ついでのついでのついで


「やっほー!ビートくん!ブリムオンさんいますー?」
「またあなたですか、帰りなさい帰れ!」
「やだなー意地悪言わないで、ほらほら早く〜私を帰らせたいなら一刻も早く彼女に合わせてください!」
アラベスクスタジアムの自動ドアはワンテンポ開くのが遅い、先代さんの時代かららしいから仕方ないのだけど走ってくると肩をぶつけそうになる。
実際に初めてアラベスクタウンを訪れたとき、ガラス越しに見たビートくんのブリムオンさんを見たときはぶつけた。
雷に打たれたように彼女しか見えなくなり、走り出した。夜、お風呂に入る時打ち身になっていたので反省した。
彼曰く「走ってきたときはポプラさんのことを思い出しましたよ」と言っていた。先代殿はどれだけアグレッシブだったんだ。この前会ったときは普通のご老人に見えたが。
「ブリムオン、相手をしておやりなさい」
光を纏って現れた彼女は若干嫌そうな顔をしている。反省する。そんな顔をさせたいわけではないのだ。
「そんな顔しないで、ごめんね」
「ぼくにもそのくらいの謝罪はしなさい」
「ごめーん」
「おい」
「今日は渡したいものがあってきたの、もらってくれますか」
ブリムオンさんはちらりとビートくんを見て、こくりと頷いた。
跪いて彼女の触手にそっと箱を手渡した。ガラルで今流行っているデパートと本店でしか売ってないポケモン用高級チョコレート。
彼女は貢物がチョコレートだと分かったのか、それとも自分に見合う贈り物に満足したのか、にこりと笑った。ああこの顔だ、最高だ。
「食べてくれますか?」
きゅうん、と鳴き声。ビートくんに翻訳を頼むように視線を送る。
「変なものは入れてないでしょうから、まあ食べてあげなくはないそうですよ」
気が向いたらね、ってところだろうか。この翻訳はビートくんの影響が強すぎて分からないんだよな。
ラッピングを器用に触手で解いた彼女が、サイコキネシスを使ってチョコを口に運ぶ。
口の中でチョコレートを溶かした彼女が微笑んだ。
彼女の姿を見ると、いつも自分のトレーナーとしての技量の低さが悔やまれる。
彼女がトレーナーの指示を受けて、その内に秘めた力を解放する時、その時が一番彼女を美しくする。
自分がもっと強ければ。
「人のブリムオンをその変な目で見るはやめなさい」
「変とは失礼な」
「そもそもあなた、ミブリムを捕まえたんでしょう。付きまとうのはそろそろやめていただけませんか」
「いやあ、それがテブリムから進化できずにいるんだよね」
ブリムオンさんに一目惚れをしたその日に、彼に自分で捕まえればいいだろ的なことを言われて捕まえてきた子だ。アホ毛がチャームポイントの可愛い子だ。それにいまはモンスターボールの中にいてもらってます。
「うちの子、あんまり見た目に頓着しなくてねー。私がブラッシングするのも嫌がるんだよ」
それにアイドルと恋人は別物というか、ねえ?
「とりあえずこれ渡したかっただけだから、帰るね」
「暇人ですよね」
「愛に生きてるんで」
目の前で食べてもらえるとは思わなかったので、ホクホクした気持ちで扉の方へ足を向けて立ち止まる。
「あ、これ忘れてた」
ビートくんの手を取ってもう一つの紙袋を渡す。察しのいい人なので気づかれていたかもだけれど、同じとこで買った人間ようなものだ。見た目も味も良いことは自分用で確認済みだ。
「また来るね」
彼の口がわなわなと動いていることに満足して扉へ走る、反撃が来る前に退散しようとした私はワンテンポ遅れた扉に足止めされる。
「今受け取りなさい」
腕を掴まれて、力任せに引き抜かれるまま振り向けば、なにかを押し付けられる。
「なにこれ」
「同じくチョコレートです、まああなたのものとは少し違いますがね」
「あ、ありがと」
ふんと顔を背けた彼がブリムオンさんを伴ってその場を去る。
いつまでもスタジアムの扉の前にはいられないので、外に出ながら受け取った紙袋の中を覗くと、メッセージカードとそれから見慣れない箱。
こんなのバレンタインチョコ巡りした時には見なかったけど、どこのだろうか。

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