制作期間


「ビートくんのポケモンだったらよかったのに」
私は隣のブリムオンが嫌そうな顔で何処かへ行くのを目で追いながら、呟いた。
彼にとってポケモンというのは、いろんな意味で大切なものなのだろう。
私にだって大切だけど、彼にとってのそれとは多分毛色が違う。
私の目の前で出される食事は、彼が彼のために用意した食事に似ていない。
ポケモンたちに用意される食事は、彼のための食事によく似ている。
私が自分の髪を解くように、彼はポケモンたちの毛づくろいをする。
彼は彼の毛づくろいをしないけれど。
彼の背中を心の中呼ぶ。
ビートくん。
呼んでも振り向いてくれないのは知っている。ビートくんを振り向かせられるのは、私の隣から逃げて行ったブリムオンや今毛づくろいをしてもらってる
ニンフィアたちだ。
彼はまるで自分を鍛えるように、彼女たちに接する。それは彫刻でも作るみたいに、狂いがない。
削れてしまったものはどんなに頑張っても見ればわかるのに、彼が作り上げた彼女たちはきれいだった。
うらやましい。
私がポケモンだったら。
私もビートくんに作ってもらったら、きっとこんなに余分なものばかりの私は出来なくて、きっと彼は私をまるで自分のように整えてくれただろう。
そしたらきっと

なまえ。
呼ばれて顔を上げた。困ったような表情で、私を見下ろしていた。
「何度呼んだと思っているんですか」
彼は如何にも怒っているというようなポーズを取っている。
「ごめん、考え事してた」
「なんですか、言ってみなさい」
仕方なさげにブラシ片手のビートくんを見上げて、呟いた。
「私も毛づくろいしてほしい」
「何言ってるかわかってます?」
「わかってるよ、わかってるけど」
そのブラシは人間用じゃないから髪が痛むだけだし、考え事と毛づくろいが結びつかないだろうし、でも、私はビートくんにそうして欲しかった。
「そこに座りなさい」
呆れ返った君だけれど、そうやって私を甘やかす。
人間用の普通のブラシを片手に、私の髪に優しく触れて、そっとゆっくり通していく。その手つきは慣れてないからなのか、ポケモンたちのときとは違ってて壊れ物を扱うみたいだ。私の髪はそんなに繊細じゃないんだよ。嬉しいから言えないけど。
「ここ絡まってますよ。もう少し身なりには気を使った方がいいんじゃないですか」
引っかかってしまったらしく、優しい手つきで掬われた髪の束が恨めしい。
「好き」
「そんなことを言えばこのぼくの手を煩わせていることが許させると思っているならそろそろその考えは改めさせる必要がありそうですね怒りますよ」
振り向いて、抱き着いた。たじろぐ彼が一等好きで、やっぱりこのままでいいやって、その頬に引っ付いた。

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