防衛ラインヲ突破セヨ!


クチートをほのお技で倒したら、ここからは私の独壇場だ。
明日もそう、「不屈のチャレンジャー、ジムリーダービート、今期不調か」の見出しがガラル新聞に載るだろう。
チャンピオンと同期のジムリーダーという遍歴の彼は話題作りにはぴったりの人選。
現チャンピオンのライバルであり、現チャンピオン誕生時飛入りのパフォーマンスと熱いバトルでその場を沸かせた彼。
美味しいネタにしか見れないだろう。私でもそう思う。
私のストリンダーに敵うポケモンを、有利なポケモンをあなたは出せないでしょう?
ここはあなたの、あなただけの防衛ライン。この先には進ませない。
歯噛みする彼の目を見て、私はストリンダーダイマックスさせる。彼も同時に、ブリムオンをダイマックスさせる。
「ダイアシッド!」
もともと積んでいたストリンダーに敵うわけもなく倒れたブリムオン。
この光景を私何度見たんだろうか。



「……いい加減にしてくれませんか!!」
拳を握りしめる彼が声を荒げた。
「なにが?」
ここはトーナメント会場、シュートスタジアムのチャレンジャー控え室の一つ。私は次にチャンピオンと戦う。反対側のブロックのトレーナーたちが戦っている。
たったそれだけなのに、ジムリーダービートが、負けた彼がそんなことを言う。
「わざとでしょう」
私を見る目はあからさまに軽蔑を含んでいる。
「貴女は概ねチャンピオンか準決勝の相手に敗北しています。それはそうでしょうね、貴女のパーティーはフェアリータイプにのみ対策を完璧にしている。その分他のタイプへの対応力が乏しい」
やっぱりバレてるか。
「最初はどくやはがねタイプが好きなのだと思っていました」
「そうなんじゃない?」
へらへらと笑って誤魔化し切ってしまえばいい。どうせ少ししたらスタッフが私を呼びに来るだろう。
そんなにイライラしなくてもいいのに。
「なに、ジムリーダー様は私に負けるのがそんなに嫌?それとも私がどくタイプを使うのは反則?」
敢えて相手を怒らせるように、無闇矢鱈に嫌味な言葉を使う。
「貴女はそもそもどくタイプなんて使っていなかった」
は?
は?
は?
なんで。
「なんで言い切れるの?」
落ち着け。どうせ私のジムチャレンジの映像でも見たのだろう。
「あなた、僕と戦ったことがあるでしょう」
やめて。
やめて。
「確か、その時はどくタイプはいませんでした。確かユニランとそれからミブリム、それにゴチムでしたね。あまりに自分と似通ったパーティーだったので覚えていますよ」
「……何の話よ」
「メイクで人は変わるものですね、髪型も変えたのでしょう」
彼はまるで友人にでも話をするように、穏やかに会話をする。
私の真意はわからないままでも、自分の優位に気付いたのだろう。
「そっちこそいい加減にして」
「なにをですか」
「居もしないトレーナーの話なんて聞きたくない」
「4つ目のジムをクリア後、ジムチャレンジを諦めたのかその後はずっと音沙汰なしのチャレンジャーとは言え、流石に居もしないというのは無茶があるでしょう」
口角を意地悪く上げて私に笑いかけるジムリーダーは、そのまま歌うようにご機嫌で話を続ける。
「そしてトーナメントに現れるようになった」
「……知らない」
「僕のことが目障りだった。それならまあ、わからなくはないですが、それにしては陰湿ですね。わざわざどくタイプをここまで育てて、なにがしたかったんですか」
わからない。
それは、そうだろう。君にわかるはずがない。
なにがしたかった?
知らないわよ、そんなの、そんなことわからない。
気に入らない。全部、全部気に入らない!
運良くチャンピオンと戦えても全く勝てない自分も!
何だ戦っても諦めない君も!
こんな不毛なことをしてる私も!
そんな服で私の前に立つ君も
クラッとしそうな目眩とかえんほうしゃでも浴びたような熱を感じたと同時に私は彼を床に押し倒していた。
「なんで、なんでなのよぉ」
頬が熱くて冷たい。
「私は貴方に勝ちたかったのに、」
君は知らないだろう、 私と全然違わないパーティーなのにバランスタイプのトレーナーにも、エスパータイプの苦手なゴーストタイプのジムリーダーオニオンにも簡単に勝ってみせた君に私は憧れた。
私と同じポケモンを使っているのに、私を簡単に倒して、前だけを、上だけを見ている君に憧れた。
「私はあの時の貴方と」
そのために死ぬほど頑張ったし、ユニランはランクルスに、ミブリムはブリムオンに、ゴチムはゴチルゼルに進化してくれた。
「もう一度、戦いたかった」
ピンクじゃなくて、紫色を纏ったあの時の貴方に私は会いたい。
口からはもう嗚咽しか出てこない。
伝わったかもわからない。
「そんなことでしたか」
そんなこと、なんて酷いね。
「フェアリータイプを使おうが、エスパータイプを使おうが、僕は僕でしかありません。確かに過去の安直な行為をした自分を恥じてはいますが、僕は今でも変わったなどとは考えていませんよ」
私の下で、床に押し倒されているくせに、私を真っ直ぐ見ている彼は、はっきりと前に進めない私を足蹴にする。
「理由は分かりました。納得も、まあできました。ならば後は貴女を倒すだけでいい」
違う。
この人は私を見てなんてないんだ。
私なんて見えてない。
なんだ、そこだけは前と変わらないね。



その日私は準決勝を辞退した。
それから次のトーナメント。私は性懲りもなく、エントリーをしてまたも初戦。ジムリーダービートと戦うことになる。
私は完封されて、初戦敗退となる。
「貴女、僕のところに来ませんか」
彼は私の手を引いて、スタジアムを後にした。


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