サブウェイマスターに夏期休業はあるのか。


「んーーーー」
目の前でプラスチックの先がスプーンになったストローで幸せそうにカキ氷を食べているのは、僕の恋人。
「やっぱり練乳イチゴははずせない!」
カキ氷を持って祭りで行き交う人の邪魔にならないように道の外れで食べている。
「そんなにおいしい?」
「はい!というかまあ雰囲気的にもサイコーですよね」
「そっか」
うれしそうななまえちゃんに僕もつられて笑ってしまう。
「クダリさんはブルーハワイですよね」
「うん、いろいろあるからちょっと迷っちゃった」
なまえちゃんがブルーハワイと迷ってたからこっちにしたんだよ、言わないけど。
「カルピスありましたよねー、私悩みましたよ、クダリさんカラーですし!」
なまえちゃんはときどき、こんな可愛いことを平気で言うから僕も気が抜けない。誤魔化すように、スプーンですくったカキ氷をなまえちゃんの前に差し出せば、嬉しそうにぱくりと食べてくれる。
「クダリさん次はなに食べたい?」
なまえちゃんが食べたい。なんておじさんみたいなことはいえないから、少し迷って目に付いた焼きそばを選択する。
「じゃあ私は……あ、ハシ巻き食べたい」
「ハシ巻き?」
聞いたことのない名称に僕が頭を傾ければ、なまえちゃんは指を指して説明してくれる。
「あれです」
焼きそばの隣の屋台に並ぶ、何かを巻いたような食べ物。
「お好み焼きの親戚です」
「へえ美味しそうだね」
「一口あげますね、じゃあそれぞれ並びましょうか」
「そうだね、隣なら迷子にはならないだろうし」
隣同士で並んでいたんだけど結構回転が速いらしいハシ巻きのほうがどんどん前に進んでく。
「お先です」
早くもハシ巻きを手にしたなまえちゃんが僕の隣に並ぶ。
「はい、どーぞアツアツです」
割り箸に巻かれたそれを口に持ってこられ、そっと口をあければ、あっつい生地が口の中に広がった。
「あっっつ」
はふはふと熱気を外に出しながら、早めに飲み込む。
「ふふ、クダリさんかわいい」
「可愛くないから!なまえちゃんの意地悪」
「ごめんなさいー、お茶あげますから」
バックからペットボトルを取り出したなまえちゃんをじとっと見ながらお茶を飲む。
「でも美味しかったから、さめてからもう一口くれる?」
「はーい」
さめてからを強調して言うと、反省してなさそうな返事が返ってくるけど、それはそれで可愛い。ずるいなあ。
僕の隣で黙々とハシ巻きを食べるなまえちゃん。あーんってちょっと大きく開けて、幸せそうに食べている。口の端についていたソースがついている。
……とってあげようかな。
「クダリさん!」
「な、なに?」
「はい、あーん」
満面の笑みでこちらにハシ巻きを向けたなまえちゃんにすこし驚く。
「あ、あーん」
不意打ちに僕はつい、控えめに口を開けてしまう。そのせいで口の周りはべたべた。
「もうそんなにあつくないですよね」
そういって僕の口から離れたハシ巻きを自分の口に持っていこうとしたなまえちゃんは、僕のほうをもう一度見る。
「な、なに?」
固まってしまった僕のほうに一歩近づいたなまえちゃんの指が僕の口をなぞる。
「ついてましたよ」
それから、ちゅっと僕の口からなまえちゃんの指に移ったソースをなめた。
それがあんまり可愛くて放心状態の僕を尻目にぺろりとハシ巻きを食べきる。
これじゃあダメだよ僕……。
「なまえちゃん!」
「なんですか?」
「ついてる、よ」
なまえちゃんの肩を掴んで、なまえちゃんの唇につくソースをなめ取った。
「ば、ばか」
うつむいたなまえちゃんに「もしかして失敗だったかな」と心配になってくる。
「チューされるかと思った」
「ご、ごめんね?」
口の端、つまりほっぺに近いところだったせいか少し不満げにも見える表情でこちらをにらんでくるなまえちゃん。
「次はたこ焼き食べるんで、よろしくお願いします」

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