▼ドキドキライモンデート大作戦
某アニメをパロってます。
要は悪気なく何股もかけます(語弊)。
サブマスとサブボスがバトルサブウェイで一緒にいらっしゃいますが、多分出張とかそういうやつです細かいことは気にしないでください。
百合もあります。
「トウコちゃん聞いて!」
フラペチーノに挿さったストローからぼこりと空気が押し出される。私はそれを返事と取って、まくしたてるように悲鳴のような声を上げた。
「実はサブウェイマスターとサブウェイボスの人たちからデートに誘われちゃったんだけど、適当にオーケーしてたらなんでか来週の火曜日ばっかだったんだけど!」
「へえよかったじゃん」
ホワイトチョコのフラペチーノがズゴゴゴッと、すっかり空になったところでトウコちゃんはやっとストローから口を離して、一言感想みたいなことを言った。
「良くないよ!」
「別に良くない、3人断れば?」
「だだだだだってー!」
頬杖をつきながら、あくび混じりのトウコちゃんは全く持って取り合ってくれない。
「誰を断ればいいの!?」
「普通なら最初に誘われた人優先でしょ」
「いや、最初はエメットさんなんだけど」
「断っちゃえ」
「即断!?」
スマートに誘われて、流れるように頷いたときのやり手のチャラ男感は一番謝って許してもらえそうな感じはするけども、まさか一番始めに誘ってもらったのに申し訳ないなぁ。ちなみに気になってるカフェでランチだった。
断ったときの少し傷ついたような笑顔で笑って許してくれそうな彼を思うと、やはり申し訳なさが……。
「ちなみに2番目は?」
「クダリさん」
「断れ断れ」
しっしっと指で払う動作をしたトウコちゃんは子供っぽいクダリさんのことが少し苦手らしい。トウヤくんが言ってたから間違いないだろう?
「酷い」
無邪気に誘われたせいで、いいですよーと安請け合いしてしまったことが逆に申し訳ないことを引き起こしてしまう。それにポケモンバトルと観覧車のメニューが可愛くて、断るのは忍びない!
「3人目が?」
「ノボリさん、罪悪感がある……」
「真面目だからね、まあ断れば?許してくれるし」
「若干優しい」
真面目なノボリさんのスケジュールなんて大体ポケモンたちの調整と電車関連と仕事関連だろうに、わざわざ開けてくれたのかもしれないと思うと、なんだか断りづらい。誘われたのはミュージカルで私が見たいと零した舞台だからなおさらだ。
「シングルでお世話になってるから、で、最後が?」
「インゴさんです」
「断ったら次のシングルがきつそう」
彼女のポニーテールが揺れて、ポケモンバトルをしてるときみたいな鋭さが見え隠れする。
インゴさんと戦っているときを思い出してるのかもしれない。
「それで済むかなぁ」
ノボリさんと同じく真面目な感じプラス威圧感半端無いせいで、そもそも断るとか恐れ多くて怖すぎて無理すぎるのですけども。
しかもレストランでディナーときた。服とかもちゃんとしないと怒られそうな……予約してるらしいのでなおのこと断れない!
「……例えば、時間ずらして全員ととかは?」
「え、え、えええええ?」
「断りづらいなら断らずに少しずつ減らしてもらうしかないでしょ」
「でも、それって」
「側から見ると四股みたいに見えそうだよね」
「ひっ」
→ メインヒロインとデート
→ みんなとデート
→ メインヒロインとデート編
「そもそもちょっと思い出して欲しいんだけど」
ぷくりと膨らんだほっぺのトウコちゃんは、冷めた目で私を見ている。
「来週のその日が何日かわかる?」
「……え?」
「アンタの誕生日よ」
「あ!」
「ところで、もう一度聞くけど、誕生日の先約は誰でしょう」
少し考えて、私ははっとした。私は思い出した、去年のことを。
「来年は祝ってあげるから覚悟しとけって言ったよね、私」
「……四人には謝ってきます」
「いいわよ別に」
「え?」
トウコちゃんはソファーの背もたれをトントンと叩いた。私は立ち上がって、向かいのソファーの裏側を覗き込む。
「「「「あ」」」」
白と黒のコンビが2組。
「や、やっほーなまえ」
苦笑いで手を振ったクダリさんに今までの会話が全て聞かれていたことに気づいた。けれど私が声を上げるより先に、トントンと肩を叩かれる。
「なに?トウコちゃ……」
指でも刺されるのかと思った私は思いもよらない柔らかさに目を白黒させた。
ちゅっとトウコちゃんの唇が引っ付いて、ちゅるりと音が鳴る。あ、柔らかい。
目を白黒させる私の腰を抱いた彼女はディープで大胆なキスを20秒ほど続けたあと、私から離れた。
トウコちゃんは、目の前の四人を鼻で笑って、そのまま私を連れてその場を後にした。
→ みんなとデート
「お、おはようございます」
「おはよーなまえ!」
「あのですね」
「とりあえずポケモンバトルだよね!」
いうことを聞けー!出鼻を挫かれた私の目の前にシビルドンが現れる。
「いっくよー!」
「ひえ、助けてーシャンデラ!」
脊髄反射のように繰り出したシャンデラが、しっかりしろと言わんばかりに小突いてくる。いたたたたた。
「グライオンいっけー!」
ん?
このあと、エメットさんとの待ち合わせが11時だから現在が10時。普通に行けば、クダリさんとの約束の観覧車のコースをしてもお釣りが来る。はずなのに!
「ラッキーまもる!それからちいさくなる!」
なんでまもる、みがわり、ちいさくなる、の持久戦パーティなんですか!?
やばい、このままじゃ、11時どころの騒ぎではない。わるあがきの泥仕合なんて絶対ごめんだ。
「……あ、あああああ!ヤドキング、行って!」
「もうどうしろ言うねん」みたいな諦めモードに入っていたシャンデラちゃん(ラッキーになってから唯一のオバヒで特攻最低)を昨日トウコちゃんに授けられたヤドキングに交代する。
「え?ヤドキングなんて持ってたっけ?」
「ヤドキングー!ふみつけ!」
「あ、ちょっと待」
ヤドキングのふみつけがしっかりちいさくなったラッキーにふみつけて勝敗がついた瞬間、私は反対に走り出した。
「ごめんなさい、クダリさん!私ちょっと用事があるので」
ヤドキングを抱えようとしてつんのめって、急いでボールに戻す。
「なまえー、待って観覧車は!?」
「また今度!あ、耐久パは今度はパスで!」
逃げ台詞を叫びながら、次の待ち合わせ場所に急ぐ。カフェだからなぁ、メイク直したい!バトル中で乱れた髪を軽く直しながら、足を動かす。
待ち合わせ場所には昼近いせいか人も多い。その中で頭ひとつ分高い、その人はすぐに見つかった。今は10時40分、さすが早いなあ。スピードを緩めて、走ったせいで乱れた呼吸を整えながら、スカートの裾を直す。
「エメットさん、お待たせしました」
身長差のせいもあって、私に気づかず反対側を見たりしてるエメットさんの服を引っ張る。
「ア!なまえ!」
振り向いたエメットさんがにこっと笑顔を浮かべる。
「待ってないヨ、エヘヘ」
いつも以上にとろけた笑顔を浮かべた彼は服を引っ張った私の手を包むように握る。ぎょっとして手を引こうとした私に「カワイイ」と囁く。自然な流れでそっと私の肩を抱いて、行こう?と笑いかけてきたエメットさんに釣られるように固まってしまった表情が綻んだ。
道中は嬉しそうなエメットさんが絶えず楽しそうな話をしてくれて、予約までしてくれていたらしくあっさり席まで案内される。
「でね」
インゴさんのちょっと面白い話からポケモンの話、いろんな話をしながら、ゆっくりと食事をする。食後のドリンクを飲んでいるとき、黒い影が、エメットさんのバックの窓を横切った。
「あっ」
心臓が嫌な音を立てて、飛び跳ねる。慌ててライブキャスターの時刻を確認すると、待ち合わせより一時間早い。ノボリさん……早すぎますよ……。
「なに?後ろがどうかした?」
後ろを振り向こうとしたエメットさんを慌てて、話題を変える。
「今日、エメットさん素敵な格好ですよね」
「っ!ホント!?ありがと」
純粋に喜ばれてしまい、罪悪感がちくちくと刺してくる。
嘘じゃない、今日の私服は見たことのある私服の中でも強すぎず、地味すぎない、私の好きな感じにまとめられてる。でも、なんかごめんなさい。
「どうしたノ?大丈夫?」
「あーー、はい、ダイジョウブです」
少し心配そうなエメットさんに、がくがくと頭を上下に振って答える。後ろでいつもの帽子とは違うけど真っ黒の帽子をかぶったノボリさんが、うろうろとしている。
……心配だなあ。ソワソワしてしまう私を向かいのエメットさんが見ているのはわかっているけれど、どうしても奥でふらふらと行き場のないフワンテのようなノボリさんが気になってしまう。早く着きすぎてどこで時間をつぶそうかってなりますよね、ノボリさんのそういうところ見ると安心する。
「ネー、聞いてる?」
「聞いてます、よ?」
「モー」
エメットさんはむすっとしながらも怒ったりはせず、そのままにこにこと笑って話を続ける。上機嫌の彼だが、もうそろそろノボリさんを拾いに行かないと。
「あのね、なまえ」
「そろそろ、外出ましょうか」
「エッ、あっ、ウン?ウン」
頷いたエメットさんが、支払いをしようとしたところを止める。既に、店員さんに支払いを全額お願いしておいた私、なんて有能。
「え、なんで払ってるの?」
「今日は付き合ってくれてありがとうございました、おいしかったですね。それじゃあ」
ノンストップで頭を下げて、ノボリさんとの待ち合わせ場所の方向へ向かう。申し訳ないなあ、この埋め合わせはいつか……。
『そろそろ着きそうです』
『わたくしもそろそろ着けそうです』
いやもう着いてますもんね。
「あ、見つけた」
「なまえさま」
手を振ると嬉しそうに近寄られ、きゅっと胸を掴まれたような気持ちになる。
「開場までもうすこしありますから、少しお店に入りましょうか」
えっ、お腹いっぱいなんだけどなあ。歯切れの悪い私にノボリさんが気を使う前に、そっと手を取った。
「……えっと、せっかくだから散歩しませんか」
「是非、エスコートさせていただきます」
観覧車前の広場で待ち合わせをしていた私達はミュージカルホールへの道を遠回りをしながら、ゆっくりと歩いていた。
ノボリさんのお話は私の知らないような話が多くて勉強になるなぁと思いながら、ウィンドウショッピングのように並ぶ店を眺める。
「気になるお店がありましたか?」
「あ、いえ」
「あそこ、なんてなまえ様にお似合いでしょうね」
と指を指したのは少し可愛いよりのジュエリーショップだ。ノボリさんがあんなお店に興味があるなんて意外だ。
「確かにああいうやつは好きです」
「それは良かったです」
なにが?と首を傾げつつ、その店を素通りしようとした。
「え゛」
ノボリさんが指を指した店の隣のショップのなかに、長身の、先ほど会っていたエメットさんにそっくり人影を見つけた。服装が違う、インゴさんだ。
「なまえ様、どうかなさいましたか?」
「いや!別に!」
私の挙動不審さにノボリさんが視線を辿ろうとするのを遮るように、握った手を引っ張る。
「あそこのブティックなんてノボリさんに似合い、そ、」
体制を崩したノボリさんが一歩私に近づいて、距離がほぼゼロ距離になってしまう。ノボリさんの持つ紙袋が、さっきのジュエリーショップのショッパーだということに気がついた。
「なまえサマ?」
ノボリさんの体越しにショップから出てきたインゴさんと目があった。
冷たく目を細めたインゴさんがつかつかと距離を詰めて、ノボリさんから私をひょいと奪うように引き寄せた。
「い、インゴ様!?」
状況の読めてないノボリさんに、これ以上ないほど冷たい瞳で睨みつけているインゴさんが恐らくスラングを吐き捨てた。
「まさかノボリ、アナタがマオトコなんてする度胸がおありとは知りませんでした」
「どういう意味でしょうか」
「これからなまえサマはワタクシと共にディナーです」
「いやそれは8時からですよね、ていうか仕事は!?」
仕事あったんだと思ってたんですけど。
「今日は休暇です」
「いや、みんな休みっておかしいですよね!?」
時間差で休み取ってるんだと思ってたんですけど、もしかして今日ギアステにてつどういんさんの死体転がってなあたですよね!?
「なまえ様?何故、クダリもエメット様も休みなのを知っているんですか?」
あ、墓穴。
「なまえー!やっと見つけた!」
インゴさんの隣に立っていた私を、まるでタイミングを図ったようにクダリさんが現れて抱きしめる。
「もう!観覧車の約束ちゃんと守ってよね!」
可愛くぎゅっとされているけれど、見上げた顔は好戦的ににやりと笑顔を浮かべている。
「なまえードコ行ったのー?せめてお金は払わせて、ヨ」
カフェの方向から現れたエメットさんが花束を片手でキョロキョロと探しているところで、異様な雰囲気の集団ーーつまり私たちに気付いてしまう。
終わった。詰んだ。完璧に死んだ。
「ちょっとナニコレ」
「それはこっちのセリフでございます!」
「クダリ、離れてクダサイ」
「ぜーったい嫌」
フィールドがぜったいれいどか、ふぶきに見舞われたような幻覚を見ながら、私は白状しようと口を開いた。
「あ、なまえ」
「な、ナツキさん!」
ここは観覧車近く、このエリトレの生息地だった。神は私を見放さなかった!
「今日は俺と観覧車に乗る約束だっただろ!」
……。
「完全に忘れてたわ」
あっけからんとそう言ってしまった私に青筋を立てながらつかつかと歩いてきたナツキさんが、周りの人物に気がついて踵を返そうとする。
「待って!待って待って待って!」
「俺も忘れた、今忘れた、じゃあな」
「裏切り者おおおお!」
「なまえ」
悲痛な叫び声を上げながら、ナツキさんに手を伸ばす私の手を上から握りしめてクダリさんが耳元で名前を呼ぶ。
「ひゃっ」
「あのね、なまえ。これあげる」
クダリさんはバトルの時からずっと持っていた紙袋から大きなシビシラスぬいぐるみを取り出して、私に渡してくる。でかっ、あ、でも触り心地気持ちいい。
「なまえ、こちらを受け取ってクダサイ」
無言でクダリを押し除けたインゴさんが先ほど出てきたショップの袋を渡してくる。
「今日のディナーはこちらを着て欲しいデス」
インゴさんらしからぬ優しい動作で、私の身体に触れてくる。ぞわりと電流が通ったと思うと、インゴさんの手がはたき落とされる。
「インゴ!ジャマ!なまえ、ちょっと格好悪いから仕切り直しさせて。はい、コレ」ふわりと花の香りが鼻腔をくすぐる。エメットさんが照れたようにはにかんで、差し出した真っ白い花束はシビシラスと交換するように手の上に置かれて、埋もれそうになる。
「なまえ様、」
ノボリさんが意を決したように私を呼ぶ。
「こちらを、もらっていただけますか」
差し出されたのは、例のショッパーだ。
ここまでされて、やっと気づいた。
この4人(もう一人の逃亡者も)が図ったように、この日を選んだ理由も、差し出されたプレゼントの意味も。
「……ありがとう、ございます。素敵な誕生日になりました」
目頭が熱くなって、すんと鼻を鳴らす。
「それはそれとしてさ」
「なんでこいつらがいるのか」
「説明を」
「してくださいまし」
さすがに誤魔化せなかったらしい。
この後どうなったか、それはまた別の話である。