだろう戦友を送りだす的な。
「なまえさまは恋人だと思っていなかったのですか」
「ええ、まあそんな話してなかったですし、ね?」
「では、なまえさまは恋人でもない人と夜をともにできるのですね!?」
「その言い方だと私が超ビッチになっちゃいますよ!!」
「なまえってそういう子だったんだー」
「クダリさんは黙ってください」
「ひっどーい」
いっそ閉じ込めてしまえばいいのでしょうか、ちっちゃく聞こえた言葉に背筋が凍る。なんとノボリさんはフリーザー的な「こころのめ」「ぜったいれいど」コンビでも使えるのかも。何この人超チート。
「今からでも遅くないですよね、なまえさま」
「ボクが助けてあげよっか?」
「く、クダリ!!」
ちらりとノボリさんの目の色が変わりかける。ああ、私監禁フラグ立つね、やばい。フラグってのは折るものらしいし。
「いや、あの……付き合ってください」
深々と初期のノボリさんのお辞儀を真似してみる。ソファー座り心地良すぎ。
「なまえさま?」
「なまえ?」
ぽかーんとしている二人。ダブルぽかんすっごい笑える、写真撮っていいですか。
「いやだって私のせい、ってことですよね?私ビッチ違う、一途」
「なまえさま、こちらこそ宜しくお願いしますね」
ノボリさんにはぎゅうっと抱き着かれて、クダリさんには「バカップル死ね」みたいな顔をされた。
「ふたりとも気持ち悪」
うっせ、黙れコノヤロー。
―――――――
口は災いの元。
13.01.14