融点と雪崩れる


「イシチョコ?」
「うん」
「……それってこんなやつかい」
ダイゴさんはポケナビではなく、タブレットを持っていたらしく指を滑らせていく。
指輪のついたその指は固そうな見た目をしている。私と会う前にまた、どこかの洞窟にでもいたのか爪の間に何かついているように見える。
目的のページを開いたのか、そっと私に見せてきたのはどこかのブランドのチョコレート。
私が想像していたものの価格の100倍くらいはくだらないタイプのチョコレートだった。
宝石やしんかのいしを模したチョコレート。
私もミナモデパートの催事場で見かけたが、財布と相談して断念した覚えがある。
「違います。というか、そんなとこまで守備範囲なんですね」
「ん?……ああ、これは貰ったことがあってね。それから少し興味があって調べたんだ」
つやっとした見た目や、フルーツを使ったり、ナッツを使用しているそれは、いわゆる本命チョコに値しそうもので、確かに少しこの人のことを知っている人なら、こういうものをあげることもあるかもしれない。
「ただ、やっぱり本物の石とは少し違うね。石を口に入れて食べられるなんて夢のようだけれど、簡単に溶けてしまうし、想像とは全然違ったよ」
ああやっぱ食べてみたいんだ。今までも藪蛇だから食べたことあるのかとは聞かなかったけれど。
「それで、君の言っていた石チョコっていうのはどんなものなんだい?」
私は少し困って、辺りを見回した。
ここはダイゴさんと待ち合わせをした、つまり、私の言っている安価でチープなストーンチョコとは縁遠い場所で、お金をいれたら出てくる小さな機械も、駄菓子を売っていそうなお店もなかった。
「……それ借りていいですか?」
タブレットを快く貸してくれたダイゴさんから、それを受け取って検索をする。
ダイゴさんがなんと検索したのかは知らないが、石チョコと検索すれば当たり前のように上位に現れるのはよく見知った姿のチョコレート。砂利のような見た目のそれを拡大して、彼にタブレットを返す。
「なんだい!これ!」
しげしげとそれを見て、嬉しそうに私に聞いてくるダイゴさんにつられるように笑ってしまう。
「これが庶民の石チョコです」
「こんなものがあるなんて」
「知らなかったんですね」
「ねえ、なまえちゃん!これどこにあるんだい!」
「えっと、スーパーとか?」
「すごいね、見てくれ!こんなものまである!」
話を聞かないダイゴさんは画像検索をたどって、石チョコをつかったアートにまでたどり着いているようだった。
「ジョウト地方にあるカレサンスイっていう庭のミニチュアだそうだよ」
テンションを振り切っている彼は私に写真の説明をしながら、楽しそうにページを変えている。
「これはスーパーには売ってないですよ」
「ああ、分かってるよ!」
「これも食べられるので、ダイゴさんの求めてるのとは違うと思いますが」
「食べてみたいな」
私の方を見ている。
「……取り寄せればいいのでは?」
この人がドン引きするような理由でお金を使っている姿を見たこともある。今回もそうなるかもと思いつつ、話題に挙げたのだけれども、彼はなぜか私に笑い掛けていた。
「一緒に今から買いに行こう。暇だろう?」
「……暇ですけども」
それは貴方と会うという予定のために空けていたからであり、まるで人を暇人のようにいうのはやめてもらいたい。
「君と食べたいんだ。それに取り寄せるよりずっと早い」
「そっちの方がメインの理由ですよね」
「そんなことはないよ」
ダイゴさんは目を細めて、その奥の瞳を柔らかく輝かせた。石が好きだというときと同じ、動きをしている。
「これだってどうせ中身はチョコレートだ、でもさっきの宝石のチョコレートとは違う。君が僕に教えてくれたもので、これから君と探しに行くものだ。一人で食べて、口に入れたら呆気なく溶けてしまうものとは違うだろう」
応え方に困ってしまうようなその言葉は、チョコレートよりも簡単に溶けて消えてしまう。勿体ないなあ、この人は。
昨今の少子化のせいなのか、それともただただ製品の市場縮小のせいなのか、ストーンチョコの発見は困難を極めた。それはまるで冒険のように、私たちを振り回し、やっとのことでそれを手に入れることとなる。

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